2012/06/12号◆癌研究ハイライト「新たな薬剤トラスツズマブ・エムタンシンが一部の乳癌治療の選択肢に」「術前化学療法と放射線療法が食道癌の生存率を改善」「皮膚癌に分子標的薬ビスモデギブ」「リンパ腫治療の新たな選択肢」「末梢神経障害を伴う癌患者に有効な初の治療薬」

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NCI Cancer Bulletin2012年6月12日号(Volume 9 / Number 12)

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◇◆◇ 癌研究ハイライト ◇◆◇

・新たな薬剤トラスツズマブ・エムタンシンが一部の乳癌治療の選択肢に(ASCO)
・術前化学療法と放射線療法が食道癌の生存率を改善
・一部の皮膚癌で分子標的薬ビスモデギブが有効
・研究から示唆されるリンパ腫治療の新たな選択肢(ASCO)
・末梢神経障害を伴う癌患者に有効な初の治療薬(ASCO)
・(囲み記事)その他のニュース:小児への放射線照射は低線量でも乳癌リスクを高める(ASCO)
・(囲み記事)その他のジャーナル記事:世界的癌負担の変化予測

新たな薬剤トラスツズマブ・エムタンシンが一部の乳癌治療の選択肢に

国際共同臨床試験の結果により、HER2陽性転移性乳癌でトラスツズマブ(ハーセプチン)分子標的薬による治療が奏効しなくなった患者に対し、近く新たな治療の選択肢が登場する可能性が示唆された。

治験薬のトラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)の投与を受けた患者は、化学療法剤のカペシタビン(ゼローダ)と分子標的薬のラパチニブ(タイケルブ)の投与を受けた患者よりも、無増悪生存期間が3カ月以上も延長した。T-DM1は1件の例外を除き、カペシタビンとラパチニブの併用より、はるかに重篤な副作用が少なかったと、本臨床試験の責任医師が先週行われた米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で報告した。

「T-DM1は、HER2陽性乳癌にとって治療の重要な選択肢になる」と、本試験の責任医師でデューク大学デュークがん研究所のDr. Kimberly Blackwell氏は話した。

本薬剤の製造元であるジェネンテック社は、今年、転移性乳癌治療薬としてT-DM1の承認を米国食品医薬品局(FDA)に申請すると話した。

T-DM1は抗体-医薬抱合体で、乳癌細胞のHER2受容体を標的にするモノクローナル抗体のトラスツズマブを化学療法剤のDM1と化学的に結合させたものである。

T-DM1による治療を受けた患者の無増悪生存期間中央値は9.6カ月だったのに対し、カペシタビンとラパチニブの併用治療を受けた患者では、無増悪生存期間中央値が6.4カ月だったとBlackwell氏は報告した。この結果は、臨床試験データの中間解析をもとにしたものであった。全生存期間は両方の治療群で同程度であったが、解析時においては、2年後の生存がカペシタビン+ラパチニブの対照群では47%以上であったのに対して、T-DM1投与群は65%以上の患者が生存しており、T-DM1の全生存に統計的な改善傾向がみられた。

T-DM1の投与回数が増えると、血小板が危険なレベルに低下する(血小板減少症)可能性はあるものの、嘔吐、下痢、手足症候群といったその他の副作用は対照群の患者でより多く見られた。血小板減少症は投与量の減量で効果的に管理できる一方で、対照群ではより多くの患者が副作用のために投与量を減らさざるを得なかったとBlackwell氏は報告した。

「T-DM1は、この患者集団に非常に有効である」と、ジョージタウン・ロンバルディ総合がんセンターのDr. Louis Weiner氏は全体会議で述べた。この薬剤を、他に可能な治療法とどう併用するのが最善かを解明するために、さらなる研究が必要だとWeiner氏は続けた。

術前化学療法と放射線療法が食道癌の生存率を改善

手術前に化学療法と放射線療法を受けた食道癌患者は、手術療法のみの患者と比較して、生存期間が平均で2倍近く長いことがわかった。食道癌の術前化学療法に対する大規模ランダム化試験によるこの知見は、5月31日付New England Journal of Medicine誌に報じられた。

術前にカルボプラチンパクリタキセルによる化学療法、および放射線療法を受けた患者の全生存期間の中央値はほぼ50カ月だったが、手術療法のみを受けた患者の全生存期間は24カ月だった。

エラスムス大学医療センターのDr. Pieter van Hagen氏らは、食道癌または胃と食道の間の接合部に癌があり、他の臓器に転移していない患者368人を登録した。この臨床試験への登録者はほとんどが男性で、年齢中央値は60歳。患者は米国で一般的にみられる食道癌のタイプである腺癌か、世界的に最も高頻度にみられる扁平上皮癌かに関わらず、術前治療による効果が得られた。

これ以前に、食道癌における術前の化学療法と放射線療法の優位性を検証する目的で行われた臨床試験では、十分な数の患者を登録できず、決定的な結論を下すに至らなかった。「今回の試験を成功裏に完了させたことは目覚しい業績であり、試験結果も術前療法を支持する高レベルの証拠とみなされるべきものだ」と、NCI癌治療評価プログラムの消化器治療主任のDr. Jack Welch氏はコメントした。なお、同氏は本臨床試験には関わっていない。

化学放射線療法群に無作為に割り付けられた患者は、カルボプラチンとパクリタキセルによる化学療法を5コースと放射線治療を併用した。その後、通常は術前治療完了から4~6週間後に手術を実施した。これは昨年から米国で広く実施されている術前療法で、NCIが支援する共同グループが実施するいくつかの臨床試験でも標準治療として受け入れられているとWelch氏は話した。たとえばHER2陽性癌患者に、術前化学放射線療法と標的分子薬トラスツズマブを併用した第3相試験があると同氏は説明した。

もうひとつの臨床試験では、最初にオランダの試験治療法か代替治療法にもとづく化学療法を行った後にPETスキャンにより患者を評価し、化学療法が奏効しなかった患者では放射線療法を併用した他の療法に切り替えた。両方の臨床試験において、試験医師は個々の患者にとって最善の結果が得られるよう、van Hagen氏の試験で使用された化学放射線療法を試みたとWelch氏は話した。

一部の皮膚癌で分子標的薬ビスモデギブが有効

米国食品医薬品局(FDA)は1月、進行基底細胞癌の治療にビスモデギブ[vismodegib](Erivedge)と呼ばれる薬剤を承認した。基底細胞癌は最も多くみられるタイプの皮膚癌で、大部分は手術によって治療できるが、局所進行あるいは転移性の場合はこれまで有効な治療がなかった。

ビスモデギブ承認の根拠となった臨床試験の最終結果は、New England Journal of Medicine誌6月7日号に掲載された。付随報告書では、錠剤で摂取されたビスモデギブが基底細胞母斑症候群患者の腫瘍をいかに予防し、縮小するかが報告されている。基底細胞母斑症候群は遺伝性疾患で、何百、何千個の基底細胞癌を発症する。

「基底細胞癌患者とその治療、看護に当たるすべての人々にとって記念すべき日。この病気の治療において、これまでにない最大の進歩だ」と、マンチェスター大学のDr. John T. Lear氏は付随論説の中で述べた。しかし継続的な投与は、筋痙縮や脱毛、味覚消失など「顕著で頻繁な」副作用を起こす。

こうした副作用のために服用を中止する患者もいたとLear氏は明記した。患者のうち4分の1に重篤な有害事象が発生し、7人が死亡した。「この試験薬と、死亡の関連は不明である」と、研究者らは書いている。

投与スケジュールの変更で副作用を低減できる可能性があり、現在、調査が行われていると、基底細胞癌の臨床試験を率いたメイヨークリニックのDr. Aleksandar Sekulic氏は述べた。第2相試験で転移性癌患者の30%が部分奏効を得、局所進行性癌患者の43%が完全奏効または部分奏効を得た。この臨床試験には104人の患者が組み入れられた。

基底細胞母斑症候群の臨床試験は、41人の患者を組み入れたランダム化試験であった。ビスモデギブの投与を受けた患者は、1年あたり平均で2つの新たな基底細胞癌を発症し手術を必要としたが、プラセボが投与された患者は29の新たな基底細胞癌を発症した。しかしながら、ビスモデギブの投与を受けた患者の半数以上が副作用のために治療を中止した。いったん患者が服用をやめると、腫瘍は徐々に再発した。

「それでも、これらの患者にとって、この薬剤は人生を変える治療だと思う」と、本試験の筆頭著者であるスタンフォード大学のDr. Jean Tang氏は述べた。「しかし患者はこの薬を毎日服用することはできない」。同氏のチームは、この薬剤について最適な投与法を探る2つ目の臨床試験を開始した。

この薬剤は、ヘッジホッグ・シグナル伝達経路を介して癌細胞を成長させる信号を阻止する。この経路は、毛包といった人体の特定の場所を除き成人組織では静止している。正常の細胞の経路も遮断するため、この薬剤は脱毛やその他の副作用を起こす可能性がある。

副作用は不快ではあるが、薬剤が標的に命中していることの表れだと、Sekulic氏は述べた。これらの試験は「重要な前進」であり、また「大抵の基底細胞癌は日差しからの十分な保護により予防できる」と同氏は付け加えた。

参考文献:「稀な皮膚癌症候群患者に新薬がもたらす救いと希望」、
基底細胞癌の治療薬が優先審査を受けて承認

研究から示唆されるリンパ腫治療の新たな選択肢

ヨーロッパで行われた大規模臨床試験による最新の結果から、ある種のリンパ腫患者は化学療法剤ベンダムスチン(Treanda、日本商品名トレアキシン)と分子標的薬リツキシマブ(リツキサン)の併用により初期治療が行える可能性が示されている。試験における大部分の患者は濾胞性リンパ腫で、他はマントル細胞リンパ腫または低悪性度(緩徐進行性)リンパ腫であった。

試験は新規に診断された患者514人を対象とし、その結果は試験責任医師であるドイツ・ギーセン大学病院のDr.Mathias J. Rummel氏によりASCO年次総会で発表された。

追跡期間中央値約4年経過時、ベンダムスチン+リツキシマブ併用療法を受けた患者は、標準的な一次治療(リツキシマブとCHOPと呼ばれる化学療法の併用、R-CHOP)を受けた患者に比べ、2倍以上無増悪生存期間が長かった(69.5カ月対31.2カ月)。

ベンダムスチン+リツキシマブの併用療法を受けた患者の無増悪生存期間は延長したが、全生存は2つの患者グループ間で差がみられなかった。そういったことから、同様のリンパ腫患者全てに対しこの併用療法を新たな標準治療として推進することをためらう研究者もいるだろう、とNCI癌研究センターリンパ腫治療部門主任であるDr. Wyndham Wilson氏は述べた。同氏は今回の研究に関与していなかった。

ベンダムスチン+リツキシマブ併用患者の方が軽い皮膚症状の頻度は高かったが、神経障害や、好中球減少症として知られる深刻な白血球数減少などの主要な副作用はずっと少なかった。好中球減少症に対し顆粒球コロニー刺激因子での治療が必要だったのは、ベンダムスチン+リツキシマブ併用患者のうちわずか4%であったのに対し、R-CHOP療法患者では20%だった。

Rummel氏は、ベンダムスチンを含む併用療法で全生存が改善しなかった理由として、第一に、R-CHOP療法後に癌が進行した患者のおよそ半数がベンダムスチン+リツキシマブ療法に切り替わったこと、第二に、これらのリンパ腫型は緩やかに進行し生存期間が長いため、全生存期間の違いが明らかになるまでには長期間の追跡が必要であろうことなどを挙げた。

ベンダムスチンはドイツで開発され、ヨーロッパでは何十年も血液癌の治療に使用されており、米国では緩徐進行性リンパ腫の治療薬として承認されたが、リツキシマブを含むレジメンによる治療後に進行した癌に対してのみの使用に限られる。ベンダムスチンは慢性リンパ性白血病の治療薬としても承認されている。

末梢神経障害を伴う癌患者に有効な初の治療薬

第3相試験(CALGB-170601)の結果から、デュロキセチン(サインバルタ)が、ある種の化学療法により引き起こされる有痛性末梢神経障害の治療に有効であることがわかった。化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)への効果的な治療法を示す初のランダム化臨床試験の結果は、ASCO年次総会で先週発表された。

CIPNは主に手や足で慢性的な疼痛、ピリピリ感、しびれ感を引き起こし、患者は日常的な活動能力が妨げられ、必要な量の化学療法を受けられなくなる。CIPNは、タキサン系と白金系製剤(神経細胞に障害を与える)をベースとした化学療法を受けた癌患者の20~30%に発症する。CIPNは、治療中止後数カ月間あるいは数年にも渡り、徐々に悪化することがある。

ミシガン大学のDr. Ellen Lavoie Smith氏らは、過去に受けたパクリタキセルまたはオキサリプラチンでの治療による末梢神経障害性の強い痛みが以前に報告されたことのある18歳以上の181人を対象として試験を行った。デュロキセチンを毎日服用している患者のうちほぼ60%で痛みの軽減が報告されたのに対し、プラセボを服用していた患者では約40%だった。痛みが増悪したのは、デュロキセチン服用患者では11%であったが、プラセボ服用患者では28%であった。

もっとも多く報告された副作用は疲労で、プラセボ服用患者に比べ、デュロキセチン服用患者の方が有意に多かった。

「今回の試験は、プラセボに比べ、すでに発症した神経因性痛が統計学上有意に改善したことを初めて実証したもの」とNCI癌予防部門のDr. Joanna Brell氏は述べた。「糖尿病により引き起こされる痛みを伴う神経障害に対してはデュロキセチンが米国食品医薬品局により承認されているが、CIPNに対してはこのような治療はなかった」。デュロキセチンはうつ病の治療薬としても承認されている。

その他のニュース:小児への放射線照射は低線量でも乳癌リスクを高める可能性癌治療の一環として胸部に放射線を受けた小児癌サバイバーが後年に乳癌を発症するリスクは、以前から考えられていた以上に高い可能性が米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会でのデータにより示された。
スローンケタリング記念がんセンターのDr. Chaya Moskowitz氏は、小児期、青年期、若年期に胸部放射線を受けた女性1,200人以上が参加する小児癌サバイバー調査のデータを発表した。同氏らは、20グレイ(Gy:放射線吸収線量の単位)以上の放射線を受けた女性のうち、ほぼ4分の1で50歳までに乳癌を発症し、そのうち約半数では40歳以前に癌が発症していた。また、低線量の放射線(10~19Gy)を受けた女性の7%でも40歳までに癌が発症していた。対照的に、一般集団の20歳女性が50歳までに乳癌を発症する確率は2%未満だった。
現行の小児癌サバイバー向けガイドラインでは、通常20Gyあるいはそれ以上の放射線を受けた患者に対してのみ乳房MRIによる早期検診を推奨しているが、低線量の放射線を受けた女性に対しての早期検診は推奨していない。
その他のジャーナル記事:世界的癌負担の変化予測国際癌研究機関(IARC)の研究によると、2008年に新規で癌と診断された1,270万人のうち16%(約200万人)が感染因子(ウイルス、細菌、寄生虫)によるものと推定された。感染症防止に対する現行の公衆衛生対策は、「世界における将来的癌負担へかなり貢献するだろう」と筆者らは結論づけた。彼らの解析Lancet Oncology誌3月9日号に掲載された。
2つ目の研究では「感染に関連した癌の減少は、生殖、食事、ホルモン因子とかかわりが深い新たなケースの増加により相殺される」ことが示唆され、そういった癌には乳癌、直腸癌、前立腺癌などが挙げられる。癌パターン、健康、経済尺度といったさまざまなデータにより、研究者らは2030年には2,220万人の新規癌患者が発生し、2008年から75%増加すると算出した。彼らの研究結果Lancet Oncology誌3月31日号に掲載された。世界的な癌研究についての詳細は、NCI世界保健センター(Center for Global Health)を参照のこと。

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片瀬ケイ、佐々木亜衣子 訳
原野謙一(乳腺・婦人科癌/日本医科大学武蔵小杉病院)、吉原 哲(血液内科・造血幹細胞移植/兵庫医科大学病院) 監修 
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