乳がん、前立腺がん患者のうつや適応障害で通院・入院回数増加

専門家の見解

「メンタルヘルスの問題はよくあることですが、認知度が低いことが多いです」と、Joshua Adam Jones医師(文学修士、米国臨床腫瘍学会ASCO専門委員)は述べた。「がんに罹患している多くの人々の健康に影響を及ぼすだけでなく、医療費や入院回数も押し上げます。本研究は、日常的なメンタルヘルススクリーニングと治療は、質の高いがんケアの標準要素であるべきことを示しています」。

米国の Military Health System(軍医療システム)からの新たなデータ分析によると、不安やうつなどの気分障害や適応障害は、乳がんや前立腺がん患者における年間の通院回数、入院回数そして入院日数を予測する強力な要因であることがわかった。また、その研究によれば、 2007年から2014年の間に、気分障害や適応障害が乳がん患者で7%(21%~28%)、前立腺がん患者で4%(9%~13%)増加した。 一方、この期間中、うつ症状の増加率は両群で同等であった。 著者らは、フロリダ州オーランドで3月3日から4日まで開催される、米国臨床腫瘍学会(ASCO)のクオリティケアシンポジウムで、その知見を発表する予定である。

「がん治療中の患者や身体的な副作用を患っている患者を助けるのと同様に、患者の心の健康に関しても同じように助けるべきです」と筆頭著者のDiana Jeffery医学博士(米国国防総省Director of the Center for Healthcare Management Studies)は述べた。「早期および頻繁なメンタルヘルス評価は、生活の質の向上だけでなく、不必要な入院を避けるために必要不可欠です」。

米国国防総省の研究者らは、Military Health System受益者950万人からの請求データを分析した。 Military Health Systemは、米国の現役・退役軍人およびその家族にケアを提供する国防総省の保健システムである。

Jeffery医学博士らは、乳がんまたは前立腺がん患者において、気分障害や適応障害は、その他の慢性疾患の数や1年以内に化学療法を受けた回数に次いで、入院の予測因子であることを発見した。毎年平均して、気分障害または適応障害が併存する乳がん患者は、そのような障害がない乳がん患者と比較して、外来通院回数9.4%増、入院回数2.3%増、そして入院日数5.4%増であった。 前立腺がんで気分障害もしくは適応障害の男性は、そうした障害が併存しない前立腺がん患者と比較して、外来通院回数6.7%増、入院回数2.9%増、そして入院日数も8.4%増加した。

気分障害や適応障害が発症すると、入院回数が乳がん患者では年間4,800回、前立腺がん患者では2,600回増える。さらには、気分障害や適応障害の発症により毎年、入院日数が乳がん患者で72,000日、前立腺癌患者で65,000日増える。

気分障害や適応障害により、通院回数は乳がん患者で年間312,000回、前立腺がん患者で169,000回増えた。

研究者らはまた、気分障害や適応障害が乳がんと前立腺がんの両方の母集団のコストを予測する強力な要因であると特定した。データによって気分障害や適応障害が、乳がん患者で年間9,000ドル、前立腺がん患者で年間8,000ドルの費用を増加させることが明らかとなった。

著者らは、メンタルヘルスサービスとケアの統合は、より良い患者ケアに役立ち、保健システム全体のコストを削減できるため、日常のがん治療の重要な要素であるという説得力のあるエビデンスを今回の研究データが提供していると結論づけた。

Military Health Systemにおいて、年間平均のがん症例数は、乳がん患者、前立腺がん患者それぞれ、24,612人、13,258人であった。 研究者らは、18〜64歳の患者の行政データを用いて横断的分析を行った。 研究母集団は、2007年から2014年に浸潤性乳がんあるいは前立腺がんの一次診断を受けた人々である。

研究者らは、今回の研究に対する複数の制約として病期などを特定したが、それらは多くの患者にとって前提条件とならざるを得ないものである。また、進行した疾患は、うつ症状、不安、適応障害のリスク上昇に加えて、通院回数、入院回数、入院日数の増加に関連していた。さらに研究者らは、各年の患者母集団には、新たに診断された患者から末期患者まで、がんのすべての病期の人が含まれていると説明している。

翻訳担当者 塔本容子

監修 太田真弓(精神科・児童精神科/さいとうクリニック院長)

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