ダロルタミドが転移性前立腺がんの生存期間を延長
ダロルタミド(販売名:ニュベクオ)は、大規模臨床試験の結果に基づき、進行前立腺がんと診断された一部の患者に対する標準治療に加えられる可能性がでてきた。
本試験では、体の他の部位に転移したホルモン感受性前立腺がん患者を対象に、ダロルタミド+他の2つの治療法であるドセタキセルおよびアンドロゲン除去療法(ADT)、またはドセタキセルおよびADTのみによる治療を行った。
3つの薬剤をすべて受けた患者は、ドセタキセルおよびADTのみの治療を受けた患者よりも、治療開始後4年経っても生存している割合がかなり高かった。また、ダロルタミドの追加により、より強い副作用が生じることはなかった。
ARASENS試験のデータは、New England Journal of Medicine誌に掲載され、2月17日の米国臨床腫瘍学会(ASCO)の泌尿生殖器がんシンポジウムで発表された。
「ARASENS試験の結果に基づき、ダロルタミドとADTおよびドセタキセルの併用を、転移性ホルモン感受性前立腺がん患者の治療における新たな標準治療とすべきであると結論づけています」と、本試験の臨床試験責任医師でマサチューセッツ総合病院がんセンターのMatthew R. Smith医学博士は、本会議で述べた。
NCIの泌尿生殖器悪性腫瘍部門のFatima Karzai医師は同意し、本結果を「日常診療を変える」と呼んでいる。
ARASENS試験は、ダロルタミドの共同製造業者であるバイエル社とオリオンファーマ社から資金提供を受けた。バイエル社は、転移性ホルモン感受性前立腺がんの患者にも本剤の承認を拡大する申請を米国食品医薬品局に提出した。現在、本剤は、ホルモン療法が無効(ホルモン抵抗性)の非転移性前立腺がん患者のみに対し承認されている。
進化する標準治療
ホルモン感受性(去勢感受性ともいう)前立腺がんは、患者の腫瘍が依然としてアンドロゲンと呼ばれる男性ホルモンに強く刺激されていることを意味する。長年、転移性ホルモン感受性前立腺がんは、精巣によるアンドロゲンの産生を阻害するADTのみで治療されてきた。
2014年、大規模臨床試験で、ADTに化学療法薬のドセタキセルを追加することにより転移性ホルモン感受性前立腺がん患者の生存期間が延長することが示された。それ以来、この併用療法はこのグループの患者に対する標準治療となっている。
近年、アビラテロン(ザイティガ)、エンザルタミド(イクスタンジ )、アパルタミド(アーリーダ)など、アンドロゲンの産生や結合を阻害するその他の薬剤をADTに追加することで、転移性ホルモン感受性前立腺がん患者の生存期間が延長することも研究で示されている。例えば、アパルタミドとADTを併用した試験では、2年後も生存していた患者が約82%であったのに対し、ADT単独では74%であった。
その後、これらの薬剤のいずれかとADTおよびドセタキセルを併用することで、生存期間がさらに延長するかどうかを確認するため、いくつかの臨床試験が開始された。しかし、これらの試験の結果はまちまちで、ある試験では疾患進行を伴わない生存期間の延長が認められ、別の試験では全生存期間の延長は認められなかった。
ダロルタミドは、他のアンドロゲン受容体阻害薬と同様に、アンドロゲンががん細胞上の受容体に結合するのを阻害することで作用する。しかし、ダロルタミドは、他のアンドロゲン受容体阻害薬とは異なり血流から脳へ移行せず、このことが、他の薬剤に比べて中枢神経系関連の副作用(けいれんなど)が少ないことが研究で明らかになっている理由と考えられる。
ダロルタミド、ADT、およびドセタキセルの3剤併用療法は、転移のないホルモン抵抗性前立腺がん患者の生存期間を延長することがすでに示されている。そこで、転移した前立腺がん患者にも同様の効果があるかどうかを確認するために、ARASENS試験が開始された。
4年後の生存期間を延長
ARASENS試験では、約1,300人の参加者が、ダロルタミドまたはプラセボ(いずれも錠剤、1日2回服用)に無作為に割り付けられた。すべての参加者は、無作為化前の12週間以内にADTを受け、無作為化後6週間以内に6サイクルのドセタキセルを開始した。
4年後生存していた患者の割合は、ダロルタミドを投与された患者では約63%であったのに対し、プラセボを投与された患者では約50%であった。プラセボ投与群の参加者のほとんど(75%)が、追跡期間中にアビラテロンやエンザルタミドなど他の一般的に使われている治療を受けたにもかかわらず、ダロルタミド投与群の方がより長く生存していた。
さらにダロルタミドによって他にも改善効果が得られた。例えば、ダロルタミドで治療した参加者は、がんが悪化して痛みが生じるまでの期間と同様、ホルモン除去療法に耐性を持つようになるまでの期間が長くなった。
疲労、転倒、骨折、心疾患などの重篤な副作用の発生頻度は、両群で同程度だった。両群の患者の約3分の2が重篤な副作用を経験し、そのほとんどはダロルタミド(またはプラセボ)をドセタキセルと同時に投与したときに生じた。
選択肢が増えるほど課題も増加
デトロイトにあるKarmanos Cancer Instituteの前立腺がん研究所長であるElisabeth Heath医師は、ARASENS試験の結果がこの疾患の治療方法に直ちに影響を与えるはずだという意見に同意した。
Heath氏は本研究には関与していないが、ASCOシンポジウムで演説し、ARASENS試験と、このタイプの前立腺がん患者を対象にアンドロゲン受容体遮断薬を検討したその他の試験との重要な違いを強調した。同氏は、その他の試験では、一部の参加者はアンドロゲン受容体遮断薬の治療と同時ではなく、その前にドセタキセルを投与されたと説明した。
ARASENS試験の結果に基づいて、Heath氏は、3つの治療すべてを同時に行うことは、一部の患者にとって好ましい選択肢であるようだと述べた。
Karzai氏は、転移性ホルモン感受性前立腺がんの治療には複数の選択肢があるにもかかわらず、多くの課題が残されていると指摘した。「誰がどの薬剤から始めるべきか、[特定の]患者にとってある薬剤が他の薬剤より優れているかどうかについてのガイドラインはありません」と、同氏は述べた。
また、薬剤を投与する順番が有効性や副作用の頻度にどのような影響を及ぼすのかについて、さらなる研究が必要であることも指摘した。
さらに、ARASENS試験における生存期間の延長は、がんが前立腺以外の複数の部位に転移している(high volume病変と呼ばれる)患者で認められたと述べた。
「Lower-volume病変の患者がhigher-volume病変の患者と同様に、[ダロルタミドの追加による]利益があるかどうかはわかりません」「[Lower-volume病変群について]真剣に考えなければなりません。High-volume群のように生存の利益やその他の二次的な利益が得られるかどうか分からないのに、副作用を引き起こすこの治療を行いたいのですか」と同氏は述べた。
今後の研究で、ダロルタミドとADTのみでも、ダロルタミド、ADT、ドセタキセルと同様に生存期間が延長するかどうかを検討することができる。ドセタキセルを併用から除外すれば、一部の副作用を軽減できるかもしれない、とSmith氏は述べた。
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