トラスツズマブ併用でHER2陽性子宮漿液性がんの生存期間が延長

悪性度の高いタイプの子宮体がん患者の一部で、通常はある種の乳がんに用いる薬剤を使用すると生存期間が延長する可能性があることが、小規模な臨床試験の最新結果から明らかになった。

臨床試験に参加したのは、子宮漿液性がん(USC)が子宮外に転移したか、前回の治療後に再発しており、がん細胞の増殖を促進するタンパク質であるHER2のレベルが高い女性であった。トラスツズマブ(ハーセプチン)は、がん細胞の表面でHER2に結合し、腫瘍の増殖を阻害する。トラスツズマブは1998年以降、HER2レベルが高い乳がんの治療に用いられてきた。

「本試験の結果は、医師と患者に対して子宮体がんにおけるHER2の重要性を強く示しています」と、米国国立がん研究所(NCI)のがん治療・診断部門の婦人科がんリーダーであるElise Kohn医師は述べている。

生存期間に関する最新結果は6月29日にClinical Cancer Research誌に発表された。本試験はイェール大学と、トラスツズマブの製造者であるGenentech社から資金援助を受けた。

増加しつつある子宮体がん

子宮体がんは米国では最も多い婦人科がんであり、2020年の新規患者は65,620人と推定されている。子宮体がんの発症率は増加し続けており、患者数は過去20年間で2倍になっている。

子宮体がんで最も多いのは子宮類内膜腺がんであり、通常は早期に診断される。多くの場合、子宮摘出術により治癒可能であり、その後放射線療法を実施することもある。

子宮漿液性がんは悪性度の高い子宮体がんである。子宮体がん全体の10%~15%を占めるに過ぎないが、子宮漿液性がんによる死亡者は子宮体がん全体の約40%に上る。発症数がより多い子宮類内膜腺がんとは異なり、子宮漿液性がんは進行してから診断される傾向がある。

「子宮漿液性がんを発見したときにはすでにリンパ節など他の部位に転移していることが多いです」と、本研究の臨床試験責任医師であり、イェールがんセンターの産婦人科・生殖科学教授であるAlessandro Santin医師は述べている。「子宮漿液性がんの治療では、手術に加えて子宮外へのがんの転移を効果的に抑制する全身療法が必要となるのはそのためです」とSantin医師は説明した。

子宮漿液性がん患者の約3分の1で腫瘍細胞におけるHER2の過剰発現がみられ、これが子宮体がん患者の予後不良につながっていることが証明されている。また、黒人の子宮体がん患者のほうが白人よりも子宮漿液性がんと診断される割合が高い。Santin医師をリーダーとする試験を含むいくつかの研究により、黒人の子宮漿液性がん患者は他の人種よりHER2陽性腫瘍を有する可能性が高いことが示唆されている。この直近の臨床試験に参加した女性の約3分の1が黒人であった。

利益を示す試験結果

この臨床試験には、子宮摘出術を受けたHER2陽性子宮漿液性がん患者で、子宮外に転移したか治療後に再発した58人の女性が参加した。患者らは、カルボプラチンとパクリタキセルを用いた標準化学療法か、同療法+トラスツズマブのいずれかに無作為に割り付けられた。

試験の主要目的は、治療開始からがんの再増殖が始まるまでの生存期間(無増悪生存期間)を見極めることであった。この無増悪生存期間は、標準化学療法のみを受けた患者よりもトラスツズマブ+標準化学療法を受けた患者のほうが長かった(8カ月に対して13カ月)。トラスツズマブを受けた患者は、全生存期間も化学療法のみを受けた患者より長かった(24.4カ月に対して29.6カ月)。

試験に参加した患者のほとんどすべてに副作用が発生したが、副作用のために投与を中止した参加者はいなかった。両群間で副作用のタイプに有意な差はなかったが、トラスツズマブ群では高血圧の発現率がより高かった。

研究者らは、トラスツズマブを追加することによる利益は、全身療法後にがんが再発した患者よりも全身療法歴のない進行がん患者(子宮外に転移した患者)のほうが大きいことを見出した。26カ月の追跡期間後に、一次全身療法としてトラスツズマブ+化学療法を受けた患者の半数超が生存していた。一次治療として化学療法のみを受けた患者の生存期間は約24.4カ月であった。

治療歴がなかった患者の無増悪生存期間は、化学療法のみを受けた患者では9.3カ月であったのに比較して、トラスツズマブも投与した患者では17.7カ月とより長かった。

「標準化学療法レジメンにHER2標的薬トラスツズマブを追加することで、無増悪生存期間だけでなく全生存期間でも大きな違いが生じることを初めて証明できました。トラスツズマブを投与した患者の生存期間は有意に延長しました」とSantin医師は説明した。

小規模な研究から劇的な結果

この研究は2011年に開始され、HER2陽性子宮漿液性がん患者100人を登録する予定であった。しかし、6年間の募集期間で登録した患者はわずか61人で、新たな参加者の受け入れは中止された。登録した患者のうち58人が治療を受け、解析の対象とした。

規模が小さく患者数が予想より少なかったにもかかわらず、2018年に発表されたこの試験の最初の結果は、全米総合がんセンターネットワークがHER2陽性子宮漿液性がんの推奨薬にトラスツズマブを加えるきっかけになった。全米総合がんセンターネットワークは各種がんセンターの自主的ネットワークであり、診療ガイドラインの作成を行っている。

「58人の患者を2群に分けた小規模な研究ですが、無増悪生存期間でも全生存期間でも違いが認められました。今回の結果は、HER2が子宮漿液性がんを促進する作用がいかに強いかを物語っています。つまり、この患者集団にはトラスツズマブが有効だということです」とSantin医師は語った。

「今回の研究では患者に対する利益が認められましたが、この結果をより大規模な試験で確認する必要があります」とKohn医師は述べている。

「この研究は治療歴のない患者と再発子宮漿液性がん患者とが混在した小規模なものでしたが、こうした限界があるにもかかわらず肯定的な結果が得られ、主要評価項目ではなかったものの全生存期間において利益がみられたことは大いに刺激的でした」とKohn医師は説明した。

第2相試験の結果を確認するために、より大規模な第3相試験が計画されている。

HER2検査が重要

Santin、Kohn両医師によれば、一部の大学病院では子宮体がんに対してHER2レベルの検査が実施されているが、地域のがんセンターや開業医でこのような腫瘍検査がどの程度行われているかは不明である。

「イェールがんセンターでは、子宮漿液性がんでのHER2の臨床検査を標準検査と考えています」とSantin医師は語った。

Kohn医師は、子宮漿液性がん患者に対する分子生物学的検査については改善の余地があると考えている。「分子生物学的検査は一部の大学病院では普通に行われていますが、広くは行われていないと思います」とKohn医師は話した。

子宮漿液性がんは「子宮体がんの少数ながら深刻な亜種」であり、高レベルのHER2を発現することが多い。本研究の暫定データは、子宮漿液性がんと診断された患者全員にHER2検査を実施する必要があることを強く示唆している、とKohn医師は語った。

乳がんおよび胃がんにおいて、HER2はネガティブな予後バイオマーカーである。「これは、腫瘍のHER2レベルが高い患者は転帰が不良となることが多いことを意味しますが、乳がんと胃がんでは吉兆だとも言えます。つまり、HER2標的レジメンでがんを治療すれば、患者の生存期間を改善できる可能性があります」とKohn医師は話す。

本研究は、子宮体がんの悪性度の高い亜種である子宮漿液性がんについても同じことが言えることを示唆している。

「この大きな前進を確かなものにしたい」とKohn医師は語った。

医師らは子宮漿液性がんの診断のために腫瘍のいくつかのタンパク質に着目しているが、それらのタンパク質のいずれも子宮漿液性がんの治療法を変えるには至っていない、とSantin医師は説明した。

Santin医師は、「鑑別診断にHER2検査を加えることで患者には大きな影響があります。患者の全生存期間を延長する新たな治療法への道が開けるかもしれないからです」と話を結んだ。

翻訳担当者 角坂 功

監修 原野謙一(乳腺・婦人科腫瘍内科/国立がん研究センター東病院)

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