セツキシマブのFDA承認
商品名:Erbitux[アービタックス]
K-ras変異陰性(野生型)でEGFR陽性の転移性大腸がんへの承認 2012年7月6日
臨床試験情報、安全性、投与量、薬物間の相互作用および禁忌などの全処方情報はFull prescribing information で参照できます。
K-ras変異陰性(野生型)でEGFR陽性の転移性大腸がん
2012年7月6日、米国食品医療品局は、同局が認めた方法でK-ras変異陰性(野生型)でEGFR陽性の転移性大腸がん(mCRC)と診断された患者の一次治療に、セツキシマブ(Eli Lilly and Co社の子会社ImClone LLC社製のアービタックス)とFOLFIRI(イリノテカン、5-FU、ロイコボリン)の併用療法を承認しました。FDAは今回のセツキシマブの承認と同時に、Therascreen KRAS RGQ PCR キット(QIAGEN Manchester社)も承認しました。
この承認は、CRYSTAL試験と、2つの補足的な試験(CA225025とEMR 62 202-047[OPUS])に参加した患者から採取した腫瘍サンプルの、K-ras の変異の有無に応じて行われたレトロスペクティブ解析に基づいています。化学療法やベストサポーティブケア(BSC;支持療法)にセツキシマブを追加することによって、Kras変異のない患者で全生存期間(OS)や無増悪生存期間(PFS)、および奏効率(ORR)が改善しました。一方、K-ras変異を有する腫瘍の患者では、効果も予想される有害事象すらもみられませんでした。コンパニオン診断検査QIAGEN Therascreen KRAS RGQ PCR キットの承認によって、これらの患者群を、信頼性のある方法で識別することが可能になりました。遺伝学的解析の一つであるこのQIAGEN 検査は、サンプル中のK-ras遺伝子に起こった7つの異なる変異を発見するリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応測定法です。この解析でK-ras変異陰性であった腫瘍は一般的にK-ras野生型と呼ばれます。
CRYSTAL試験は、転移性がんに対する化学療法を受けていないEGFR陽性の転移性大腸がん患者を対象とした非盲検ランダム化比較試験です。総勢1217人の患者をK-ras変異の有無に関わらず、セツキシマブとFOLFIRI併用群、もしくはFOLFIRIのみの治療群のいずれかに無作為に 割りつけました(1:1)。無増悪生存期間を、有効性の主要評価項目としました。
全体では、FOLFIRIのみの治療群患者に比べ、セツキシマブとFOLFIRIとの併用治療を受けた患者に、統計学的に有意な無増悪生存期間の延長が確認されました[無増悪生存期間中央値が8.9カ月対8.1カ月、HR 0.85、(95%CI: 0.74、0.99)、p-value=0.036]。計画書に則った解析では、副次的評価項目である全生存期間については、統計学的に有意な延長は見られませんでした[HR 0.93、( 95%CI: 0.82、1.07)、 p-value 0.327、 全死亡数838人]。全死亡症例162人 が加わった最新の解析では、FOLFIRIのみの治療群患者の全生存期間中央値は18.5カ月であったのに対し、セツキシマブとFOLFIRIとの併用治療群の患者では19.6カ月でした[HR 0.88(95%CI: 0.78、 1.00) ]。
K-ras遺伝子の変異を検出するために腫瘍組織が評価できたのは89%の患者(N=1079/1217)で、676人(63%)は野生型で、403人(37%)は変異型でした。有効性を評価するためのレトロスペクティブ解析によって、FOLFIRIとセツキシマブの併用が、K-ras 野生型患者の全存生存期間、無増悪生存期間、および奏効率に好ましい効果をもたらすことが示されました。
野生型の患者では、FOLFIRIのみの治療群患者の全生存期間中央値が19.5カ月であったのに対し、FOLFIRIにセツキシマブを併用した群の患者の全生存期間中央値は23.5カ月でした[HR 0.80 (95%CI: 0.67、0.94) ]。K-ras野生型の患者群における無増悪生存期間と奏効率に関する結果は、FOLFIRIとの併用におけるセツキシマブの効果を裏づけました。K-ras野生型で、FOLFIRIのみを受けた患者の無増悪生存期間中央値が8.1カ月であったのに比べ、FOLFIRIにセツキシマブを併用した患者の無増悪生存期間中央値は9.5カ月でした[HR 0.70(95%CI: 0.57、0.86) ]。K-ras野生型の患者では、FOLFIRIのみを受ける患者の奏効率が39%であったのに比べ、FOLFIRI+セツキシマブ併用群の奏効率は57%でした。K-ras変異型の患者ではFOLFIRI単独群と、FOLFIRI+セツキシマブ併用群の間に、全生存期間や無増悪生存期間、および奏効率の改善に関する違いは確認されませんでした。
CA225025 とOPUSという二つの補助的な試験で、腫瘍のK-ras遺伝子変異の有無に基づいて行われたレトロスペクティブ解析により、野生型サブグループにおけるセツキシマブの有効性が裏づけられました。
- CA225025試験は、EGFR陽性の転移性大腸がんの治療歴がある患者で、セツキシマブをベストサポーティブケア(BSC:支持療法)と併用した群と、支持療法単独群とを比較して行われた非盲検ランダム化試験でした。CA225025試験は、支持療法単独群に比べてセツキシマブ+支持療法併用群では、統計学的に有意な全生存期間の延長があったことを証明しました。 計画された有効性と同じ結果が出たことでセツキシマブは、イリノテカンとオキサリプラチンをそれぞれベースとするレジメンがともに奏功しなくなった後のEGFR陽性の転移性大腸がん、またはイリノテカン・ベースのレジメンに対する忍容性を持たないEGFR陽性の転移性大腸がんに対する単剤治療として、2007年10月に全面的に認可されました。
腫瘍組織のK-ras 変異状態の評価が可能であった患者は79%でした(N=453/572)。K-ras野生型のサブグループにおいて、セツキシマブを併用した支持療法群では、支持療法単独群に比べて全生存期間が延長しました[HR 0.63 (95%CI: 0.47、0.84) ]。セツキシマブ+支持療法併用群と支持療法単独群のそれぞれの全生存期間中央値は8.6カ月と5.0カ月でした。無増悪生存期間中央値は、セツキシマブ+支持療法併用群と支持療法単独群でそれぞれ3.8カ月と1.9カ月でした[HR 0.42(95%CI: 0.32、0.56) ]。K-ras変異型の患者では、セツキシマブ+支持療法併用群の全生存期間や無増悪生存期間、および奏効率は、支持療法単独群と比べてもその改善は確認されませんでした。
- OPUS試験は、EGFR陽性の転移性大腸がんの一次治療で、5-フルオロウラシルやフォリン酸、およびオキサリプラチン(FOLFOX-4)にセツキシマブを併用する群と、FOLFOX-4単独群とを比較する第2相ランダム化非盲検試験です。レトロスペクティブにK-ras 変異解析のために腫瘍組織の評価が可能であったのは93%の患者でした(N=315/337)。試験の主要評価項目は奏効率としました。野生型サブグループ(N=179/315, 57%)での奏効率は、FOLFOX-4単独群の34%(95%CI: 25、44)に比べて、FOLFOX-4とセツキシマブの併用群では57%(95%CI: 46、68)でした。野生型の患者において無増悪生存期間の改善が示されました[HR 0.57(95%CI: 0.38, 0.86)]。無増悪生存期間中央値は、FOLFOX-4単独群の7.2カ月に比べて、FOLFOX-4とセツキシマブの併用群では8.3カ月でした。
野生型の患者では、全生存期間の改善も確認されました[HR 0.86 (95% CI: 0.60、1.22) ]。FOLFOX-4単独群の全生存期間中央値が18.5カ月であったのに対し、セツキシマブとFOLFOX-4の併用群では22.8カ月でした。K-ras変異型サブグループ(N=136/315、43%)のFOLFOX-4とセツキシマブの併用群では、FOLFOX-4単独群と比較しても全生存期間、無増悪生存期間、および奏効率の改善は認められませんでした。
安全性データは、CRYSTAL試験でセツキシマブをFOLFIRIと併用されたK-ras野生型サブグループの患者317人と、CA225025試験でセツキシマブ単剤療法を受けた野生型腫瘍患者118人で評価されました。
CRYSTAL、CA225025、およびOPUS試験のK-ras野生型群において確認された有害事象の頻度と性質は、セツキシマブ投与に伴うもの(痤瘡様発疹、インフュージョンリアクション[注入時の反応] 、心臓イベント、低マグネシウム血症)を含めて、セツキシマブや化学療法薬、および基礎疾患の薬物有害反応と一致していました。このことについては野生型と変異型、および安全性解析対象集団全体との間に、有意な差はみられませんでした。
セツキシマブは初回投与で400 mg/m2を120分で静脈内投与し、その後は250 mg/m2を週に1回、30分かけてFOLFIRIと併せて注入することが推奨されます。セツキシマブの投与はFOLFIRI投与の1時間前に終了していなければなりません。
セツキシマブの製品ラベルには、セツキシマブがK-ras変異型大腸がんの治療には使用されないことを記述した、「使用上の制限」に関する情報が提供されます。
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新保孝史 翻訳
野長瀬祥兼(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院) 監修
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再発・転移性頭頸部がん
米国食品医薬品局(FDA)は2011年11月7日、局所再発 ・転移性頭頸部扁平上皮がん(SCCHN)患者の一次治療として、プラチナ製剤ベースの治療+フルオロウラシル(5-FU)との併用でセツキシマブ(アービタックス 、イーライリリー社の完全子会社であるImClone LLC社製造)を承認しました。
この承認は主に、外科手術または放射線による根治療法に適さない転移性・局所再発頭頸部がん患者442人を対象として米国外で行われた多施設共同臨床試験結果に基づくものでした。この試験では、米国の承認を受けたセツキシマブ(アービタックス)ではなくヨーロッパ連合(EU)の承認を受けたセツキシマブを主に使用しました。米国承認のアービタックスは、EU承認のセツキシマブと比較して曝露量が約22% 高くなっています。このような薬物動態データと、ヨーロッパで行われた試験結果およびアービタックスを使用した他の臨床試験データを併せて評価することによって、推奨用量のアービタックスの安全性および有効性が確立されます。
試験には442人の患者が参加しました。そのうち222人の患者がセツキシマブ+シスプラチン(またはカルボプラチン)+5-FU併用群、220人の患者がシスプラチン(またはカルボプラチン)+5-FU併用群に無作為に割り付けられました。シスプラチンかカルボプラチンかの選択は医療従事者の判断に委ねられました。
シスプラチン(100 mg/m2を第1日目に静脈内投与)またはカルボプラチン(AUCが5 mg・min/mL となるよう第1日目に静脈内投与)+5-FU(1,000 mg/m2/日を第1~4日目に連続静脈内投与)の併用療法が3週間毎(1サイクル)に行われました。疾患進行または許容できない毒性がみられるまで最大で6サイクルの投与が行われました。セツキシマブ群に無作為に割り付けられた患者では、セツキシマブが初回投与量400 mg/m2で静脈内投与されたのち、250 mg/m2/週で静脈内投与されました。計画された6コースの終了後、セツキシマブ+化学療法の併用によって少なくとも病勢安定が得られた患者には、疾患進行または許容できない毒性がみられるまでセツキシマブ単独治療(250 mg/m2/週)が続けられました。
442人の患者の年齢中央値は57歳で、90%が男性、98%が白人、そして88%において治療開始時のカルノフスキー・パフォーマンススコアが少なくとも80点でした。原発巣は患者の34%に中咽頭腫瘍、25%に喉頭腫瘍、20%に口腔腫瘍、14%に下咽頭腫瘍がみられました。患者の53%に転移のない再発疾患がみられ、残りの47%に再発の有無を問わず転移性疾患がみられました。
64%の患者が初回治療としてシスプラチンを投与された一方、34%の患者がカルボプラチンを投与されました。治療期間中、約15%の患者がシスプラチンからカルボプラチンに変更しました。
試験の有効性の主要評価項目は全生存期間(OS)でした。他の評価項目には、無増悪生存期間(PFS)や客観的奏効率(ORR)などがありました。
全生存期間分析時の追跡期間中央値はセツキシマブ+化学療法併用群で19.1カ月であったのに対し、化学療法単独群では18.2カ月でした。セツキシマブ+化学療法併用群では化学療法単独群に比べて全生存期間が有意に延長しました(HR=0.80; 95%CI: 0.64、0.98; p = 0.034、層別ログランク検定)。生存期間中央値はセツキシマブ+化学療法併用群で10.1カ月であったのに対し、化学療法単独群では7.4カ月でした。
無増悪生存期間も セツキシマブ+化学療法併用群で有意に延長しました(HR=0.57; 95%CI: 0.46、0.72; p
プラチナ製剤ベースの初回治療(シスプラチンまたはカルボプラチン)によっていくつかの患者の腫瘍タイプで探索的解析が行われました。EU承認のセツキシマブ+シスプラチン+5-FU併用群(N=284)とシスプラチン+5-FU群(化学療法単独群)を比較すると、全生存期間(OS)中央値の差は3.3カ月あり、OS中央値がセツキシマブ群で10.6カ月であったのに対し、化学療法単独群では7.3カ月でした[HR 0.71(95%CI: 0.54、0.93)]。無増悪生存期間(PFS)中央値の差は2.1カ月であり、PFS中央値がセツキシマブ群で5.6カ月であったのに対し、化学療法単独群では3.5カ月でした[HR 0.55(95%CI: 0.41、0.73)]。客観的奏効率はセツキシマブ群で39%であったのに対し、化学療法単独群では23%でした[OR 2.18(95%CI: 1.29、3.69)]。
セツキシマブ+カルボプラチン+5-FU併用群(N=149)とカルボプラチン+5-FU群(化学療法単独群)を比較すると、全生存期間(OS)中央値の差は1.4カ月であり、OS中央値がセツキシマブ群で9.7カ月であったのに対し、化学療法単独群では8.3カ月でした[HR 0.99(95%CI: 0.69、1.43)]。無増悪生存期間(PFS)中央値 の差は1.7カ月であり、PFS中央値がセツキシマブ群で4.8カ月であったのに対し、化学療法単独群では、3.1カ月でした[HR 0.61(95%CI: 0.42、0.89)]。客観的奏効率はセツキシマブ群で30%であったのに対し、化学療法単独群では15%でした[OR 2.45(95%CI: 1.10、5.46)]。
セツキシマブ群で最も頻繁に(少なくとも25%に)みられた有害反応には、悪心、貧血、嘔吐、好中球減少症、発疹、無力症、下痢および食欲減退などがありました。結膜炎がセツキシマブ群の10%にみられました。セツキシマブによって起こり、重症化することがある有害反応には他に、インフュージョンリアクション(注入時の反応) 、低マグネシウム血症、低カルシウム血症および低カリウム血症などがありました。心血管イベントによる死亡または突然死がセツキシマブ群の3.2%にみられたのに対し、化学療法単独群では1.9%でした。医療従事者は、セツキシマブ投与期間中および投与後に、血清マグネシウム、血清カリウムおよび血清カルシウムなどの血清電解質を注意深く監視する必要があります。
アービタックスは、初回投与量400 mg/m2、その後は250 mg/m2/週の静脈内投与が、シスプラチンまたはカルボプラチンと、5-FU持続投与との併用で承認されました。
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寺本瑞樹訳
野長瀬祥兼(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)監修
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頭頸部がん
2006年3月1日、FDAは、局所的または局部的に進行した頭頸部扁平上皮がん(SCCHN)に対して放射線治療(RT)との併用治療、あるいは白金系化学療法に奏効せず、再発または転移をきたしている頭頸部扁平上皮がんに対する単剤治療として、セツキシマブ(アービタックス、イムクローン社製)を認可しました。
この認可は、放射線療法とセツキシマブ併用と放射線療法単独とを比較した場合、全生存率および局所制御期間において、統計学的に有意な改善がみられたことに基づいています。セツキシマブの安全性および有効性は、進行した頭頸部扁平上皮がんの二次治療または三次治療としてセツキシマブを単独投与すると客観的な腫瘍縮小効果 が持続してみられることで、裏づけられています。
放射線療法とセツキシマブ併用療法の安全性および有効性は、治療をこれまで受けたことがない中咽頭、下咽頭、喉頭のIII期またはIV期の扁平上皮がん患者424人を対象とした第3相ランダム化比較試験 で実証されました。患者は、セツキシマブと放射線併用療法(211人 )、あるいは放射線療法単独(213人)に無作為に割り付けられました。
セツキシマブは、初回に400 mg/m2、続いて放射線療法施行期間(6、7週間)中週1回250 mg/m2の投与を放射線療法を行う1週間前から開始されました。放射線療法は、6、7週間、1日1回または2回照射、あるいは同時追加照射されました。
生存期間中央値は、放射線療法単独群29.3カ月に対し、セツキシマブ/放射線療法併用群で49カ月でした[層別ログランク検定p=0.03、ハザード比0.74(95%CI 90.56 (翻訳注;0.57の誤り) 、0.97)]。局所制御期間の中央値は、放射線療法単独群の14.9カ月に対して、セツキシマブと放射線療法併用群は24.4カ月でした。[層別ログランク検定p=0.005、ハザード比0.68、95%CI(0.52、0.89)]。観察された効果は、主としてアメリカ合衆国内で登録された患者に限られていました。
追加のデータは、白金系化学療法が効かなくなった後に頭頸部扁平上皮がんが再発または転移している患者103人の単一治療群によるセツキシマブ単剤療法の臨床試験から得られました。全体の80%の患者は転移がみられました。患者には、400 mg/m2初期投与を行い、続いて1週間に1度250 mg/m2の投与が行われました。その結果、セツキシマブ単剤療法の奏効率は、12.6%で(95%CI 7%~21%)、奏効期間の中央値は、5.8カ月でした(95%CI 2.9、5.8)。
両治療群で報告された最もよくみられた有害事象は、口内炎および放射線皮膚炎でした。重篤な口内炎、放射線皮膚炎、およびアレルギーまたはアナフィラキシー様反応の発生率は、放射線療法単独群と比較すると、放射線療法とセツキシマブ併用治療群で2%超増加しました。インフュージョンリアクション (注入時の反応)、心肺停止または突然死、ざ瘡様発疹などの重篤な有害反応がセツキシマブと放射線療法併用群でみられ、死亡に至った事象もありました。
放射線による遅発性毒性の全発生率は、放射線療法単独に比べてセツキシマブと放射線療法併用治療で(いずれのグレードにおいても)高い結果を示しましたが、グレード3または4の放射線による遅発性毒性の発生率は、2つの治療群で概ね類似していました。
頭頸部の局所進行扁平上皮がん患者を対象としたシスプラチン、セツキシマブおよび放射線療法の併用療法の単群臨床試験において、死に至ったり、重篤な心毒性がみられました。セツキシマブ、放射線療法、およびシスプラチンの併用療法は、毒性を明確に評価することができる対照群を置いた比較試験 以外では使用を避ける必要があります。
頭頸部扁平上皮がん患者に行われたセツキシマブ単剤療法に関する有害事象は、先述されたセツキシマブに関する有害反応と概ね 一致していました。インフュージョンリアクション、間質性肺疾患、ざ瘡様発疹、低マグネシウム血症などの重篤な副作用がセツキシマブの安全性に関するデータベースで報告されており、死亡に至った事象の報告もあります。
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Yucca訳
榎本裕(泌尿器科)監修
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大腸がん
2004年2月12日に、米国食品医薬品局(FDA)は、上皮増殖因子受容体(EGFR)に対するモノクローナル抗体であるcetuximab[セツキシマブ](アービタックス、Imclone Systems社製造)を承認しました。セツキシマブは、イリノテカンをベースにした化学療法に抵抗性の患者のEGFR陽性の転移性大腸がんに対して、イリノテカンとの併用治療における使用を承認されました。
セツキシマブは、イリノテカンをベースにした化学療法に忍容性のない患者のEGFR陽性の再発性転移性大腸がんに対する単独使用の薬剤としても承認されました。
セツキシマブはヒトEGFRの細胞外ドメインと特異的に結合する組み換え型ヒト・マウスキメラIgG1モノクローナル抗体です。セツキシマブは正常細胞と腫瘍細胞にある上皮増殖因子受容体(EGFR、HER1、c-ErbB-1)と特異的に結合します。そして、上皮増殖因子(EGF)やトランスフォーミング成長因子αなどのような他のリガンドとの結合を競合的に抑制します。
セツキシマブとEGFRとの結合が受容体関連キナーゼのリン酸化と活性化を防ぎ、細胞の増殖を抑制し、アポトーシスを誘導し、マトリックス・メタロプロテアーゼや血管内皮増殖因子の産生を減少させます。EGFRは皮膚や毛包を含む多くの正常上皮組織に恒常的に発現しています。 EGFRの過剰発現はまた、大腸がんを含む多くのヒトのがんにおいて検出されます。
イリノテカンとの併用あるいは単独療法でのセツキシマブの推奨投与量は、初回投与量として(初回の注入のみ)400 mg/m2で、120分間で静注されます。推奨される1週間毎の維持投与量は、250 mg/m2を60分間で静脈内投与です。
H1拮抗薬の前投薬が推奨されます。重度のインフュージョンリアクション(注入時の反応)に対する治療のために適切な医療資源がセツキシマブの注入中に準備されていなければなりません。軽度~中程度のインフュージョンリアクションにはセツキシマブの投与速度を下げなければなりません。重度のインフュージョンリアクションに対してはセツキシマブ投与を中止しなければなりません。投与量を減らすことはまた、中程度あるいは重度の皮膚毒性に対して推奨されます。
セツキシマブの有効性と安全性を確立するデータは、主に329人の患者に行われた多施設ランダム化比較臨床試験の結果から得られたものです。患者はそれぞれ無作為にセツキシマブとイリノテカンの併用(218人)、あるいはセツキシマブ単独(111人)の投与を受けました。
裏づけとなるデータはセツキシマブとイリノテカンの非盲検単群臨床試験(138人)と、セツキシマブ単独療法の非盲検単群臨床試験(57人)から得られました。全ての試験にはEGFRを発現している(スクリーニングされたがん細胞の75~82%は陽性)、再発性転移性大腸がん患者が登録されました。全ての患者にイリノテカンの投与歴があり、ランダム化臨床試験の症例の3分の2、そして裏付けとなる臨床試験の症例の半分において、適切なスケジュールでイリノテカンを投与中あるいは投与30日以内に病勢の進行が認められていました。
ランダム化臨床試験において、38%の患者はオキサリプラチンの投与歴もありました。臨床的有用性の判定は、生存率に対する効果については根拠はないものの、長期にわたって奏効するという根拠によっています。全奏効率は、セツキシマブとイリノテカンとの併用群で23%であり、奏効期間の中央値は5.7カ月でした。セツキシマブ単独治療群の全奏効率は12%で、奏効期間の中央値は4.1カ月でした。
無増悪期間の中央値は併用療法を受けた患者で有意に長くなりました(4.1対1.5カ月)。同様の結果が、セツキシマブとイリノテカン併用での単群臨床試験(全奏効率15%、奏効期間中央値6.5カ月)と、セツキシマブ単独治療での単群臨床試験(全奏効率9%、奏効期間中央値1.4カ月)においても観察されました。
セツキシマブ単独治療あるいはイリノテカンとの併用での臨床試験において観察された最も重篤な有害反応は、インフュージョンリアクション(3%)、皮膚毒性(1%)、間質性肺疾患(0.5%)、発熱(5%)、敗血症(3%)、腎機能障害(2%)、肺塞栓(1%)、脱水(セツキシマブとイリノテカンとの併用投与を受けた患者の5%、セツキシマブ単独投与を受けた患者の2%)、下痢(セツキシマブとイリノテカンとの併用投与を受けた患者の6%、セツキシマブ単独投与を受けた患者の0%)でした。
セツキシマブとイリノテカンとの併用投与を受けた患者の37人(10%)とセツキシマブの単独治療を受けた患者の14人(5%)は主に有害事象により治療を中止しました。
セツキシマブとイリノテカンとの併用投与を受けた患者354人で最もよくみられた有害事象は、ざ瘡様発疹(88%)、無力症あるいは倦怠感(73%)、下痢(72%)、嘔気(55%)、腹痛(45%)や嘔吐(41%)でした。
セツキシマブ単独投与を受けた279人の患者で最もよくみられた有害事象は、ざ瘡様発疹(90%)、無力症あるいは倦怠感(49%)、発熱(33%)、嘔気(29%)、便秘(28%)、下痢(28%)でした。
2007年10月2日、米国食品医薬品局(FDA)は、イリノテカンとオキサリプラチンをそれぞれベースにした化学療法がいずれも無効であったEGFR陽性の転移性大腸がん(mCRC)患者の治療に、セツキシマブ単独療法の適応追加を通常承認しました。セツキシマブは当初、迅速承認規定のもとに2004年に承認されており、下記の臨床試験がこの患者集団でのセツキシマブ単独療法の臨床効果を証明しています。
通常承認への変更を裏付けた試験は、イリノテカンおよびオキサリプラチンをそれぞれベースとした化学療法をいずれも受けた後に病勢進行したEGFR陽性のmCRC患者を対象に、NCIカナダ(NCIC)が実施した非盲検多国籍試験です。
患者572人をBSC(ベスト・サポーティブ・ケア;支持療法)群と、支持療法にセツキシマブ治療を加えた群に(1:1の割合で)無作為に分けました。セツキシマブは点滴静注による初回投与量を400 mg/m2、その後は週1回250 mg/m2を病勢進行が認められるまで投与しました。セツキシマブ投与群の患者は、支持療法群の患者に比べ、全生存期間(OS)が統計学的に有意に延長しました(OS中央値6.1カ月対4.6カ月、ハザード比0.766、p = 0.0048、層別ログランク検定)。(NCIC中央判定により)腫瘍縮小効果が確認されたのはいずれもセツキシマブ群の患者(6.6%)でした。奏効期間中央値は5.5カ月であり、すべて部分奏効でした。
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Sugiura翻訳、ギボンズ京子一部翻訳更新
榎本裕(泌尿器科)監修
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この薬剤情報のサマリーは、FDA抗腫瘍薬製品室長のRichard Pazdur医師により作成されています。米国食品医薬品局(FDA)とは米国保健社会福祉省(HHS)の一部門で、新薬その他の製品の安全性と有効性を確保するための機関です。 (FDA:医薬品・医療機器の承認方法の理解(原文)を参照。FDAの使命は、安全かつ有効な製品の迅速な市場流通を促し、流通後も継続的に製品の安全性を監視することによって、国民の健康を守り、推進することです。 |
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