2010/07/27号◆癌研究ハイライト
同号原文|
NCI Cancer Bulletin 2010年7月27日号(Volume 7 / Number 15)
〜日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜
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◇◆◇癌研究ハイライト◇◆◇
・PSAスクリーニングは、低リスクの高年齢の男性においても侵襲的な治療につながる
・転移性陰茎癌の男性に有用な化学療法レジメン
・ホルモン補充療法は乳腺密度の高い女性の乳癌リスクを高める
・脳腫瘍の発症傾向からは携帯電話との関連性は裏づけられない
・発癌性が疑われる物質20種類についての認識の違いを専門家パネルが報告
PSAスクリーニングは、低リスクの高年齢の男性においても、侵襲的な治療につながる
これまでの研究によって前立腺特異抗原(PSA)検査を用いた前立腺癌のスクリーニングは、前立腺癌の多くで過剰治療に結びついていることが示された。この疾患の進行のリスクは低いと考えられる高年齢の男性においても侵襲的な治療が行われてきた。このことは、新たな研究によって確かめられている。この研究の結果は、Archives of Internal Medicine誌7月26日号で発表された。
PSAの血清中濃度が4.0 ng/mL、すなわち前立腺生検が推奨されることが多い濃度またはそれ以下の男性の77%が、根治的前立腺切除術または放射線治療のいずれかを受けていた。こうした男性の半数以上は、一般的に用いられるグリーソンスコアや腫瘍の局所での大きさから、疾患の進行については低リスクであると考えられるにもかかわらず、このような治療が行われていた。
高年齢の男性は、より保存的な治療と比べ、手術または放射線治療から生存ベネフィットを得ることは困難であるというエビデンスがあるにもかかわらず、侵襲的治療を受ける低リスクの男性には、年齢は障壁とはならなかった。65〜74歳の男性の約69%、75歳以上の男性の約40%が、手術または放射線治療を受けた。
「グリーソンスコア、PSA値やリスクの層別化によっても、根治的療法を試みようという決断に対して大きな影響は与えられないということが、私たちの研究で示されている」とニュージャージー癌研究所のDr. Yu-Hsuan Shao氏らは述べている。
研究実施のため、米国国立癌研究所(NCI)のSEER登録データにより2004年から2006年の間に新たに前立腺癌と診断を受けたほぼ124,000人の男性が特定された。このうち、14%の人がPSA値4.0 ng/mL以下であった。実際に、PSA値10.1〜20.0 ng/mLの男性より、PSA値4.0 ng/mL以下の男性の方が根治的前立腺切除術と放射線を受けた率は高かった。
「いずれにしても治療を受けると、治療に関連する有害事象のリスクが高まるということは実証されている。そのため、治療について決定する時には、治療に関連する有害事象リスクと利益についてカウンセリングを受けることがきわめて重要である」とShao氏らは述べた。
この記事に関する論説で、ニューメキシコ大学のDr. Richard Hoffman氏とワシントン大学のDr. Steven Zeliadt氏は、いわゆる積極的監視(PSA監視療法)をもっと取り入れるよう提唱している。この手法は「治療による合併症を避けたいという欲求と癌を見逃したくないという同じように強い欲求のバランスをとる。そして同時に、過剰治療のリスクを最小にする」と説明した。
転移性陰茎癌の男性に有用な化学療法レジメン
周辺リンパ節に転移のある陰茎癌患者に対して、術前化学療法として3種類の薬剤を手術前に投与することは有益であるという研究結果が7月19日付けのJournal of Clinical Oncology誌電子版に発表された。この疾患に対する前向き研究としては最初のものの一つである非ランダム化第2相試験は、リンパ節転移はあるが遠隔転移はないIII期またはIV期の陰茎の扁平上皮癌患者30人を対象とした。
患者の半数は部分寛解または完全寛解を得、36.7%では最終の臨床評価時に再発はみられなかった。患者の大多数はスケジュール通りに薬剤の総量を忍容することができ、76.7%は計画された4コースすべてを受けた。これらの結果から、この化学療法レジメン、パクリタキセル、イホスファミド、およびシスプラチンは、新たな標準治療になると研究者らは推奨している。
頭頸部の扁平上皮癌患者の一部において効果がみられたので、この化学療法レジメンが選定された。陰茎癌患者はリンパ節郭清術だけでは生存率が低く、このような患者には併用療法を用いることが望まれると研究者らは述べた。
「これは稀な疾患で、III期およびIV期の標準治療がない。標準的化学療法レジメンを確立するために、よくデザインされた前向き試験が緊急に必要だとされてきた領域である。われわれは、この試験はこの疾患について前進するための出発点だと考えている」とテキサス大学M. D.アンダーソンがんセンターのDr. Lance Pagliaro氏は述べている。
この疾患に現在試験中の他の化学療法剤は、今後はこの化学療法レジメンと比較して評価することが可能であると彼は述べた。次のステップとして、彼のグループや他の研究者らは、上皮増殖因子受容体(EGFR)阻害剤のような標的療法を含む試験を計画中である。
ホルモン補充療法は乳腺密度の高い女性の乳癌リスクを高める
放射線科医がマンモグラフィ画像にスコアをつけるためのシステムである「乳癌画像診断に関する報告およびデータシステム(Breast Imaging Reporting and Data System:BIRADS)」で乳腺密度が高いとされる女性は、乳腺密度が平均的な女性に比べて、乳癌発症のリスクが高い。また、閉経後のホルモン補充療法(HRT)、特にエストロゲンとプロゲスチンを用いる療法も、乳癌のリスクを高める。NCIが研究助成している乳癌サーベイランス協会(BCSC:Breast Cancer Surveillance Consortium)の報告によって、この二つの要因が組み合わされると乳癌リスクが2倍上昇することが示された。本研究は7月19日付Journal of Clinical Oncology電子版に掲載された。
カリフォルニア大学サンフランシスコ校のDr. Karla Kerlikowske氏が率いるBCSCチームは、7つの登録データベースから得られた580,000人以上の女性とほぼ1,350,000件の検診におけるマンモグラフィ画像のデータを検討した。女性は、30歳以上、BMI指数は正常で、閉経の有無、手術の既往歴、HRT使用状況などを調査票に記入した。
乳腺密度と癌のリスクの関連性は、閉経後の女性および閉経後にHRTを使用している女性において最も高かった。この研究では、閉経前で乳腺密度が低いか平均的である人は、5年間の癌リスクは0.3〜1.5%の範囲で、それに比べて乳腺密度が高いか非常に高い人は0.9〜3.1%であった。閉経後HRTを使用している人のうち、乳腺密度が低いか平均的な人は5年間のリスクが0.3〜2.5%の範囲であるが、乳腺密度が高いか非常に高い人は1.1〜4.4%であることがわかった。エストロゲンだけを使用している人よりも、エストロゲンとプロゲスチンを併用している人の方がリスクはわずかに高かった。しかし、HRTを使用しているか否かにかかわらず、乳腺密度が低い閉経後の女性では乳癌リスクは低かった。
HRTと乳腺密度がどのように相互作用して癌リスクを上昇させるのか——たとえば、ホルモンが加齢と共に起こる乳房内の自然の変化を遅らせるのか、癌になりやすいタイプの細胞における細胞増殖に拍車をかけるのか——は、まだ明らかになっていない、と著者らは述べた。しかし同時に、「閉経後で乳腺密度の高い女性は、特にエストロゲンとプロゲスチン併用HRTの開始または中止を決定する際、乳癌リスクの増加について考慮したいと思うだろう」と彼らは記している。
脳腫瘍の発症傾向からは携帯電話との関連性は裏づけられない
米国における携帯電話の使用と脳腫瘍との関連性についてNCI研究者が新たな解析を実施したが、関連性を裏づけるエビデンスは得られなかった。この解析は、携帯電話の普及と脳腫瘍リスクの関連に対する懸念から実施されたものである。
現在、米国では携帯電話の契約者が2億7,900万人を超えている現状を踏まえ、もし実際に携帯電話の使用が脳腫瘍のリスク要因であった場合、時間を経て脳腫瘍の発生率上昇が認められるはずであると研究者らは推論した。ただ、脳腫瘍が誘発されるまでの期間が非常に長いか、長期使用者のリスク上昇がわずかである場合、影響はまったく認められないことも予想された。
NCI癌疫学・遺伝学部門のDr. Peter Inskip氏らは、NCIのSEERデータベースを用いて、1992〜2006年の脳腫瘍発症傾向を検討した。この期間中の脳腫瘍発症傾向は、男女ともほとんどすべての年齢群において、わずかに低下した。
例外的に、20代の女性では統計的に有意な増加傾向がみられたが、男性ではみられなかった。しかし、この増加は脳前頭葉の腫瘍によるものであり、携帯電話の影響があると予想されていなかった領域であった。他の脳領域の方が、携帯電話の高周波への曝露量は高いことが研究で示されている。
この米国における研究結果は、脳腫瘍の発症傾向について欧州の4カ国で最近実施された試験と一致している。その試験では、脳腫瘍が誘発されるまでの期間を5〜10年と仮定すると1998〜2003年の間に携帯電話の使用と腫瘍リスクの関連性がみられるであろうと考えたが、その間の発生率に変化は認められなかった。
参照:「携帯電話の使用によって総体的な脳腫瘍のリスクは上昇しないことが研究で判明」
詳細:NCIファクトシート”Cell Phones and Cancer Risk(携帯電話と腫瘍リスク)”
発癌性が疑われる物質20種類についての認識の違いを専門家パネルが報告
6月15日に発表された研究論文では、化学物質20種類への曝露が癌を引き起こす可能性について主な保健機関の間で見解が一致しなかったことから、詳細な研究が求められた。論文に挙げられた物質の一部は生活環境にも多く存在するが、それ以外の物質は職業曝露に限定されることが多い。この技術報告書の概略が、Environmental Health Perspectives誌に概要報告として公表されている。
「IARC発癌性分類における優先的発癌物質研究の決議要請(Identification of research needs to resolve the carcinogenicity of high-priority IARC carcinogens)」と題されたこの論文では、現時点でのエビデンスをまとめ、各物質の最終分類に要する適切な試験について個別にガイダンスを示している。複数の物質に共通する問題として、発癌性物質の毒性が複数の経路や機序を介して作用することを認識すべきである点など、いくつかが指摘された。
「この報告では、ヒト発癌性物質を特定するため、職場環境について研究を行うことの重要性を強調している」と、Dr. Debra Silverman(同報告書の共著者、NCI癌疫学・遺伝学部門、職業・環境疫学支部長)は述べている。「そうした職場環境の研究で得られた結果から、職場曝露物質に一般環境で低濃度曝露した場合の影響を推定できることが多い」。
「環境中の発癌性物質や環境曝露による癌の誘発に対する国民の懸念は大きく、一般的な職業曝露物質や曝露環境のいくつかについては、発癌性のエビデンスがかなり蓄積されているが、ヒトに関する結論は未だ得られていない」と、報告の主著者であるアメリカ癌協会(ACS)のDr. Elizabeth Ward氏は付け加えた。
上記のプロジェクトは、米国国立労働安全衛生研究所の全国労働研究に関する検討議題(National Occupational Research Agenda)の一部として開始されたものであり、NCI、国際癌研究機関(IARC)、アメリカ癌協会、米国国立環境衛生科学研究所と協同で進められている。
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鈴木 久美子、市中芳江 訳
辻村 信一(獣医学/農学博士、メディカルライター)
小宮 武文(呼吸器内科/NCI Medical Oncology Branch)監修
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原文掲載日
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