2007/11/20号◆癌研究ハイライト

同号原文
NCI Cancer Bulletin2007年11月20日号(Volume 4 / Number 30)
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癌研究ハイライト

・セツキシマブは進行性結腸直腸癌の生存期間にわずかに寄与する
・3つのリスク要因で乳癌リスクを判定する
・成人喫煙率下げ止まり、一部の集団では依然高く
・初期乳癌におけるレトロゾール、タモキシフェンの安全性が分析で示される
・前立腺癌患者と配偶者を支える家族向けプログラム

セツキシマブは進行性結腸直腸癌の生存期間にわずかに寄与する

分子標的薬であるセツキシマブ〔cetuximab〕(アービタックス〔Erbitux〕)は、これまでの治療に反応しなくなった結腸直腸癌患者の全生存期間に、わずかではあるが統計的有意な改善をもたらすことが、先週、国際的な研究者チームにより報告された。

572人が参加した第III相ランダム化臨床試験では、セツキシマブによる治療の患者と対症療法による患者の全生存率を比較したところ、セツキシマブ群は6.1ヶ月、対症療法群は4.6ヶ月とわずかながらセツキシマブ群が優位であった。この試験に参加した全ての患者の腫瘍には、セツキシマブの分子ターゲットとして知られている上皮成長因子受容体(EGFR)が過剰発現していたと、研究チームはNew England Journal of Medicine誌11月15日号に発表した。

「これは、単剤の生物学的療法が進行性結腸直腸癌患者の生存に恩恵をもたらしたことを示す初めての事例である」と、主任研究員であるカナダ国立癌研究所臨床試験グループのDr. Derek Jonker氏は、4月に開催された米国癌学会(AACR)年次総会でこの試験結果報告に際して初めて語った。

無増悪生存期間もセツキシマブは、対症療法と比較して、わずかではあるが統計上有意な改善関連していたと著者らは報告した。さらにセツキシマブによる治療を受けた患者の31.4%は安定となり、対する対症療法群では10.9%であった。そして、セツキシマブ群の8%に当たる23人は腫瘍の縮小がみられる部分寛解となったのに対して、対症療法群では部分寛解はみられなかった。

研究者チームはさらに「予備解析」を行ったとDr. Jonker氏は説明した。そして彼らはセツキシマブ群の患者にみられた重篤な発疹と治療反応に相関関係があることを発見した。少なくとも28日は生存した患者の生存期間の中央値は、低レベルの発疹の場合は2.6ヶ月、中程度の発疹(グレード1)は4.8ヶ月、重篤な発疹(グレード2)では8.4ヶ月であった。

著者らは、この発見は「発疹は予測マーカとなるかもしれないことを示しているが、現段階では確証はない」と結論付けた。

最近のin vitro試験や動物実験およびヒトを対象とした研究により、ビタミンDが癌の罹患率、死亡率あるいはその両方の低下に関与している可能性のあることが示唆されている。

3つのリスク要因で乳癌リスクを判定する

研究者らは、エストロゲン受容体(ER)陽性乳癌のリスクが高く、タモキシフェンのような薬による予防介入から恩恵を得られるであろう閉経後女性を識別する簡単な方法を提唱した。年齢、家族の乳癌歴とこれまでの乳房生検の3つのリスク要因を用いる彼らのアプローチは、6つのリスク要因から判定する現在の標準的なリスク判定ツールとほぼ同様の結果を得ることができる。

研究者らは、この簡略化されたツールは「予防や日常的な医療の場で、定期的および迅速な事前スクリーニングとしてより容易に行える」と、Journal of the National Cancer Institute誌11月13日オンライン版に発表した。

化学的予防により恩恵を得られるであろう少数を特定するために多くの女性を検査しなければならないため、この少数の女性をより早く特定する検査方法が必要であると、主著者であるHarbor-UCLAメディカルセンターのDr. Rowan Chlebowski氏は記した。

研究者らは、女性の健康イニシアチブ(WHI)のデータを使用して乳癌リスクを予測するいくつかのモデルを比較した。広く用いられているGailモデルは6つのリスク要因を評価しており、WHI登録者の5年乳癌発症率を約20%過小評価したが、ER陽性乳癌はER陰性乳癌より正確に予測された。この簡素化されたツールはER陽性乳癌をGailモデルと同等にほぼ正確に予測した。

NCIの癌疫学・遺伝学研究部門のDr. Mitchell Gail氏(Gailモデルの開発者)らは、WHI登録者の乳癌発症率は一般の米国人より高く、家族歴を基にしたER陰性乳癌リスクは他の多くの研究より低かったと付随論説で記している。「Chlebowski氏らは、乳癌の一部集団の絶対的なリスクを評価する可能性とその難しさを明らかにした有益で重要な結果を発表した」と彼らは記し、50歳以上の女性とそれ以下の女性を対象としたさらなる研究が必要であると付け加えた。

成人喫煙率下げ止まり、一部の集団では依然高く

米国疾病予防管理センター喫煙・健康室発行の『罹患率・死亡率週間報告(Morbidity and Mortality Weekly Report)』11月9日号の報告によると、2006年現在4,500万人以上のアメリカ人が喫煙している。V. J. Rock氏らは2006年国民健康聞き取り調査の自己報告データを分析した。

2006年現在、成人アメリカ人のおよそ5人に1人(20.8%)が喫煙していることが連邦調査員の調べでわかった。この数字は2004年以来大きく変わっておらず、過去7年の減少が下げ止まっていることを示している。過年度と同様に、高校を卒業していない成人(26.7%)や貧困基準以下の人々(30.6%)などの対象群で喫煙率がかなり高いことがわかった。

「成人喫煙率の削減において、長い間進展が見られないのは深刻な懸念であり、なぜそのような事態になっているのかを理解し、対処していく必要があります。」とNCIの癌制御・人口学部門タバコ制御研究支局局長代行のDr. Cathy Backinger氏は述べた。

本研究の著者は、原因として2002年からのたばこ規制のための包括的国家プログラムへの予算が20.3%減少したことと、1998年以降たばこ産業のマーケティング支出が約2倍になっていることが考えられると示唆している。2005年にはタバコ業界のマーケティング支出は合計131億ドルになり、約80%がたばこ増税による消費者への影響を軽減するための小売業者へのクーポンや値引きなどのディスカウント戦略に費やされた。

レトロゾール、タモキシフェンの安全性が分析で示される

エストロゲン受容体陽性初期乳癌女性における術後補助療法の大規模国際臨床試験の詳細な安全性分析が行われ、レトロゾールまたはタモキシフェンによる心疾患事象リスクは概ね低いと示された。

Journal of Clinical Oncology誌が先週オンライン早版で公開した論文で、BIG 1-98として知られる本試験の研究者は、心疾患有害事象の全発生率は、レトロゾールによる治療を受けた女性の4.8%、タモキシフェンでは4.7%と報告した。レトロゾール投与群では心不全などの重篤な心疾患事象を発現しやすく(2.4%対1.4%)、タモキシフェン投与群では卒中などの血栓に関連した重篤な血栓塞栓性事象を発現しやすい(2.3%対0.9%)。

「全発症率は低いが、これらの症状の病歴があるなど血栓塞栓性疾患リスクのある患者はタモキシフェンによる補助療法を避けることを考慮したほうがよいでしょう。」と本研究の筆頭著者でデンマークのRigshospitaletのDr. Henning Mouridsen氏らは記した。

BIG 1-98臨床試験では、8,000人以上の女性において2つの薬剤を用いた補助療法を比較し、5年間各薬剤単独で、または組み合わせて(1つの薬剤を2年間、もう一方を3年間服用)試験を行った。2005年12月に発行された結果では、レトロゾールは再発リスクの軽減において、特に原発腫瘍から離れた部位での転移性腫瘍が発見される「遠隔再発」リスクの軽減においてタモキシフェンより有効であることが示された。

「糖尿病の既往歴と年齢55歳以上はともに心疾患有害事象リスクの重要な予測因子であり、アロマターゼ阻害剤などの極めて有効な補助療法の血管有害事象の継続的な評価は重要です。」と彼らは言及した。

臨床試験では心疾患有害事象の発症率は低く、「タモキシフェンに比して、レトロゾールで得られる局所再発や遠隔再発の優れた制御率は、レトロゾールによる過度の心疾患事象のリスクを補ってなお余りあると考えられます。」と彼らは結論付けた。

前立腺癌患者と配偶者を支える家族向けプログラム

前立腺癌患者とその配偶者向けの家族向け介入プログラムが、夫婦が病気の影響にうまく対処し、生活の質を維持していく上で役に立つと11月12日オンラインで公開されたCancer誌の研究で示された。

本研究はNCIの癌制御・人口学部門から資金提供を受け、標準療法のみ、または標準療法にFOCUS Programと呼ばれる家族単位への介入を加えるか無作為に振り分けられた235組の夫婦が参加した。支援教育プログラムでは、看護師による90分間の自宅訪問3回と、30分の電話セッション2回が2週間の間隔をおいて、基礎評価から4ヶ月間行われる。

「4ヶ月の追跡調査で、介入患者は対照患者に比べ、不安を訴えることが少なく、配偶者とうまくコミュニケーションがとれたと報告しました。介入配偶者では対照群に比べ、より高い生活の質、自己効力感、よりよいコミュニケーションが報告され、介護、不安、絶望、症状による苦悩に対する評価は肯定的で、一部の効果は8ヶ月から12ヶ月持続しました。」と、ミシガン大学看護学部のDr. Laurel Northouse氏率いる研究者らは述べた。

患者も介入からの恩恵を得ているが、「効果は配偶者にとってより大きく、少なくとも前立腺癌患者の配偶者はケアプログラムに参加する必要があると研究結果は示しています。配偶者は傍観者または単に介護を提供する人として見られることがあまりに多いが、そうではなく臨床医は配偶者が癌の影響を受けていることを認識し、彼らを治療を共に受ける人として扱う必要があります。」と研究者は述べた。

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Nogawa、 吉田加奈子 訳

林 正樹(血液・腫瘍科)、榎本 裕(泌尿器科医)監修 

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