末梢血幹細胞移植に使用される薬剤が転移乳がんに対する免疫療法を強化する可能性
一部のがん細胞は、結合組織の緻密層に囲まれていて、がんを死滅させる免疫細胞に対する障壁として働く。このことは、免疫療法(免疫細胞とがん細胞の間の相互作用に依存する治療法)に問題をもたらす。
しかし、転移乳がんマウスモデルを使用するNCIが資金提供した新規研究(以下本研究)から、プレリキサホル(モゾビル、骨髄移植[訳注:実際は末梢血幹細胞移植]で既に使用されている薬剤)がこうした緻密結合組織層を薄くし、より多くの免疫細胞が腫瘍に到達できるようにする可能性が示唆される。
Proceedings of the National Academy of Sciences誌1月30日号に掲載された本研究結果から、マウスにプレリキサホルを投与することで、免疫チェックポイント阻害薬(一般的な免疫療法薬)は著しくがん転移を抑制し、生存期間を延長させたことも示される。
免疫チェックポイント阻害薬が大多数の転移乳がん女性患者に対して効果が無いことを考慮すると、こうした結果からプレリキサホルの追加によりこうした薬剤の効果が上がることが示唆される、と試験責任医師であるRakesh Jain博士(ハーバード大学医学大学院マサチューセッツ総合病院)らは記した。
さまざまな種類のがん患者に対するプレリキサホルの臨床試験が多数進行中で、乳がん患者に対しても臨床試験が検討されているとJain氏は指摘した。こうした臨床試験の内の数件で、プレリキサホルの安全性と腫瘍微小環境内での免疫細胞への作用機序が評価されることになる。
しかし、緻密結合組織は免疫チェックポイント阻害薬が一部の乳がん女性患者に対して効果が無い唯一の理由ではないかもしれないとGeorge Sledge医師(スタンフォード大学)は付随論評で指摘した。それでもなお、「免疫チェックポイント阻害薬を最大限に活用しようとすると、新たな治療法がさらに必要になる。また、本研究結果が臨床上検証可能な仮説を提示する」と記した。
「本研究は、がんの発生と進行における多層的な複雑性とより効果的な方法による腫瘍の標的化に関する考え方と関連します」とJeffrey Hildesheim博士(NCIがん生物学部門腫瘍生物学・微小環境分科長、本研究には不参加)は述べた。
線維芽細胞が免疫細胞を締め出す
免疫系のがんに対する反応機序に影響を与えうる要因が多数存在する。その中心の1つが線維芽細胞という細胞である。
腫瘍微小環境で、線維芽細胞は網状の結合組織線維(例:コラーゲン)を作り、腫瘍を支える。しかし、がん関連線維芽細胞がこうした結合組織を過剰産生すると、物理的に免疫細胞の腫瘍への到達を抑制する可能性がある。
がん細胞の周囲にある結合組織が異常増殖(線維形成)すると、血管が圧迫され、腫瘍に送られる酸素量が減少する可能性がある。低酸素状態になるとがんを死滅させる免疫細胞の活性が低下する。
また、線維芽細胞はサイトカイン(さまざまな種類の免疫細胞の動員と活性化を仲介するタンパク質)を産生する。「こうしたサイトカインは有害物質を腫瘍に集めていることがあります」とHildesheim氏は解説した。サイトカインは、腫瘍を殺傷する免疫細胞を阻害しながら、その増殖と転移を促す一部の免疫細胞を呼び寄せることがある。
線維形成は、膵臓がん、食道がん、前立腺がん、および、一部の乳がんなどの特定の種類のがんに高頻度で認められる。線維形成がこれらのがん患者で免疫療法が幾分奏効しにくい原因であると一部の研究者らは考えている。
転移乳がんに線維形成が認められるか
乳房内の原発腫瘍は線維形成性であるため、他の器官に転移した乳房腫瘍の症例でも線維形成が認められるかどうかをJain氏らは検討した。
「原発がんと転移がんは同じものではなく、別個の存在としてより慎重に研究する必要があります」とHildesheim氏は述べ、「これが本研究の重要な点です」と言い添えた。
最初に、研究者らは乳がんが肝臓や肺に転移した女性患者17人から原発腫瘍と転移性腫瘍の検体を調査した。原発腫瘍と転移性腫瘍はいずれも線維形成性であるが、転移性腫瘍にはがんを死滅させる免疫細胞がほとんどないことを突き止めた。
次に研究者らはがんゲノムアトラスのデータを精査し、乳房腫瘍で大量に発現し、免疫細胞の排除と関連する遺伝子を検索した。
こうした種類の遺伝子の中にCXCL12が認められた。CXCL12はさまざまな機序で腫瘍微小環境に影響を与えるタンパク質を合成させる。実例として、CXCL12タンパク質が線維芽細胞に結合すると、線維芽細胞はCXCL12産生細胞に向かって遊走し、大量のコラーゲンを産生する。がん細胞や線維芽細胞などのさまざまな種類の細胞はCXCL12を産生する。
原発乳房腫瘍と転移性乳房腫瘍の両者は隣接する正常組織と比較して、CXCL12受容体であるCXCR4を多量に発現することを研究者らは突き止めた。
プレリキサホルを使用してCXCR4 を標的にする
次に、CXCR4の阻害により、線維形成とがんを死滅させる免疫細胞の排除が打ち消される可能性を検討した。
ヒト腫瘍で認められる線維形成を再現する転移乳がんマウスモデルで、原発腫瘍と転移性腫瘍由来がん関連線維芽細胞がCXCR4を大量発現することを突き止めた。
このマウスモデルにCXCR4拮抗剤プレリキサホルを投与すると、線維形成と血管圧迫が抑制され、対照マウスと比較して、腫瘍内の酸素量が増加した。
また、プレリキサホル投与により、免疫系を活性化させるサイトカインの量が増加し、乳がん転移を促すタンパク質の量が減少した。
さらに、プレリキサホル投与マウスモデルの肺に転移腫瘍はわずかしか認められず、プラセボ投与マウスモデルと比較して生存期間が延長した。
免疫療法の効果を高める
次に、転移乳がんマウスモデル3種類で、プレリキサホルにより免疫チェックポイント阻害薬に対する反応が改善するかどうかを確認した。
Jain氏らや他の研究者らによる初期の研究から、プレリキサホルが膵臓がんマウスモデルや肝臓がんマウスモデルで免疫療法に対する反応を向上させることが示されている。
原発腫瘍を外科的に切除した後転移がんを発症したマウスモデルを、対照群、プレリキサホル群、免疫チェックポイント阻害薬併用群、およびプレリキサホル+免疫チェックポイント阻害薬併用群の4つの投与群に割り付けた。
他の投与群と比較して、プレリキサホル+免疫チェックポイント阻害薬併用群で、転移性腫瘍におけるがん関連線維芽細胞が減少し、線維形成が抑制され、かつがんを死滅させる免疫細胞が増加した。また、プレリキサホル+免疫チェックポイント阻害薬により、肺転移も減少し、マウスモデルの生存期間も延長した。
マウスモデル3種類全てで、プレリキサホル+免疫チェックポイント阻害薬併用マウス数匹で奏効期間が延長し、長期奏効率が免疫チェックポイント阻害薬併用療法マウスの2倍に増加したと研究者らは指摘した。
さまざまなCXCR4拮抗剤が現在使用されており、「比較的無害である」とSledge氏は指摘した。
将来、本研究由来の基礎生物学的所見がCXCR4拮抗剤+他の治療薬の併用療法の臨床試験の実施に役立つことになるとHildesheim氏は述べた。
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