遺伝子検査でがんリスクを調べる

2016年5月 Cancer.Net編集委員会承認

遺伝子検査は、遺伝子、染色体、またはタンパク質の特定の変化を探すことにより、生涯がんにかかる確率を推定する手助けをしてくれます。この変化は変異と呼ばれます。

遺伝子検査には、乳がん、卵巣がん、大腸がん、甲状腺がん、その他のがんを対象としたものがあります。遺伝子検査は次のことがらに役立ちます。
・特定の疾患にかかるリスクの予測
・自分の子供に受け継ぐかもしれない、がん罹患リスクが高まる遺伝子を持っているか否かの確認
・通常より頻回にがん検診を受診するか、リスク軽減のための手段を講じるなど、通常より高いがん罹患リスクの管理

いずれの遺伝子検査も、確実にがんを発症すると断定することはできません。しかし、検査によって、がんの発症リスクを推定することが可能です。

遺伝子変異を有する人のうち、がんを発症するのは一部に限られます。例えば、乳がんに罹患する確率が75%の女性であっても、生涯病気を発症することはないかもしれません。その一方で、乳がんに罹患する確率が25%の女性が乳がんを発症する可能性もあります。

【遺伝性腫瘍の危険因子】
遺伝性腫瘍とは、がんの種類を問わず、遺伝子変異が原因のがんを指します。リスクを抱えている可能性を示す因子としては、以下のようなものがあります。

がん家系 
父方または母方の親戚のうち、3人以上が同じまたは関連する種類のがんに罹患した場合。
若年性がん  
親戚のうち、2人以上が若い年齢でがんと診断された場合。がんの種類によって若い年齢の定義が異なることがあります。
複数のがん
一人の親戚が2種類以上のがんに罹患した場合。

【がん遺伝子検査を検討すべき理由】
遺伝子検査は、さまざまな理由で、自己判断によって行われるものです。なお、これは複雑な判断なため、複数の意見を考慮して行うのが最善の方法です。決断に至るまでの過程において、家族、主治医、および遺伝カウンセラーに相談しましょう。

米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、以下の場合に遺伝子検査を検討することを推奨しています。

・がんの遺伝的原因を示唆する病歴または家族歴がある場合。
・検査が特定の遺伝的変化を明らかにできる場合。

検査結果は、遺伝子疾患やがんの診断、または管理に役立ちます。たとえば、リスクを軽減するため、手術、薬物治療、頻回な検診、または生活習慣の見直しなどの手段を選択することができます。

また、ASCOは、遺伝子検査の前および後に遺伝カウンセリングを受けることを推奨しています。ASCOの最新の推奨内容については、genetic testing for cancer susceptibility(がん発症リスク評価のための遺伝子検査)をご覧ください。

【その他の留意点】
遺伝的検査には限度があり、感情に影響も与えます。
うつ症状、不安感、または罪悪感 
検査結果が陽性だった場合、遺伝子変異が存在することを意味します。この結果によって困難な感情を抱くようになるかもしれません。たとえ生涯がんを発症しなくても、自分は病気だと思う人がいるかもしれません。また、家族に遺伝子変異を持っている人がいて、自分が持っていない場合、罪悪感に苛まれる人がいるかもしれません。

家族内の緊張 
検査結果を家族に伝える責任を感じるかもしれません。この情報は、家族の関係性を複雑にする可能性があります。詳しくは、sharing genetic test results with your family(家族と遺伝子検査結果を共有する)をご覧ください。

誤った安心感
検査結果が陰性だった場合、特定の遺伝子変異がないことを意味します。しかし、結果が陰性であっても、がんを発症する可能性はあります。結果が陰性ということは、その人のリスクが平均的であることを意味するに過ぎません。さらに、各人のリスクは、生活習慣、環境要因、および病歴による影響を受けます。

不明確な結果
遺伝子は、がんリスクと関連のない変異を有することがあります。これは意義不明の変異と呼ばれ、変異がリスクを増加させるかどうか不明であるということを意味します。また、現在の検査では検出できない変異を持っていることもあります。多くのがんはまだ特定の遺伝子に結びついていません。さらに、遺伝子の中には、他の遺伝子や環境要因と予想外に相互作用するものがあるかもしれません。そしてこれらの相互作用はがんを引き起こすかもしれません。したがって、がんにかかるリスクを算出することは不可能かもしれません。

高額な費用
遺伝的検査は高額なことがあります。保険が適用されなければ、特に高額です。

差別とプライバシーに関する懸念
検査結果による遺伝子差別を恐れる人もいます。また、遺伝子情報のプライバシーを心配する人もいます。The Genetic Information Nondiscrimination 法(GINA)は、遺伝子情報に基づいた雇用または医療保障における差別から保護してくれます。雇用、健康、または生命保険における差別の可能性の懸念点を遺伝カウンセラーや医師と話し合いましょう。

【遺伝子検査について自問すべき項目】
遺伝子検査を受ける前に、そのリスクと限度について学びましょう。検査を受けたい理由を特定してください。そして、検査結果をどのように受け入れるか検討してください。

決断を下すのに役立つ質問としては、以下のようなものがあります。

・自分の家族はがん家系か
・自分は平均よりも若い年齢でがんを発症したか
・自分は遺伝子検査の結果をどのように解釈すると思われるか。その情報を活用する手助けを誰がしてくれるか
・検査結果は自分や家族の医療に影響を及ぼすか
・遺伝子疾患があった場合、がんのリスクを下げることができるか

遺伝カウンセラーは、これらの質問に対応する手助けをしてくれます。遺伝カウンセラーは、遺伝子検査のリスクと利益について助言する訓練を受けている専門家で、遺伝子検査の過程においても手助けをしてくれます。詳しくは、what to expect when meeting with a genetic counselor(遺伝カウンセラーとの面談時に期待すること)をご覧ください。

追加情報

がんリスクを理解する
がんと遺伝子
リスクの算定や検診の推奨に用いられる統計を理解する

追加情報源 National Human Genome Research Institute:遺伝学の課題

=====
Cancer.NET 遺伝性がん日本語訳シリーズ:
がんと遺伝子
遺伝子検査でがんリスクを調べる
家族のがん既往歴を収集して主治医と共有する必要性
遺伝カウンセラーとの面談での心得
遺伝性がん関連症候群の一覧

翻訳担当者 関口百合

監修 前田 梓(医学生物物理学/トロント大学)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

その他のがんに関連する記事

まれな唾液腺がん(ACC)にアキシチニブ+アベルマブ併用が有望の画像

まれな唾液腺がん(ACC)にアキシチニブ+アベルマブ併用が有望

【MDアンダーソンがんセンター研究ハイライト 2023/03/29】よりVEGFR阻害薬とPD-L1阻害薬の併用は腺様嚢胞がんの新規治療法となるか希少な唾液腺がんである腺様嚢胞...
PREMMplusオンラインツールで遺伝的がんリスク検査が有効な人を特定の画像

PREMMplusオンラインツールで遺伝的がんリスク検査が有効な人を特定

ダナファーバーがん研究所の研究者と医師が開発したオンラインツールにより、特定のがんの発症リスクを高める遺伝的変異について検査を受けるべき人々を正確かつ迅速に特定できることが、新しい研究で示された。 PREMMplusと呼ばれるこのツールは、
アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用は一部の神経内分泌腫瘍(NET)に有効な可能性の画像

アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用は一部の神経内分泌腫瘍(NET)に有効な可能性

一部の神経内分泌腫瘍(NET)において、ベバシズマブ(販売名:アバスチン)とアテゾリズマブ(販売名:テセントリク)の併用療法が転帰を改善する可能性が非ランダム化試験で示唆された。 「1件の小規模単群試験の結果だけに基づいて診療を変えることは
チロシンキナーゼ阻害薬が まれな神経内分泌腫瘍(MMP)の無増悪生存期間を延長の画像

チロシンキナーゼ阻害薬が まれな神経内分泌腫瘍(MMP)の無増悪生存期間を延長

欧州臨床腫瘍学会(ESMO) 2021プレスリリース 悪性褐色細胞腫および傍神経節腫(MPP)を対象とした初のランダム化試験において、スニチニブ(販売名:スーテント)が無増悪生存期間(PFS)を5カ月以上延長することが明らかになった。このF