がんと遺伝子

2015年8月 Cancer.Net編集委員会承認

遺伝子について
遺伝子は体を構成する1つ1つの細胞のDNAに存在します。遺伝子は細胞の機能、すなわち、細胞がいかに速く成長するか、いかに多く分裂するか、どのくらい長く生存するかなどを制御します。研究者はそれぞれの細胞に30,000の異なる遺伝子があると推定されています。

遺伝子は、23本の染色体2組に配置される46本の染色体上にあり、人は母親から1組の染色体を、父親から1組の染色体を受け継いでいます。染色体23本から成る各組のうち1染色体が、女性か男性かを決定します。他の22対の染色体は常染色体と呼ばれ、他の身体的特徴を決定します。

遺伝子は、特異的機能を持つタンパク質を合成します。それらのタンパク質が細胞のメッセンジャーとして作用することにより、細胞の機能が制御されます。したがって、それぞれの遺伝子には、タンパク質を合成するための正しい指示書すなわち「コード」(暗号)がなければなりません。このコードによって、タンパク質は細胞に対して正しく機能することができます。あらゆるがんは、細胞内の1個以上の遺伝子が変異または変化する時に発生します。遺伝子変異または変化の結果、異常タンパク質が合成されるか、まったくタンパク質が合成されなくなることもあります。異常タンパク質は、正常タンパク質とは異なる情報を伝え、それにより細胞が無制限に増殖し、がん化することがあります。

【遺伝子変異について】
2つの基本の遺伝子変異の種類があります。

獲得変異はがんの最も一般的な原因である。ある人の生涯において、獲得変異は遺伝子の損傷から起こります。獲得変異は親から子へ遺伝しません。タバコ、紫外線(UV)照射、ウイルスおよび年齢などの因子により、これらの変異が生じます。獲得変異により発生するがんは、散在性がんと呼ばれます。

生殖細胞変異は獲得変異より頻度が低く、親から子へ直接遺伝します。この場合、変異は体のすべての細胞で起こり、男の子の体の生殖精子細胞および女の子の体の卵細胞も含まれます。この変異は生殖細胞に影響を及ぼすため、世代から世代に伝わります。生殖細胞系の変異によるがんは遺伝性がんと呼ばれ、すべてのがんの約5%~10%を占めます。

【変異とがん】
変異はしばしば発生し、人体は通常それらの大部分を修正することができます。遺伝子のどこで変化が生じたかにより、変異は有益であることも、有害であることも、または何ら影響を及ぼさないこともあります。したがって、1つの変異のみでがんになる可能性は低く、通常、がんが発生するまでには生涯にわたり複数の変異が生じています。このため、変異が起きる機会をより多くなる高齢者で、がんがより多く発生します。

【がんに関連する遺伝子型】
がんの発生に寄与する遺伝子の多くは、以下のように大別されます。
・がん抑制遺伝子は防御遺伝子です。通常、いかに速く細胞が新しい細胞に分裂するかを監視し、ミスマッチDNAを修復し、細胞死の時期を制御することにより、細胞増殖を制限します。がん抑制遺伝子が変異すると、細胞は無制限に増殖し、いずれは腫瘍と呼ばれる塊を形成する可能性があります。BRCA1、BRCA2遺伝子およびp53遺伝子はがん抑制遺伝子の例です。BRCA1またはBRCA2遺伝子の生殖細胞系変異により、女性が遺伝性の乳がんまたは卵巣がんに罹るリスクが増大します。がんの人々において最も一般的な変異遺伝子はp53で、実際に、すべてのがんの50%を超えるがんは、p53遺伝子に欠損または損傷がある。大部分のp53遺伝子変異は獲得変異である。生殖細胞系のp53変異はまれです。

・がん遺伝子は正常細胞をがん細胞に変えます。これらの遺伝子の変異は受け継がれません。一般的な2つのがん遺伝子は、HER2およびrasです。

・HER2は、がんの増殖および伝播を制御する特殊なタンパク質であり、乳がんおよび卵巣がん細胞など複数のがん細胞でみられます。

・遺伝子のrasファミリーは、細胞伝達経路、細胞増殖および細胞死に関わるタンパク質を生成します。

・DNA修復遺伝子は、DNAがコピーされた時にできたミスを直す。しかし、ある人のDNA修復遺伝子にエラーがあれば、これらのミスは修復されません。その後、これらのミスは変異になり、いずれがんになることもあります。このことは、変異ががん抑制遺伝子またはがん遺伝子で生じた場合、特にあてはまります。DNA修復遺伝子の変異は、リンチ症候群などのように遺伝することもあれば、獲得される例もあります。

がん遺伝子の作用の仕組みについてさまざまなことがわかっているにも関わらず、多くのがんは特定の遺伝子と結びつけることができません。がんはおそらく複数の遺伝子変異と関わっています。遺伝子はそれらの環境と相互作用し、がんにおける遺伝子の役割を一層複雑にしていることが、いくつかの根拠からも示唆されています。

医師は遺伝子変化がいかにがんの発生に影響するかについて継続して知識を深めたいと思っています。こうした知識は、ある人のがんリスクの予測はもちろん、がんの発見および治療の向上につながる可能性があります。

追加情報
・がんのリスクを理解する
・遺伝学
・個別化がん医療とは何か
遺伝子検査でがんリスクを調べる
遺伝性がん関連症候群

追加情報源
米国国立がん研究所:がんの遺伝学

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Cancer.NET 遺伝性がん日本語訳シリーズ:
がんと遺伝子
遺伝子検査でがんリスクを調べる
家族のがん既往歴を収集して主治医と共有する必要性
遺伝カウンセラーとの面談での心得
遺伝性がん関連症候群の一覧

翻訳担当者 木下秀文

監修 吉松由貴(呼吸器内科/飯塚病院)

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原文掲載日 

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