2008/09/23号◆クローズアップ「携帯電話と脳腫瘍の関連性: 知られていること、知られていないこと
同号原文|
NCI Cancer Bulletin 2008年09月23日号(Volume 5 / Number 19)
~日経「癌Experts」にもPDF掲載中~
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◇◆◇クローズアップ◇◆◇
携帯電話と脳腫瘍の関連性: 知られていること、知られていないこと
携帯電話の使用が健康に影響を及ぼすのではないかという懸念が、この夏再び話題にあがった。しかし、この懸念、特に携帯電話の使用により脳腫瘍の発症リスクが増加するのではないかという懸念は、この問題に関する研究が増加しているにもかかわらず、裏付けはされていない。
携帯電話の使用と悪性もしくは良性脳腫瘍の関係については、これまでに十数件の研究が行われている。その研究の大半では、携帯電話の使用歴が10年以内の場合、全体的な脳腫瘍のリスク増加はほとんどあるいは全く認められていない。現在進行中の研究により、携帯電話の長期使用に関する情報、および児童を対象とした初めての研究結果が明らかになるであろう。
「現在、われわれは、携帯電話の使用歴が10年以下の人を対象にしたいくつかの研究を行っているが、脳腫瘍のリスクが増加するという確固たる証拠は未だ見当たらない。」と米国立癌研究所の癌疫学・遺伝子学研究部門(NCI’s Division of Cancer Epidemiology and Genetics)の研究者で、この問題に関する初期研究のひとつを主導したDr. Peter Inskip氏は述べた。同氏は最近、NCIの国立癌諮問委員会(National Cancer Advisory Board)において、携帯電話と脳腫瘍の関連について何が分かっていて、何が分かっていないのかを要約した。
未だに答えの出ていない最も重要な問題は、いかにして携帯電話が癌の原因になりうるかということである。携帯電話は電磁波の一種である高周波エネルギーを放出する。高レベルの高周波エネルギーに暴露されると、人体組織は加熱される可能性があるが、携帯電話から放出される高周波エネルギー量は小さいため組織が著しく加熱されることはない。
「高周波が癌を誘発するという生物学的メカニズムは不明であり、完全な推測である」とInskip氏は述べた。
携帯電話と癌についての論争は、1993年に全国ネットのテレビ放送で、キャスターのラリー・キング氏が、携帯電話が原因で彼の妻が致命的な脳腫瘍に罹患したと主張する男性にインタビューをしたことから始まった。その論争はメディアで大きく取り上げられ、携帯電話の株価は一時的に急落した。そのテレビ放送から一週間以内に、米国連邦議会はNCIをはじめとする諸機関に、携帯電話と癌の関連性についての調査を依頼した。
当時、脳腫瘍の原因を特定すべく研究の準備をしていたInskip氏は、携帯電話の使用に関する評価を研究課題に追加した。2001年のNew England Journal of Medicine誌に発表された研究結果においては、近年の携帯電話の使用と脳腫瘍との間に相関は認められなかった。その結論は、ほぼ同時期に発表された他の二つの研究報告によって支持された。
その後、ほとんどの研究において携帯電話と癌との関連性は認められていない。研究は主として、この新しい技術が健康に悪影響を及ぼしているとしたら、公衆衛生上の大問題になるという人々の懸念に応えること目的として開始されている。米国内だけでも携帯電話の加入者数は2000年の1億1千万人、2005年の2億8百万人から昨年は2億5千5百万人以上に増加した。
この劇的な増加を考慮して、米国では脳腫瘍の発症が増加しているかどうか調査が行われたが増加は認められなかった。NCIのSurveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)プログラムのデータによると1987年から2005年の間に脳腫瘍またはその他の神経系癌の発症率の増加は認められていない。
別の調査では、職場で高レベルの高周波エネルギーに暴露されている集団に焦点を当てた。携帯電話の製造工場の従業員を対象とした研究と、朝鮮戦争時に高周波に暴露されたベテラン海軍レーダー技術者を対象にした二つの研究が行われたが、どちらの対象群においても癌リスクの増加は認められなかった。
携帯電話の技術は非常に新しいもので、時間と共に変化しているため、長期使用に関する疑問に答えるためには大規模な研究を行う必要がある。その答えは国際共同症例対照研究(INTERPHONE study)の総称で知られる多国間の一連の共同研究により明らかになる可能性がある。総合的な解析はまだ終わっていないが、13の研究参加国のうちの数カ国で集積されたデータの解析結果では、脳腫瘍リスクへの影響はほとんどあるいは全くないと報告された。
いくつかのヨーロッパ参加国ではさらに、脳腫瘍と診断された児童および若年者を対象にした携帯電話の使用についての研究をしている。児童は神経系が発達途上にある時期に携帯電話に暴露されるため、健康への影響が大人より高い可能性がある。さらに、若年者は生涯何十年も携帯電話の暴露をうける可能性がある。
今後は、研究ごとおよび研究全体の結果から一貫性を見出すことが重要であるとInskip氏は述べた。「もっとデータが増えて、多角的にデータを解析することができるようになれば、単なる偶然により、ある程度明確な結果が出る可能性が高い」と言った。
今まで研究された携帯電話に関連した健康上のリスクのうち、最も説得力のあるものは、運転中の携帯電話の使用による不注意が招く自動車事故のリスクに関するものであるとInskip氏は語った。
―Edward R. Winstead
発表された研究のリストおよび詳細は、NCIのCellular Telephone Use and Cancer Riskのファクトシートを参照のこと。
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Yuko Watanabe 訳
中村 光宏 (医学放射線) 監修
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翻訳担当者 Yuko Watanabe
監修 中村 光宏 (医学放射線)
原文掲載日
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