2007/02/14号◆特集記事「遺伝子変異に乳癌を防ぐ可能性」
同号原文|
米国国立がん研究所(NCI) キャンサーブレティン2007年02月14日号(Volume 4 / Number 7)
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◇ ◆ ◇ 特集記事 ◇ ◆ ◇
遺伝子変異に乳癌を防ぐ可能性
乳癌の研究者らからなる共同研究体が、カスパーゼ8(CASP8)遺伝子の変異が乳癌に対して軽度な保護作用をもつ可能性があることを報告している。これが乳癌への関与が明らかにされた初めての高頻度にみられる遺伝子変異で、研究者らは今後数々の変異がこれに続くものと考えている。
このことを発見したのは各国のおよそ20の研究チームで構成されるThe Breast Cancer Association Consortium (BCAC)の研究者らで、NCIの科学者らも参加している。2005年に結成されたこの共同研究体は未発表の知見も含め、数々の研究から集められたデータをまとめて、科学文献で報告のあった遺伝子の相関性を調べている。
その成果は2月11日のNature Genetics誌オンライン版に掲載された。
CASP8の評価には14件の研究で集められた3万3千人の女性のデータが使われた。その結果、CASP8遺伝子の変異をひとつもつ女性では乳癌リスクが11%減少し、ふたつの変異をもつ女性ではリスクが26%減少していることがわかった。
「報告のあった遺伝子相関の多くが正確さに欠ける偽陽性である中で、十分に大規模な試験を行えば実証できる相関性もあるかもしれないということをわれわれの研究が示唆しています」と研究共同体の統率者でCancer Research UK Genetic EpidemiologyのDr. Douglas F. Easton氏は言う。
BRCA1のような遺伝子の変異がもたらす乳癌リスクの割合は、親から受け継いだリスクの25%に満たない。残りはおそらく、BRCA1などよりも高頻度にみられる遺伝子変異に由来するとみられるが、個々の変異がもたらすリスクは比較的小さい。
こうした変異が、多くの人がかかる種々の病気に関与していると考えられている。しかし、単独で行われた疫学研究のほとんどは統計学的な威力に欠けるためにその変異を同定できない。
「複雑な病気の遺伝因子を解明する上でBCACのような共同研究体が非常に有用であるという原則がこの研究で証明されました」と、筆頭著者の1人でNCIのDivision of Cancer Epidemiology and GeneticsのDr. Montserrat Garcia-Closas氏は言う。
BCACはこれまでにおよそ20の一塩基多型(SNP)を調べた。SNPはDNAの塩基対のひとつだけが人によって違うゲノムの部位である。
研究者らは、疫学的なデータでは、乳癌リスクの減少がD302Hと呼ばれるCASP8遺伝子のSNPによってもたらされていると立証はできないと警告する。彼らはその近辺にある変異も研究している。
D302Hはヨーロッパにルーツがある白人女性の13%がもっていると見られている。この成果を受けて他の人種がもつCASP8の研究も始まるであろう。
女性にとってこの報告が今すぐ役に立つというわけではないが、今回と同じ様にアプローチすれば、高頻度で存在し、一体となって女性のリスクに影響を与える一群の遺伝子変異を同定できるかもしれないという可能性が示唆されている。
「こうした変異を同定し、相関性をもたらす機序を調べることで乳癌の生態がさらによくわかるようになると思います」とDr. Garcia-Closas氏は言う。
CASP8はプログラムされた細胞死という、細胞に腫瘍になるよりはむしろ自殺を選ばせる防御機構に関与する。ある仮説によると、D302Hにおける変異は癌化した細胞を除去する生体の能力を亢進するという。
BCACは CASP8以外の遺伝子についても調べて、乳癌リスクと形質転換増殖因子遺伝子TGFB1の変異との相関性を示す証拠を見つけた。TGFB1は様々な生物活性をもつが、とくに細胞増殖を抑制する作用がある。
今後はゲノム規模の相関解析から数々の変異が同定されるであろうと、この研究の共著者でありNCIの癌研究センターCenter for Cancer ResearchのPopulation Genetics研究室のDr. Jeffery P. Struewing氏は言う。
これまでに詳しく研究が行われた遺伝子はほとんどないことから、今後乳癌感受性変異が数多くみつかるであろうとDr. Easton氏は予測する。
「こうした相関解析が成功するためには多国間のコラボレーションが必須です」と氏はつけくわえる。この研究では13カ国の女性のデータの解析が行われた。
— Edward R. Winstead
翻訳担当者 なかむら、、
監修 大藪 友利子(生物工学)
原文掲載日
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