治療の改善により1970年代以降の小児がんサバイバーの寿命が延長

ASCOの見解
ASCO専門医Stephen Hunger医師
「小児がん治療を受けた子どもたちがその治療のために何年も後になって病気になったり亡くなってしまうという矛盾を回避すべく、この数十年間、私たちは闘ってきました。小児がん治療を慎重に改善することによって、長期的ケアと転帰は飛躍的に改善しています。治癒率は増加し、並行してがん治療の合併症による死亡は減少しています。治療アプローチをこれからも改善し続けることで、現在のこの良好な流れが今後も続いていくことを期待しています」。

米国政府資金による「小児がんサバイバー研究」(Childhood Cancer Survivor Study)の参加者34,000人以上を対象とした解析では、30年にわたる遅発性死亡率の改善が示されている。5年サバイバーでは、診断15年目の全死亡率が12.4%から6%に低下した。この改善は、二次がんや心肺疾患といった小児がん治療の晩期合併症に伴う死亡リスクを低下させる治療に変更したことも一因である。

「50年前、小児がんの子どもは5人に1人しか生存できませんでしたが、今日では80%の子どもが診断から5年後も生存しています。ただ、こうしたサバイバーの成長とともに、心疾患や二次がんなどの晩期合併症による死亡リスクも増加しているのが現状です」と、セント・ジュード小児研究病院の小児腫瘍医であり試験主著者のGregory T. Armstrong医師は述べた。「今は、より多くの子どもたちを原発がんから救うだけではなく、先端治療の総合的毒性を減らすことで全体的寿命を延長しています」。

先行研究では、小児がんの5年サバイバーの最大18%は診断から30年以内に死亡することが示されている。死亡の主な3大原因は、原発がんの進行や再発、外的要因(事故や自殺)、その他の健康問題である。その他の健康問題として主なものは、がん治療の晩期合併症による死亡である。がんの進行や再発による死亡は時間経過とともに増加が横ばいになるが、その他の健康問題による死亡は診断後の生存1年ごとに増加する。

この試験では、1970~1999年に小児がんと診断された5年サバイバーの長期健康転帰を評価する「小児がんサバイバー研究」のデータを解析した。現在、米国およびカナダの31施設が試験に参加している。1994年に開始したコホートは米国国立衛生研究所(NIH)が助成する情報資源であり、生存に関心を持つ研究者は誰でもデータや生物検体バンクへのアクセスを依頼できる。

最新の解析では、国民死亡記録(各州の人口動態統計局で記録される死亡記録情報の中央電算化指数)を用いて小児がん5年サバイバー34,043人の死亡率を評価した。解析対象者はいずれも診断時に21歳未満であった。

主な小児がんの多くに治療縮小による大きな影響

5年サバイバーに対する追跡期間は診断後平均21年間であった。この期間に患者3,958人(12%)が死亡し、そのうち41%(1,618人)は、がん治療の晩期合併症による死亡を始めとするその他の健康問題での死亡であった。また、この21年間に全死亡率は半減した。1970年代初期に診断された患者の12.4%は診断から15年以内に死亡していたが、1990年代初期に診断された患者では6%のみであった。

同じ期間中、その他の健康問題による死亡の累積発現率は3.5%から2.1%に低下した。より最近に診断されたサバイバーでは、二次がんや心肺疾患を始めとするその他の健康問題による死亡リスクは統計学的に有意に低かった。

試験チームは、死亡率の低下は晩期合併症に伴う死亡が少なくなったこと、特にウィルムス腫瘍、ホジキンリンパ腫、急性リンパ芽球性白血病(ALL)のサバイバーに顕著であったことに注目した。この3種類すべてのがんにおいて、サバイバーの心臓死は大きく減少した。二次がんによる死亡が減少したのは、ウィルムス腫瘍のサバイバーのみであった。

こうした結果は、多くの予後良好な小児がんに対する治療の強度を弱めて医師が段階的に治療を絞り込むことによって有効性を損なうことなくもたらされている。たとえば、1970年代ではALL患者の86%が頭部放射線療法を受けていたが、1990年代では22%のみであった。また、ホジキンリンパ腫患者およびウィルムス腫瘍患者に対する放射線療法の線量も低下している。さらに、こうした3疾患に対して、心毒性と強く関連する化学療法剤アントラサイクリン系の累積投与量も減少している。

「もっとも大きな違いをもたらしたのは、おそらく最新のがん治療そのものではありますが、同じように、サバイバーへの支持療法の改善と、新規がんや心肺疾患などの晩期合併症に対するスクリーニング・検出・治療といったものも、サバイバーの寿命延長に重要な役割を担っているのです」とArmstrong医師は付け加えた。

本試験はNIHによる資金援助を受けた。

翻訳担当者 久保 優子

監修 寺島 慶太(小児血液・神経腫瘍/国立成育医療研究センター腫瘍科)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

小児がんに関連する記事

貧困層をターゲットにした小児がん治療改善プログラムの画像

貧困層をターゲットにした小児がん治療改善プログラム

ダナファーバーがん研究所の研究者らが開発した小児RISE(公平性を支援するための資源介入)と呼ばれるプログラムのパイロット試験では、がん治療を受けている子供を持つ貧困家庭を対象にその実...
がん患児が必要な支持療法を受けられるよう支援の画像

がん患児が必要な支持療法を受けられるよう支援

がん治療中の若年患者に症状について定期的に尋ねるという単純な行為によって、患者らがより良い支持療法を受けられ、つらい副作用が軽減されるようになることが、2件の新たな臨床試験結果からわか...
FDAが再発/難治性のBRAF変異陽性小児低悪性度神経膠腫にトボラフェニブを迅速承認の画像

FDAが再発/難治性のBRAF変異陽性小児低悪性度神経膠腫にトボラフェニブを迅速承認

米国食品医薬品局(FDA)2024年4月23日、米国食品医薬品局(FDA)は、BRAF融合遺伝子または遺伝子再構成、あるいはBRAF V600変異を有する生後6カ月以上の再発または難治...
小児がんサバイバーでは、遺伝的要因が二次がんリスクに影響の画像

小児がんサバイバーでは、遺伝的要因が二次がんリスクに影響

米国国立がん研究所(NCI)ニュースリリース高頻度でみられる遺伝的要因は、一般集団においてがんリスクを予測できるが、小児がんサバイバーにおける二次がんのリスク上昇も予測できる可能性があ...