2009/11/17号◆特集記事「米国予防医療専門委員会(USPSTF)が乳癌検診に関する勧告を更新」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2009年11月17日号(Volume 6 / Number 22)

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特集記事

米国予防医療専門委員会(USPSTF)が乳癌検診に関する勧告を更新

米国予防医療専門委員会(United States Preventive Services Task Force:USPSTF)は昨日、乳癌検診に関する勧告を更新し、平均的な乳癌罹患リスクを有する50~74歳の女性は2年ごとに定期的なマンモグラフィ検診を受けるべきであることを示した。この勧告はAnnals of Internal Medicine誌11月17日号に掲載された。

本勧告を発行したUSPSTFの副議長であるDr. Diana Petitti氏は、「毎年ではなく1年おきに検診を受けることで、偽陽性結果を原因とする損害が大幅に減少する。乳癌死亡率の低下度は依然として高く、年次検診での結果の70~99%である」と説明する。偽陽性結果は不必要な生検や精神的苦痛などの害の原因となりうる。

USPSTFは、米国内の独立したプライマリーケア医からなる委員会であり、検診、治療およびカウンセリングなどの予防的医療サービスに関するエビデンスを定期的に審査している。乳癌検診に関して本委員会が行った前回の勧告(2002年更新)では、40歳以上の女性を対象として1~2年ごとのマンモグラフィ検診(視触診の有無を問わず)を推奨した。

新勧告では、平均的リスクの40~49歳の女性には定期的なマンモグラフィ検診を推奨していない。代わって、サンフランシスコVA医療センターのDr. Karla Kerlikowske氏は付随論評にて、「50歳未満で検診を考慮している女性には、具体的な利益や不利益に基づいて各自で判断することを推奨する」と記している。

また2009年度の最新勧告では、乳房自己検診(breast self-exam:BSE)の推奨を支持していない。2002年度の勧告では、乳房自己検診の推奨について支持も不支持も記していなかったが、自己検診の普及によって乳癌死亡率が低下することを示す臨床試験がこれまでになかったことから、本委員会は乳房自己検診の組織的な推奨を支持しないこととした。

しかし、NCI癌制御・人口学部門のApplied Research Program(ARP)における特別研究員のDr. Stephen Taplin氏によると、「定期的な乳房自己検診の推奨を支持しないという勧告は、女性自身がしこりや瘤(こぶ)または乳房の異常を発見した場合に対処しなくてもよいという意味ではない。女性は懸念を抱いた場合、医療機関に行くべきである。」

本委員会は、委託した2件のエビデンス報告に一部基づいて勧告を更新した。この報告は、7年前のUSPSTFの最新版以降蓄積してきたデータを併合したものである。これらのうちの1件はオレゴン健康科学大学のOregon Evidence-based Practice Center(EPC:オレゴン・エビデンスに基づく診療センター)によって作成され、その目的は、乳癌検診の最適化に関する問題点を解決するうえで役立つ質の高いかつ適切な試験を発見して要約することであった。

本目的のためにEPCは、新しい試験や2002年に本委員会が審査したマンモグラフィ検診に関する公表済み試験からのデータを審査した。これには、40歳代の女性を対象としてマンモグラフィ検診の有効性を検証した唯一の試験である英国のAge試験も含まれた。本委員会はこの一連のデータによって、同年齢群にマンモグラフィ検診を行った場合の乳癌死亡率の低下度をより正確に推定することができた。

EPCはまた、乳癌サーベイランス・コンソーシアムが収集した40歳以上の女性60万人以上のデータを分析した。これらのデータから、マンモグラフィ検診における偽陽性結果は40~49歳の女性で最もよく認められると示された。

2件目のエビデンス報告はCancer Intervention and Surveillance Modeling Network(CISNET)のNCI支援メンバーによって作成された。マンモグラフィ検診に関するこの新しい試験では6つのモデリング研究チームが、検診の開始年齢や終了年齢、受診間隔の年数が異なるなどの20通りのマンモグラフィ検診計画について仮説的結果を審査した。

これらの研究チームが作成したモデルから、隔年検診では年次検診と比較して死亡率が平均81%低下するが偽陽性結果は50%低下することが明らかとなった。50~69歳の女性に隔年検診を実施すると、検診未実施の場合と比較して乳癌死亡率が中央値で16.5%低下する。50~69歳の女性に隔年検診を実施した場合と比較して、40歳から隔年検診を開始すると、死亡率はさらに若干低下するが、偽陽性結果は50%以上増加する。

Petitti氏は、「乳癌検診に関するすべてのことが、これまで有益と考えられていたものについて年齢の枠内で相殺される。これらのあらゆるエビデンスから、40~49歳の女性では乳癌死亡率がわずかに改善するが、偽陽性結果に関する多大な損害を被ることが示された」と述べる。

Taplin氏は、「これらの結果は米国の一般大衆から抽出した女性を分析したものであることを念頭に置く必要がある。厳密な意味では、対象とした女性では、乳癌リスクのあらゆる特徴が考慮されておらず、乳癌リスクがきわめて高い女性は該当しない」と付け加えている。

―Sharon Reynolds

NCIと乳癌検診研究乳癌検診に関して多くの問題点が依然として残っている。
例えば:
•75歳以上の女性にとってマンモグラフィ検診の相対的な利益と不利益は何か。
•中間期乳癌(interval breast cancer:計画された検診と検診の間で発見される腫瘍)ではより悪性度が高くなり致死的となる場合が多いのはなぜか。
•急速に進行する乳癌がある一方、そうではないものもあり、また治療をしなくとも縮小する腫瘍があるのはなぜか。
•遺伝子や腫瘍のタンパク質発現パターンで悪性度を予測できるか。NCIは現在、これらの問題点に取り組む下記の多くの大規模研究プロジェクトを支援している。

・乳癌サーベイランス・コンソーシアム(Breast Cancer Surveillance Consortium)
・前癌性乳癌プログラム(Breast Cancer Premalignancy Program
・乳癌/婦人科癌研究グループ(Breast and Gynecologic Cancer Research Group
・癌ゲノム・アトラス(Cancer Genome Atlas)
・乳癌検診に関する進行中のNCI支援試験

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齊藤 芳子 訳

上野 直人(乳癌、幹細胞移植・細胞療法/M.D.アンダーソンがんセンター准教授)監修  ******

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