2010/04/20号AACR特集◆特別リポート「臨床試験によりさらに進められる肺癌治療の個別化」
同号原文|
NCI Cancer Bulletin2010年4月20日号(Volume 7 / Number 8)
〜日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜
____________________
◇◆◇ 特別リポート ◇◆◇
臨床試験によりさらに進められる肺癌治療の個別化
ワシントンDCで開催されたAACR年次総会において、腫瘍生検サンプルの分子解析および’アダプティブ(適応型)デザインを用いて患者の特定の標的療法を決める、初めての肺癌臨床試験の暫定結果が発表された。 BATTLEと称されるその試験では、患者の腫瘍サンプルを特定のバイオマーカーについて検査し、その解析に基づいて、治療標的がそれぞれ異なる4つの治療群の1つに患者を登録した。(下記の囲み記事参照)
BATTLE試験に登録された最初の97人の患者は、従来通りの方法で、4つの治療群の1つに無作為に割り付けられた。それ以降の新たな患者は、アダプティブベイズモデルと呼ばれる統計モデルに基づいて、治療群の1つに割り付けられた。そのモデルでは、バイオマーカー解析結果を用いるだけでなく、試験進行中にもすでに治療を終えた患者の結果が、モデルにフィードバックされて割り付けが行われた。
「このタイプの試験では有効性の徴候が早期に同定されることから、開発の効率化が期待されます」と日曜日に結果を発表したテキサス大学M.D.アンダーソンがんセンターのDr. Edward Kim氏は述べた。「ですから、全生存期間の1.5カ月延長を検証する大規模第3相試験を実施する代わりに」、より少数のより絞り込まれた試験対象集団で「薬剤に強い反応を示し全体的な有効性を高めるマーカーを見つけることができるのです」。
しかし、Kim氏は、2004年に考案されたBATTLE試験は始まりにすぎないことを認めた。同氏は、「このタイプの試験モデルは、有用なバイオマーカーと適切な治療があるかどうかに大きく左右されます」と述べた。そのいずれもが、疾患の進行した患者においては著しく欠落している。
BATTLE試験と同じように、乳癌に対して最近開始されたI-SPY2試験も、アダプティブデザインの統計モデルを採用している。しかし、I-SPY2試験では、より健康な患者集団を対象として術前の治療実施を研究している。
BATTLE試験には、300人を超える患者が登録された。AACR総会で発表された結果は、244人の患者データに基づいていた。試験の主要評価項目は、8週間の疾患制御率であった。試験対象患者の全生存期間は9カ月であったが、8週間の時点で疾患制御が良好でなかった患者の全生存期間中央値7.5カ月と比較して、疾患制御が8週間の時点で良好であった患者の全生存期間中央値は11カ月であった。4つの治療群それぞれの無増悪生存期間もしくは全生存期間のデータはまだわからない。
BATTLE試験の限定的な試験結果を解釈することは難しい、と米国国立癌研究所(NCI)癌研究センターの腫瘍内科学支部長で胸部腫瘍学課長であるDr. Giuseppe Giaccone氏は述べた。試験デザインにおけるいくつかの著しい限界がその主な理由である。例えば、Giaccone氏の説明によると、8週間の疾患制御は、肺癌臨床試験の有効な評価項目ではない。また、試験には対照群がないため、個々の薬剤の有効性を判断することが困難である(肺癌治療用としてFDAの承認を得ているのはエルロチニブ(タルセバ)のみである)。
本会議での発表で、コロラド大学癌センター長のDr. Paul Bunn氏は、このように複雑な試験を実施した手腕を評価したが、ベキサロテン(ターグレチン)とエルロチニブを併用する理論的根拠などの、いくつかの懸念事項にも言及した。ベキサロテンは、皮膚T細胞リンパ腫の治療用として承認されているが肺癌における効果はまだ示されていない。
BATTLE試験は第2相試験であり限界はあるものの、非小細胞肺癌(NSCLC)患者から十分な組織サンプルを採取することの重要性をはっきりと示しているとKim氏は話した。現在、利用できる腫瘍サンプルがあるのは患者の20〜30%にすぎない、と同氏は述べた。
適切な組織サンプルをあまねく入手することは研究に大いに役立つと、Kim氏は言及した。また、研究が進み、承認ないしは試験中の治療に対する反応を予測する可能性がある、エルロチニブに対するEGFR変異および試験中のALK阻害剤に対するEML4-ALK遺伝子の融合などの、バイオマーカーが示されると、サンプルを用いてこれらのマーカーを検査して患者に効果をもたらす可能性が高い治療を提供することが可能になる。
BATTLE試験での経験の一部に基づいて、M.D.アンダーソンがんセンターの研究者らは将来的に、「生検で採取できる組織量を最適化するための」転移腫瘍もしくは原発腫瘍の「適した部位」を同定する論文を発表するだろう、とKim氏は述べた。
類似する2つのアダプティブデザイン試験、BATTLE 2およびBATTLE 3試験、がすでに進められている、とKim氏は述べた。BATTLE 2試験は、BATTLE試験と類似する患者集団を対象とするが、事前に示されるバイオマーカーへの依存度が低いことなど、デザインには多くの修正が加えられる。BATTLE 3試験は、進行したNSCLCの初期治療を受ける患者を対象とする。
—Carmen Phillips
*BATTLE試験の薬剤およびマーカーBATTLE試験の患者腫瘍サンプルは、登録後に採取され、EGFR遺伝子およびKRAS遺伝子などの変異、サイクリンD1の過剰なコピー(増幅)、もしくはVEGFなどのタンパク質の発現を含む、11の異なるバイオマーカーの存在について解析された。試験では、エルロチニブ(タルセバ)、ソラフェニブ(ネクサバール)、バンデタニブ(ザクティマ)、もしくはエルロチニブとベキサロテン(ターグレチン)の4つが採用された。
豊 訳
後藤 悌(呼吸器内科医/東京大学大学院医学系研究科)監修
原文掲載日
【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。
肺がんに関連する記事
免疫療法薬2剤併用+化学療法はSTK11/KEAP1変異肺がんに有効
2024年11月18日
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、腫瘍抑制遺伝子であるSTK11/KEAP1に...
先住民地域のラドン曝露による肺がんリスクの低減を、地域と学術連携により成功させる
2024年11月7日
「ラドンへの曝露は肺がんのリスクを高めますが、いまだに検査が行われていない住宅が多くあります。...
世界肺癌学会2024で発表されたMDアンダーソン演題(非小細胞肺がん)
2024年10月17日
肺がん手術と腫瘍病理診断の質の向上により術後生存期間が延長
2024年10月16日