【子宮頸がん検診】パップテストとHPV検査
◆子宮頸がん検診とは何ですか?
子宮頸がん検診は女性の日常の健康管理のひとつとして不可欠です。子宮頸がんのほぼ全症例は、発がん性の性感染性である高リスク型ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)感染により引き起こされます。検診の主要目的は、HPVが引き起こす前がん病変を特定し、浸潤がん発生の予防のため前がん病変の除去を可能にすることです。副次的目的は、子宮頸がんの早期発見(通常予後良好に治療することができます)です。子宮頸がんの定期検診は子宮頸がん症例数とそれによる死亡者数の両者を大幅に減少させることが示されています。
長年の間、細胞診であるパップテストもしくはパップスメア(子宮頸部細胞診)が唯一の検査方法でした。それにより、検診が普及している国では、子宮頸がん発症者数とそれによる死亡者数が減少しました。
しかし、HPV検査が可能になったことで、現在では子宮頸がん検診には次の3種類の方法があります。
1)HPV検査(子宮頸部細胞における高リスク型HPVの有無を調べます)
2)細胞診(パップテスト)
3)HPV/細胞診同時検査 (高リスク型HPVと子宮頸部細胞の変化の両者に関して、同一細胞検体を検査します)です。
◆子宮頸がん検診はどのようにして実施されますか?
子宮頸がん検診は、医院、診療所、または一般病院で実施され、内診台での診察の間に実施されることが多いです。
女性が診察台で横になっている間に、医療従事者は膣鏡という器具を膣内に挿入して、子宮頸部が見えるように頭側の膣壁を広げます。こうすることで、医療従事者は子宮頸部細胞の検体を採取することができます。子宮頸部細胞を木製もしくはプラスチック製のヘラや子宮頸部細胞診ブラシで採取し、細胞保存液入り容器内に入れます。次にスライドガラスまたは容器を臨床検査機関に送り、子宮頸部細胞の高リスク型HPVの有無を調べ、および/または自動化液状化検体細胞診を使用して顕微鏡下で検査します。 同一検体を使用してHPV検査とパップテストを行う検査が、「HPV/細胞診(以下パップ)同時検査」です。
おそらく子宮頸部の視診と細胞検体の採取における困難により、子宮頸がん検診は肥満女性にはあまり効果がないことが分かっています。より大型の膣鏡の使用など、肥満女性における子宮頸部の視診の改良が有用かもしれません。
◆いつ女性は子宮頸がん検診を受け始めるべきですか、またどのくらいの頻度で受けるべきですか?
女性は主治医と子宮頸がん検診の開始時期およびその受診頻度に関して相談すべきです。2018年8月、最新の子宮頸がん検診ガイドラインが米国予防医療特別専門委員会(USPSTF)
により発表されました。最新の検診ガイドラインは以下の通りです。
- 21~29歳の女性は3年毎にパップテストを受診すべきです。
- 30~65歳の女性は以下の3種類の検査のいずれかを受診すべきです。
- 5年毎に高リスク型HPV検査のみ
- 5年毎に高リスク型HPV・パップ同時検査
- 3年毎にパップテストのみ
- 特定のリスク因子を有する女性はより高頻度で受診する、または、66歳以上になっても受診を続ける必要があるかもしれません。こうしたリスク因子は、以下の通りです。
- ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染
- 免疫不全
- 出生前ジエチルスチルベストロール(女性ホルモン薬)曝露
- 子宮頸部の前がん病変もしくは子宮頸がんの治療歴
- 子宮頸がん検診は以下の女性に対して推奨されません。
- 21歳未満の女性
- 適切な検診を受けたことがあり、検査結果が正常で、かつ、子宮頸がんリスクが高くない66歳以上の女性
- 子宮全摘出術(子宮体部および頸部切除手術)歴があり、かつ、子宮頸部の高度前がん病変歴や子宮頸がん歴が無い女性
米国産科婦人科学会、米国コルポスコピー子宮頸部病理学会、および米国婦人科腫瘍学会が発表した共同声明によると、最新の検診ガイドラインは概してそれらの臨床ガイダンスと一致していますが、詳細では異なる箇所もあります。
2018年発表の検診ガイドラインにおける検査間隔は、HPV感染と子宮頸がん発症の成り立ちに関する研究者らによる理解の進展を反映するものです。子宮頸部のHPV感染はほとんどの女性に起こることですが、大部分の感染は免疫系により1~2年の間に抑制されます。大部分のHPV感染は一過性で子宮頸部細胞に一過性の変化しか引き起こさないため、頻繁過ぎる検診はがんを決して引き起こさないHPV感染または細胞の変化を検出する可能性があります。自然消失する細胞異常の治療は無用な精神的ストレスを引き起こす可能性があります。追跡検査および治療も不快で、子宮頸部組織切除術は子宮頸部の機能を低下させ、切除された組織の量によっては妊孕性に影響を及ぼしたりわずかとはいえ早産率を上昇させたりする可能性があります。
こうした検診間隔の設定により、前がん病変またはがんの診断および治療を遅らせる偽陰性の結果も減少します。こうした間隔設定により、HPV感染または異常細胞を1回の検診で見落としても、感染や細胞の変化を次の検診で検出し、まだ無事に治療できる可能性は残ります。
子宮頸がん検診の成功は、1つには女性が通常長年にわたり検査を繰り返し受けたことのおかげです。定期検診を受けた女性の大規模集団に関する研究から、HPV/パップ同時検査結果が陰性である女性は、その後の検診でHPV感染や子宮頸部細胞の異常が新たに見つかっても、前がん病変やがんを発症するリスクが極めて低いことが示されました。
◆3種類の検査方法はどのように比較しますか?
30歳以上の女性に対して、HPV/パップ同時検査とHPV検査の両者はパップテストと比較して高感度です。その結果、HPV検査陰性およびパップテスト正常の、即ちHPVが検出されない女性は子宮頸部の前がん病変が今後数年の間に発生するリスクが非常に低くなります。HPV/パップ同時検査やHPV検査の適用時に、推奨検診間隔を(パップテストのみを受ける女性における3年と比較して)5年という長い間隔に延長することで、まだ治療が間に合う時期に細胞異常を検出できる一方で、免疫系により無事抑制されたであろうHPV感染の検出も減少することはこうした理由に由来します。
HPV/パップ同時検査とHPV検査の両者により子宮頸部腺がん(子宮頸部の腺細胞のがん)を含む腺細胞異常の検出が向上する可能性もあります。腺細胞は、子宮頸管(子宮頸部中央の開口部)内や子宮内膜内に存在する粘液産生細胞です。子宮頸部の腺細胞異常および子宮頸部腺がんは、扁平上皮細胞異常および扁平上皮がんと比較して頻度が低いです。パップテストにおける腺がんおよび腺細胞異常の検出率は扁平上皮細胞異常および扁平上皮がんの検出率と比較して不良です。
◆ 子宮頸がん検診の結果は何を意味しますか?
医療従事者は患者にパップテストの結果を「異常なし」または「異常あり」とだけ伝えることがあります。
同様に、HPV検査結果は「陽性」(患者の子宮頸部細胞が1種類以上の高リスク型HPV―商用のHPV検査で検出される―に感染している)」または「陰性(高リスク型HPVが認められない)」のいずれかです。いくつかのHPV検査法は16型と18型(ほとんどの子宮頸がんを引き起こす型)に特化して検出します。
女性は医療従事者にパップテストとHPV検査の結果、ならびにこれらの結果の意味に関する具体的な情報を求めることを望むことがあります。
米国内の大多数の臨床検査機関はベセスダシステムという標準的な取り扱い規約を使用して、パップテストの結果を報告します。ベセスダシステムでは、細胞異常が認められない検体は「上皮内病変陰性または悪性腫瘍陰性」と報告されます。パップテストの結果が陰性であるという報告のうち、一般的な感染症または炎症など何らかの良性所見の記載を注記することもあります。パップテストの結果から、検体が検査要件を満たすか否かが示されることもあります。ガイドライン委員会は、HPV感染の成り行きに関する最新研究に基づく子宮頸がん検診結果の報告方法を再評価しているところです。
ベセスダシステムは扁平上皮細胞と腺細胞の異常を分けて評価します。扁平上皮細胞異常は以下の種類に分類され、最軽度から最高度に及びます。
- 異型扁平上皮細胞(atypical squamous cells:ASC)はパップテストで最も頻度が高い異常所見です。ベセスダシステムでは、この細胞をASC-USとASC-Hの2種類に分類します。
- ASC-US(atypical squamous cells of undetermined significance):重症度分類不明な異型扁平上皮細胞。こうした細胞は完全には正常と見えませんが、その原因は不明です。こうした変化はHPV感染に関連する可能性がありますが、他の要因によって引き起こされる可能性もあります。
- ASC-H(atypical squamous cells, cannot exclude a high-grade squamous intraepithelial lesion):高度扁平上皮内病変を除外できない異型扁平上皮細胞。ASC-H病変はASC-US病変と比較して、前がん病変リスクが高くなる可能性があります。
- 軽度扁平上皮内病変(low-grade squamous intraepithelial lesion:LSIL)は、HPV感染により引き起こされる軽度異常とされます。特に若年女性では免疫系が感染を抑制するため、LSIL細胞は正常細胞に回復することが多いです。
- 高度扁平上皮内病変(high-grade squamous intraepithelial lesion:HSIL)は、未治療のままではがんに進行する可能性がより高い、より高度の細胞異常です。
- 上皮内がん(carcinoma in situ:CIS)は、がん細胞に類似していますが子宮頸部の表面(上皮)に留まっており、かつ、より深く浸潤したり子宮頸部を超えて転移したりしない高度の異常細胞です。
- 扁平上皮がんが子宮頸がんです。この異常な扁平上皮細胞は子宮頸部により深く浸潤、または、他の組織や器官の中にも転移することがあります。米国のように適切な検診を受けている集団では、子宮頸がん検診中でのがん発見は非常にまれです。
腺細胞異常は、子宮頸部の腺組織内に生じる異常変化です。ベセスダシステムはこうした異常変化を以下の種類に分類します。
- 異常腺細胞(Atypical glandular cell:AGC):腺細胞は正常には見えませんが、医師はこの細胞の変化の内容に関して明確に判定できません。
- 子宮頸管内上皮内腺がん(adenocarcinoma in situ:AIS):高度異常細胞は認められますが、子宮頸部の腺組織を越えて拡がっていません。
- 腺がんは子宮頸管自体のがんだけでなく、一部の症例における子宮内膜がん、子宮外がん、および他のがんを含みます。
◆ 子宮頸がん検診で異常な所見が認められると、どのような追跡検査が実施されますか?
検査結果によっては、女性は1年の内に検診を再度受けるよう勧められることがあります。その理由は、免疫系がHPV感染を抑制するので、一部の細胞異常、特に軽度のもの(ASC-US)は自然消失するためです。より高度な細胞変化(ASC-HまたはHSIL)やHPV 16型と18型の存在が認められると、コルポスコピー(コルポスコープという機器を使用して、子宮頸部を調べる方法)を受けるよう勧められることがあります。
コルポスコピー実施中に、医療従事者は膣鏡を膣内に挿入して膣を広げ、さらに酢酸溶液を子宮頸部に塗布することがあります(HPV感染、炎症、前がん病変、または他の細胞変化部位が白色調に変化します)。次に(体外に設置している)コルポスコープを使用して、子宮頸部を調べます。医療従事者はコルポスコピーの実施時に、通常は顕微鏡での検査用に1つ以上の所見がある部位から細胞や組織を採取することになります(これが生検という方法です)。追跡検査とその手順に関する詳細は、記事「子宮頸部の変化を理解する―検診で異常が認められたら」(日本語)を参照してください。
◆ 検査結果が陰性でもHPV感染が再び認められる可能性がありますか?
あります。時に、長年にわたってHPV検査結果が陰性であった後、免疫系が以前に抑制してきた感染が再活性化し、HPV検査結果が陽性になる可能性もあります。年数を経て過去に検出歴がないHPV感染のこうした再活性化は、加齢による免疫系の変化によって生じる可能性があります。新たにHPV検査結果が陽性となった場合、それが新規感染によるものなのか、または年数を経た感染の再活性化を示すのかを区別する方法はありません。また、HPV感染の再活性化が前がん病変やがんの原因になる細胞の変化を引き起こすかどうかもまだわかっていません。
◆ HPVワクチン接種女性でも子宮頸がん検診を受ける必要がありますか?
必要です。 現行のHPVワクチンは子宮頸がんを引き起こすHPVの型全てに対する防御効果を示さないため、接種女性が子宮頸がん検診を定期的に受け続けることは重要です。
◆ 子宮頸がん検診を改善するために、どのような研究が実施されていますか?
HPV陽性女性の評価を改善できるいくつかの新規検査方法が現在開発中です。まだ臨床に適用できないが規制評価を受けている検査方法の1つは、「HPVの活動性感染を示す2つのタンパク質であるp16とKi-67の検出」(日本語)に基づいています。p16/Ki-67二重染色検査はHPV陽性女性が5年以内に子宮頸部の前がん病変を発症する可能性の予測に関して、パップテスト(HPV陽性女性に対する現行の標準追跡検査)と比較して正確であることが分かりました。p16/Ki-67陽性の女性は、コルポスコピーと生検を受けることがあります。
NCIの研究者らは、人工知能(AI)アプローチであるを開発しました。こうした画像は携帯電話や同様のカメラ機器で撮影できるため、この方法は医療資源が少ない環境における子宮頸がん検診に役立つ可能性があります。
医療資源が乏しい環境で特に重要になるかもしれない別の改善方法は、検体の自己採取です。オランダで180,000人超の女性を対象にした臨床試験から、女性自身が採取した子宮頸部検体を使用するHPV検査は、中等度から高度の子宮頸部細胞の異常検出に関して、臨床医が採取した検体を使用する検査と同等の精度を示すことが分かりました。こうした結果から、検体の自己採取が子宮頸がんの定期検診における主な検査方法として使用される可能性があることが示唆されます。
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