FDAが再発・難治性リンパ腫に初のCAR-T細胞療法薬を承認

2020年7月25日、米国食品医薬品局(FDA)は、マントル細胞リンパ腫(MCL)と診断された成人患者で、他の治療法で奏効が認められなかった患者または再発した患者の治療として、細胞ベースの遺伝子治療brexucabtagene autoleucel(販売名:Tecartus)を承認した。キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法であるbrexucabtagene autoleucelは、MCLの治療においてFDAから初めて承認された細胞ベースの遺伝子治療である。

「治療が困難な衰弱性疾患に対する新規の治療法開発の分野では、目覚ましい進歩が遂げられています。今回の承認も、この新しく有望な医療分野における科学的進歩を生かした一例であり、がんとの戦いに患者自身の免疫システムを利用するというカスタマイズされた治療です。われわれは遺伝子治療の分野で進歩が続いているのを目の当たりにしており、この有望な新分野における技術革新の支援に引き続き尽力していきます」と、FDAバイオ製剤評価研究センター長のPeter Marks医師は述べている。

マントル細胞リンパ腫(MCL)は、通常、中高年の成人に発症する稀なB細胞性非ホジキンリンパ腫である。MCLの患者では、身体が感染症と戦う際に働く白血球の一種であるB細胞ががん細胞に変化し、それがリンパ節に腫瘍を形成し始め、体の他の部位に急速に広がる。

Brexucabtagene autoleucelは、リンパ腫との戦いを助けるため患者自身の免疫システムを使用して患者毎に作成されるカスタマイズされた治療である。患者の白血球の一種であるT細胞を採取し、遺伝子操作を通してリンパ腫細胞を狙い撃ち、死滅させやすくする新たな遺伝子を組み込むのである。その後、改変されたT細胞が患者に注入される。

Brexucabtagene autoleucelの安全性と有効性は、難治性または再発MCLの成人60人を対象とした多施設共同臨床試験で確立された。試験参加者に対し、奏効がみられた後、6カ月以上の経過観察が行われた。brexucabtagene autoleucel投与後の完全奏効率は62パーセント、奏効率は87パーセントであった。

枠組み警告で注意喚起されているのは、サイトカイン放出症候群(CRS)と神経毒性である。CRSは、CAR-T細胞の活性化と増殖に対する全身応答で、高熱およびインフルエンザ様症状を引き起こす。サイトカイン放出症候群と神経毒性はどちらも致死的または生命を脅かす可能性がある。brexucabtagene autoleucel治療に最もよくみられる副作用には、重度の感染症、血球数の減少、免疫機能低下などがある。 また、これらの副作用は通常、最初の1〜2週間で発現するが、その期間の後に発現する副作用もある。

Brexucabtagene autoleucelはサイトカイン放出症候群 (CRS)と神経毒性のリスクがあるため、承認には安全な使用を確保するための要件(ETASU)を含むリスク評価・リスク緩和戦略(REMS)が適用されている。brexucabtagene autoleucelに対するこれらのリスク緩和策は同じくCAR-T細胞療法であるYescarta(イエスカルタ)のREMSプログラムと同じものである。

長期的な安全性のさらなる評価を行うために、FDAは製薬会社に対して、brexucabtagene autoleucel治療患者に関する市販後の観察研究を実施することも要求している。

Brexucabtagene autoleucelはFDAより迅速承認され、優先審査画期的治療薬の指定を受けた。また、希少疾患の医薬品開発を支援、促進するためのインセンティブが提供されるオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)の指定も受けた。brexucabtagene autoleucelの申請は、機関の連携によって検討された。FDAのOncology Center of Excellenceが臨床レビューを担当し、生物製剤評価センターがその他のすべてのレビューと最終的な製品の承認決定をおこなった。FDAは、生命を救う可能性のある安全かつ効果的な治療選択肢を支持することに引き続き尽力していく。

FDAはKite Pharma社に対してTecartusを承認した。

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翻訳担当者 髙橋多恵

監修 吉原 哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)

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