ソラフェニブがデスモイド腫瘍/侵襲性線維腫症患者の無増悪生存期間を延長

デスモイド腫瘍または侵襲性線維腫症(DT/DF)患者を対象にしたランダム化臨床試験の中間結果から、ソラフェニブトシル酸塩(商品名:ネクサバール)はプラセボと比較して、無増悪生存期間を延長させることが示された。無増悪生存期間は、疾患が悪化するまでの期間である。この中間結果に基づいて、本臨床試験を監督するデータ安全性モニタリング委員会は、本試験の主要結果を発表するよう勧告した。

本臨床試験は米国国立衛生研究所(NIH)の一部である米国国立がん研究所(NCI)が依頼し、Alliance for Clinical Trials in Oncology (Alliance)の研究者らがデザインして実施した。さらに試験薬を提供したバイエルヘルスケアAG社の支援を受けた。

「ソラフェニブは、このまれながんを治療する新たな方法です。この第3相臨床試験の有望な結果は、デスモイド腫瘍患者の治療法におけるパラダイムシフトを表しています」と、臨床試験責任医師で研究代表者であり、ニューヨーク市のスローンケタリング記念がんセンターの肉腫専門の腫瘍内科医であるMrinal M. Gounder医師は述べた。

デスモイド腫瘍/侵襲性線維腫症は、米国で毎年約1,000人が発症すると推定されるまれな肉腫であり、患者の多くは比較的若い。この肉腫は、通常、四肢または腹部に発生し、家族性大腸ポリポーシスまたはガードナー症候群と関連する場合がある。デスモイド腫瘍/侵襲性線維腫症は局所侵襲性であり、疼痛および運動性の低下をもたらし、さらに重要な臓器や組織に浸潤して腸閉塞および他の重篤な合併症を引き起こす可能性がある。

「現在、このまれな疾患に標準治療はなく、手術、放射線療法、化学療法など、用いられている治療の有効性は通常限定的です。しかし、この臨床試験の中間結果は有望であり、新たな治療法を提供できるかもしれません」と、NCIがん治療・診断部門の臨床部長であるJeff Abrams医師は述べた。

ソラフェニブは錠剤の分子標的治療薬であり、がん細胞の増殖および腫瘍の成長に必要な血管の新生を妨げる。進行した腎臓がん、肝臓がん、および甲状腺がんを有する一部の患者の治療薬として、米国食品医薬品局(FDA)の認可を受けている。今回の臨床試験でソラフェニブが選択されたのは、同薬剤による治療を受けた患者を対象としたこれまでの後ろ向き試験で、デスモイド腫瘍が縮小し、患者の疼痛や他の症状が軽減したためである。

A091105と呼ばれる第3相二重盲検臨床試験で、2014年3月から2016年12月までにデスモイド腫瘍/侵襲性線維腫症患者87人を登録した。適格患者は、外科的に切除不能な腫瘍がある、すでに進行した腫瘍がある、または腫瘍による症状があり特定の基準を満たすことが必要であった。患者を2つの治療群のうちの1つにランダムに割り付け、一方の群にソラフェニブ(400mg/日)を投与し、もう一方の群にマッチさせたプラセボを投与した。両群とも、腫瘍の成長が認められるまで、または治療による有害事象を発現するまで治療を継続した。試験中に腫瘍が増悪した場合、患者に治療の割り付けを伝え、プラセボ群の患者にはソラフェニブ投与が認められた。

主要評価項目は無増悪生存期間であった。この臨床試験のデザインは、無増悪生存期間中央値をプラセボ群での6カ月からソラフェニブ群で15カ月へと延長することを目標としていた。最初に登録された患者75人の中間解析により、試験デザインの目標を上回る無増悪生存期間の延長が観察された。

ソラフェニブ群の患者は、プラセボ群の患者よりも薬物関連の有害事象を発現する可能性が高かった。しかし、疲労、発疹、消化器合併症、感染症、高血圧など、認められた副作用は概して重症ではなかった。

本試験の詳細は、今後開催される学会や査読付き雑誌で発表される予定である。

Allianceは、NCI臨床試験ネットワーク(NCTN)の4つの成人ネットワークグループのうちの1つである。ソラフェニブの製造元であるバイエル社は同薬剤を本臨床試験に提供し、ソラフェニブの臨床開発のため、NCIとの臨床試験に関する合意(Clinical Trials Agreement)の下で本試験を支援した。

「NCIが支援するNCTNプログラムを通じて集まった研究者の大規模な全国ネットワークがなければ、この臨床試験は行われていなかったでしょう。NCTNプログラムによってこの非常にまれながん患者を登録できたのです」とAbrams医師は述べた。

「本試験は、米国とカナダでこのまれな腫瘍を持つ患者を対象に行われました。試験が成功したことで、Alliance、NCI、およびバイエルヘルスケアAG社のパートナーシップにより、大きな変化をもたらす臨床試験を実施するための基盤と科学的知識を提供できることが示されました」と、Experimental Therapeutics and Rare Tumor Committee of Allianceの共同委員長であり、ニューヨーク市コロンビア大学ハーバート・アーヴィング総合がんセンター副所長であるGary K. Schwartz医師は付け加えた。

「デスモイド腫瘍または侵襲性線維腫症の患者を対象にした、このNCI依頼による臨床試験から、臨床を変える可能性のある結果が得られたことを歓迎しています。今後学会での完全なデータの発表を楽しみにしています」と、バイエル社Global Medical Affairs, Oncologyの部長であるSvetlana Kobina医学博士は述べた。

データ安全性モニタリング委員会の勧告に従って、本試験でいまだ治療を受けている患者および担当医師に治療割り付けが開示された。この臨床試験で、ソラフェニブ群の患者は治療を続けることが可能であり、プラセボ群の患者は、必要であれば、担当医師と治療選択肢を話し合ったうえで、代わりにソラフェニブ投与を受けることが可能である。

臨床試験の詳細については、http://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02066181を参照のこと。

翻訳担当者 坂下美保子

監修 遠藤 誠(肉腫、骨軟部腫瘍/九州大学病院 整形外科)

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