2010/03/23号◆癌研究ハイライト

同号原文
NCI Cancer Bulletin2010年3月23日号(Volume 7 / Number 6)


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癌研究ハイライト

・高齢大腸癌患者の多くは補助化学療法を受けていない
・皮膚T細胞性リンパ腫の進行を遅延させる薬剤
・ホジキンリンパ腫の予測マーカーにより治療が改善されうる
・ナノ粒子を用いた療法でヒト腫瘍においてRNA干渉を誘導する

高齢大腸癌患者の多くは補助化学療法を受けていない

先週公表された報告によると、年齢群に関わらず術後化学療法によって生存期間が改善されることを示す臨床試験のデータがあるが、大腸癌病期IIIの75歳以上の患者のうち術後化学療法を受けているのは半数に過ぎない。高齢患者に関する臨床試験が限られていることや毒性への懸念が、75歳以上の患者が有益となりうる治療を必ずしも受けるわけではない理由としてしばしば挙げられている。しかし、今回の試験では、化学療法を受けた高齢患者では有害事象の発現率は若年患者と同程度であった。Journal of the American Medical Association(JAMA)3月17日号に発表された本試験は、NCI支援のCancer Care Outcomes Research and Surveillance(CanCORS)プログラムの一部である。

試験の共著者であるハーバード大学医学部のDr. Robert H. Fletcher氏のJAMA主催記者会見での談話によると、本結果により、医師は高齢患者に対して補助化学療法をより真剣に考慮するようになり、また、高齢患者を対象とした臨床試験の開発が推進されるであろう。

本試験を実施するため、RAND Corporation社のDr. Katherine L. Kahn氏らは、病期III大腸癌と診断されて2003〜2005年に米国の医療機関で治療を受けた患者675人のデータを分析した。全般的に、患者の75%は何らかの補助化学療法を受けていたが、75歳以上の患者202人のうち同治療を受けていたのは、若年患者での87%に対して50%に過ぎなかった。補助化学療法を受けていた高齢患者では健康状態が良好な傾向にあったが、低用量で化学療法を受ける割合と早期に治療を中止する割合がより高かった。しかし、Fletcher氏によると、若年患者と高齢患者との間で異なる因子(用量や化学療法の種類など)について調整したところ、実際には、高齢患者では有害事象の発現率が若年患者よりも低かった。

Fletcher氏によると、高齢患者で化学療法の使用が限られている原因の一部は「賢明な臨床的判断」にあると考えられるが、本試験結果は「一部は過少治療であるという可能性を高めるものである」。

皮膚T細胞性リンパ腫の進行を遅延させる薬剤

皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL:皮膚に発生する非ホジキンリンパ腫の一種)を治療するためのdenileukin diftitox(ONTAK)に関するランダム化試験において、無増悪生存期間の中央値は、本剤を投与された患者で2年間超であった一方、プラセボを投与された患者では4カ月強であった。本剤を製造する製薬会社Eisaiが資金提供して行われた本試験の結果は、Journal of Clinical Oncology誌に3月8日付けで発表された。

Denileukin diftitox(DD)は、免疫系により産生されるタンパク質であるヒトインターロイキン2(IL-2)に結合するジフテリア菌の毒素から成る。IL-2は選択的にCTCL細胞と結合し、腫瘍に毒素を送達させる。

メルボルン大学(オーストラリア)のDr. H. Miles Prince氏が率いる国際研究グループは、CTCLに対する治療歴が3回以下の患者144人を本試験に登録した。参加者は、DDの異なる用量2種類(9 µg/kg/dayまたは18 µg/kg/day)のうちの1種類またはプラセボの投与を受けた。

各治療コースでは静脈内注射1日1回を5日間行った後に16日間休薬することとし、これを8コース(約6カ月)まで実施した。疾患進行や忍容できない副作用が認められた場合は治療を中止した。

全奏効率(完全または部分的な腫瘍退縮)は、高用量DD投与群で49.1%、低用量DD投与群で37.8%、プラセボ群で15.9%であった。高用量DDを受けた患者では、プラセボを受けた患者と比較して疾患進行や死亡のリスクが73%低下した。高用量DDを受けた患者で副作用がより多く報告されたが、重篤な毒性作用の発現率はいずれの投与群でも比較的低かった。

ホジキンリンパ腫の予測マーカーにより治療が改善されうる

再発の可能性が高く治療初期に積極的療法から利益を得られるホジキンリンパ腫患者を特定する生物学的マーカーが発見された。同バイオマーカーは、患者のリンパ節の組織に存在するCD68-陽性マクロファージという白血球の数である。New England Journal of Medicine誌3月11日号に掲載された報告によると、このマーカーに関する検査は臨床現場で容易に取り入れられると考えられる。

ブリティッシュ・コロンビアがん研究機関(British Columbia Cancer Agency)のDr. Christian Steidl氏らが患者約300人の腫瘍検体を分析したところ、腫瘍関連マクロファージの数の増加と生存期間の短縮との間で強い関連性が認められた。

共著者であるNCI癌研究センターのDr. Louis Staudt氏は、「これらの結果によって、リスクの高いホジキンリンパ腫患者のみを登録する臨床試験をデザインできるようになり、その結果、これらの腫瘍の異常な制御経路を標的とした新規治療法の試験や検証を促進させることができる」と述べた。

ホジキンリンパ腫患者の約75〜80%は初期治療で治癒するが、それ以外の患者では再発する。付随論評によると、治療への反応を予測するためのマーカーがなかったため、治療の進歩は20年間停滞していた。同付随論評の著者であるエールがんセンターのDr. Vincent DeVita氏とDr. Jose Costa氏によると、このようにマーカーがないことはホジキンリンパ腫患者の多くに対する過剰治療の一因ともなる。

結論として同氏らは、「特に予後不良(病期に関わらず)な患者を選択して、この治癒可能な癌をより論理的に治療できる積極的治療が可能になることから、この新しい所見によってわれわれの望んでいた進展が得られるであろう」と述べている。

ナノ粒子を用いた療法でヒト腫瘍においてRNA干渉を誘導する

初期段階の臨床試験にて、RNA干渉(RNAi)という機序を介して腫瘍細胞内のタンパク質の産生を阻害することを目的とした実験的療法が有望であると判明した。Natureオンライン版に3月32日付けで報告された所見によると、細胞ではRNAiによって遺伝子の活性が制御されているが、患者の癌細胞内においてこの機序を用いて遺伝子の不活性化が可能となるかもしれない。

黒色腫患者3人を対象とした‘概念実証’試験では、標的化ナノ粒子を血液に注射し、低分子干渉RNA(siRNA)分子を腫瘍に送達させた。これらのナノ粒子は、癌細胞によって高レベルで発現しているトランスフェリン受容体に結合するようデザインされており、リボヌクレオチド還元酵素2(RRM2)のサブユニットを標的とするsiRNAを含んでいた。このタンパク質は、DNA複製に関与し、癌治療の重要な標的である。

患者の腫瘍を分析したところ、siRNAは細胞内に入るとRRM2タンパク質のメッセンジャーRNAを破壊することにより同タンパク質の産生を阻害した。また、高用量のナノ粒子を投与すれば腫瘍内のナノ粒子数が増加するという、ナノ粒子の用量依存的な集積が認められた。標的化ナノ粒子の用量依存的な集積がヒト腫瘍内で認められたのは今回が初めてである。6月の米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で本試験の臨床結果が発表される予定である。

主要試験責任医師であるカリフォルニア工科大学のDr. Mark Davis氏は、「われわれはパズルの2つのピースを確認することができた。これらのピースとはすなわち、送達媒体が想定の場所に送達したこと、観察された結果がRNAiの機序を介して起こったことである」と述べた。同氏の研究チームは、10年以上のあいだ本プロジェクトに取り組んできた。一番の難題は、体内では急速に分解するsiRNAの送達方法を見つけることであった。

NCI癌のナノテクノロジー共同体のプログラム主任であるDr. Piotr Grodzinski氏は、「本試験により分解しやすい物質を送達させる有効な方法が明らかとなり、治療的送達におけるナノテクノロジーの利用について非常に重要な適応が示された。ナノ粒子はsiRNAを送達させるための限られた有効な方法の1つとなりうる」と述べた。

その他の種類の癌を伴う患者が、Davis氏創設の会社であるCalando Pharmaceuticals社が資金提供する臨床試験に参加している。腫瘍の分析については、NCIが一部支援した。

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斉藤 芳子 訳
吉原 哲(血液内科・造血肝細胞移植/兵庫医科大学病院)監修 

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