2008/12/16号◆特集記事「HER2標的薬の適応拡大が示唆される」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2008年12月16日号(Volume 5 / Number 25)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

今号が2008年最後の発行となります。来年度第1号2009年1月13日(日本語版は1週間後)からスタートします。

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特集記事

HER2標的薬の適応拡大の可能性が示唆された

先週開催されたサンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)で2つの第3相臨床試験の結果が発表された。これらの試験の主任研究者らによると、乳癌治療においてHER2標的薬の適応がさらに拡大される可能性があるという。

2つの試験のうち、小規模なNOAH試験と呼ばれる試験では、HER2陽性乳癌患者327人に対し、手術前に行われる術前補助化学療法においてトラスツズマブ(ハーセプチン)と抗癌剤の併用療法と抗癌剤単独療法を比較した。

「無再発生存期間」(ランダム化から再発、進行、または何らかの原因による死亡までの期間)と奏効率のデータが提示された。本試験の責任研究者であるミラノ癌研究所(イタリア)のDr. Luca Gianni氏によると、3年間の無再発生存率は併用療法群の70.1%に対して抗癌剤単独療法群は53.3%と併用療法群が優意であった。

全奏効率も病理学的完全寛解率(腫瘍の全痕跡の消失)も併用療法群が優れていたとGianni氏は強調し、重篤な心障害は2%以下と心機能障害の副作用も限られたものであった。

「この研究は、術前のトラスツズマブと抗癌剤の併用療法を、HER2陽性局所進行乳癌患者に対する標準療法の1つとして確立するものであると考えます」とGianni氏は述べた。この結果は、「ほぼ生存率の向上…に結び付くでしょう」と付け加えた。

術前全身療法は、局所進行乳癌患者に一般的に用いられている(下記補足記事参照)と、乳癌専門医でありNCI癌治療評価プログラムの上席研究者であるDr. Lo Anne Zujewski氏は記す。トラスツズマブと抗癌剤の併用療法はHER2陽性乳癌患者に対する標準療法であり、NOAH試験は、HER2陽性局所進行乳癌患者に対して術前にこの併用療法を行うことで高い病理学的完全寛解率が得られたことを示した初めての大規模試験である。

しかし本レジメン(アントラサイクリン系のエピルビシンを使用)が臨床の場において標準的療法として検討されるには、より多くのデータが必要であるとし、「この試験の参加患者が比較的少人数であったことから、腫瘍専門医らは、トラスツズマブとアントラサイクリン系ベースの抗癌剤との同時使用によって生じる心機能障害の可能性の懸念を払拭できないかもしれません」とZujewski氏は述べた。

米国で現在進行中の臨床試験であるACOSOG Z1041からは、手術可能なHER2陽性乳癌患者に対するエピルビシンベースの抗癌剤とトラスツズマブ同時併用の追加データが提示される予定である。

SABCSで発表されたEGF30008として知られる第2の試験は、進行あるいは転移性乳癌患者に対して、HER2標的薬ラパチニブ(タイケルブ[Tykerb])とアロマターゼ阻害剤レトロゾールの併用療法とレトロゾール単独療法を比較したものであった。

この試験には1,300人が参加したが、学会発表ではレトロゾールあるいは他のアロマターゼ阻害剤による内分泌療法が第一選択であったHER2陽性、ホルモン受容体陽性の219人に焦点を当てた結果が提示された。

無増悪生存率は、ラパチニブ・レトロゾール併用群の8.2カ月に対してレトロゾール単独群は3カ月と、併用群が際立って改善されていたと、本試験の主任研究者である癌研究所(Institute of Cancer Research、ロンドン)のDr. Stephen Johnston氏は説明した。併用群の患者は、全奏効率も病勢安定率も優れていた。

「これらの患者は、これまでに内分泌療法単独の治療を受けています」とJohnston氏は述べた。「今後提案されることは、併用療法のほうがよりよいアプローチであるかもしれないということです。」

本試験は、ラパチニブがHER2及び同ファミリーに属す別の細胞表面受容体であるEGFRの両方を標的とする2重標的チロシンキナーゼ阻害剤であるという事実をもとにデザインされたものであると彼は説明した。それに対して、トラスツズマブはHER2のみを標的とするモノクローナル抗体である。進行転移性乳癌患者は、しばしば、または最終的にタモキシフェンあるいはアロマターゼ阻害剤といった内分泌療法に抵抗性をもつようになるとJohnston氏は説明した。そして複数の試験で示されるように、この抵抗性はHER2とEGFRの両方の発現に関連している。

「これらの経路では複雑な分子間応答があるのです」と彼は述べ、「したがって、単にホルモン療法単独での使用を改善しようとすれば、現在使用可能な薬剤を用いて両者の細胞伝達系を標的にすることを考えるのは当然のことです。」

これらの結果に基づき、乳癌の腫瘍専門医らは、ホルモン受容体陽性、HER2陽性の転移性乳癌患者にこの併用療法の使用を選択するかもしれないと、Zujewski氏は記している。

—Carmen Phillips

補足記事

NCIは2007年の局所進行乳癌に対する術前治療についての科学的現状会議のスポンサーであった。会議に基づく一連の論文や乳癌に対する術前補助化学療法の2つの臨床試験の最新結果は、Journal of Clinical Oncology誌2008年2月10日号に掲載された。

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Nogawa 訳

上野 直人(乳癌/M.D.アンダーソンがんセンター准教授)監修 

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