前立腺特異抗原(PSA)検査

本ページでは、以下の質問に回答します。

PSA検査とは何ですか?

前立腺特異抗原(PSA)は、正常な前立腺細胞や悪性の前立腺細胞によって生成されるタンパク質です。PSA検査では、ヒトの血液中のPSA値を測定します。本検査では、血液サンプルを分析するために検査機関に送ります。結果は通常、PSAが血液1ミリリットルあたり何ナノグラムであるか(ng/mL)で報告されます。

PSAの血中濃度は前立腺がんの男性では上昇していることが多く、PSA検査は当初、すでに前立腺がんと診断されている男性の前立腺がんの進行を監視する目的で、1986年に米国食品医薬品局(FDA)に承認されました。FDAは1994年、無症状の男性の前立腺がんの検査としてPSA検査を直腸指診(DRE)と併用して使用することを承認しました。前立腺の症状を訴える男性の場合、PSA検査を(直腸指診を併用して)行うことが多く、医師が問題の本質を確認する上で有用です。

前立腺がんに加えて、多くの良性の(非がん性)疾患も、男性のPSA値を上昇させる可能性があります。PSA値の上昇を引き起こすことが最もよくある良性の前立腺疾患は、前立腺炎(前立腺の炎症)と前立腺肥大症 (前立腺の肥大化)です。前立腺炎や前立腺肥大症が前立腺がんを引き起こすというエビデンスはありませんが、男性がこれらの疾患のうちの一方または両方に罹患しており、前立腺がんも発症している可能性はあります。

PSA検査は前立腺がん検診として推奨されていますか?

2008年頃まで、男性が毎年のPSA検診を50歳から開始することを推奨している医師や専門家団体がありました。アフリカ系アメリカ人男性、父親や兄弟が前立腺がんに罹患していた男性など、前立腺がんのリスクが高い男性に対して、40歳または45歳で検診を開始することを推奨している団体もありました。しかし、前立腺がん検診の有益性と有害性の両方が明らかになるにつれて、多くの団体が定期的な集団検診を受けないように警告するようになりました。ほとんどの団体は、PSA検診を検討している男性に対して、まずリスクと利益について医師に相談することを推奨しています。

現在、メディケア(Medicare)では、メディケアを受ける資格のある50歳以上の全男性に対して、毎年のPSA検査のための保険を提供しています。多くの民間保険会社も、PSA検診を保険の対象としています。

PSA検査の正常な結果とは何ですか?

血液中のPSAは、正常値や異常値が特に定まっておらず、同じ男性でも時間とともに変化することがあります。過去には、ほとんどの医師が、PSA値が4.0ng/mL以下の場合は正常であると考えていました。そのため、男性のPSA値が4.0ng/mLを超えると、多くの場合、前立腺生検を行い、前立腺がんの有無を確認することを推奨していました。

しかし、最近の研究では、PSA値が4.0ng/mL未満の男性の中にも前立腺がんの人がおり、それ以上の値の男性の中にも前立腺がんでない人が多いことがわかってきました(1)。さらに、さまざまな要因によっても、男性のPSA値は変動する可能性があります。例えば、前立腺炎や尿路感染症に罹患している場合にもPSA値が高いことがよくあります。前立腺生検と前立腺手術もPSA値を上昇させます。逆に、前立腺肥大症の治療に使用されるフィナステリド(販売名:プロペシア)やデュタステリド(販売名:アボルブ)などの薬剤は、男性のPSA値を低下させます。また、PSA値は検査機関によっても多少異なる場合があります。

もう1つの複雑な要因は、PSA値の正常範囲を確立する目的の研究が主に白人男性を対象に行われてきたことです。専門家の意見はさまざまで、人種や民族を問わず男性に前立腺生検を推奨する際のPSAの至適閾値については、明確なコンセンサスが得られていません。

しかし、一般的には、男性のPSA値が高いほど前立腺がんの可能性が高くなります。それに加え、男性の長期にわたるPSA値の連続的な上昇も、前立腺がんの徴候である可能性があります。

検診でPSA値が上昇している場合はどうなりますか?

前立腺がんの症状がない人が前立腺がん検診を受けることを選択し、PSA値の上昇があることが判明した場合、医師はもう一度PSA検査で最初の結果を確認することを推奨することがあります。PSA値がまだ高かった場合には、PSA検査と直腸指診を定期的に続け、経時的な変化を監視することを推奨することがあります。

男性のPSA値が上昇し続けたり、直腸指診中に疑わしいしこりが検出されたりすると、問題の本質を確認するために別の検査が推奨される場合があります。尿検査を行い、尿路感染症の有無を確認することが推奨される場合もあります。また、経直腸超音波検査、X線検査、膀胱鏡検査などの画像検査が推奨される場合もあります。

前立腺がんが疑われる場合は、前立腺生検が推奨されます。本検査では、中空針を前立腺に挿入して抜き取ることによって、複数の前立腺組織のサンプルを採取します。多くの場合、直腸壁から針を挿入します(経直腸生検)。その後、病理医が採取した組織を顕微鏡で調べます。生検の際には、医師が超音波を使って前立腺を見ることがありますが、超音波だけで前立腺がんと診断することはできません。

前立腺がん検診におけるPSA検査の限界と潜在的な不利益にはどのようなものがありますか?

前立腺がんを早期に検出しても、前立腺がんによって死亡する可能性を減少させることができない場合があります。検診でPSA検査を使用することにより、症状を引き起こさない小さな腫瘍を検出するのに役立ちます。しかし、小さな腫瘍を検出することで、必ずしも前立腺がんによって死亡する可能性を減少させることができるとは限りません。PSA検査を介して検出された多くの腫瘍は、ゆっくりと増殖するので、生命を脅かす可能性は低いのです。生命を脅かさない腫瘍を検出することは「過剰診断」と呼ばれ、これらの腫瘍を治療することは「過剰治療」と呼ばれています。

過剰治療により、男性は外科手術や放射線療法などの初期の前立腺がんに対する治療で起こる可能性のある合併症や有害な副作用に不必要にさらされることになります。これらの治療の副作用には、尿失禁(尿流をコントロールできない)、腸機能障害、勃起不全(勃起不能、または性交に不十分な勃起状態)、感染症などがあります。

さらに、早期にがんを検出しても、急速に増殖する腫瘍や浸潤性腫瘍がある人では、検出前に身体の他の部位に腫瘍が広がっている可能性があるため、助けにはならない場合があります。

PSA検査では、偽陽性または偽陰性の結果が生じることがあります。偽陽性の検査結果は、男性のPSA値が上昇しているが、がんが実際に存在しない場合に発生します。偽陽性の検査結果は、男性とその家族に不安をもたらし、有害となる場合がある前立腺生検などの追加の医学的手技につながる可能性があります。生検で引き起こされる可能性がある副作用には、重篤な感染症、疼痛、出血などがあります。

PSA値が上昇している男性のほとんどは前立腺がんではないことがわかっています。PSA値が上昇しているために前立腺生検を受けた男性の中で、生検を受けたときに実際に前立腺がんであることが判明するのは約25%にすぎません(2)。

偽陰性とは、実際に前立腺がんであるにもかかわらず、PSA値が低い場合に発生します。偽陰性の検査結果は、実際には治療が必要ながんに罹患している可能性があるにもかかわらず、男性やその家族、主治医にがんではないという誤った確証を与える可能性があります。

前立腺がん検診についてはどのような研究が行われてきましたか?

前立腺がん検診のランダム化比較臨床試験がいくつか実施されています。最大規模の試験の1つがPLCO試験(Prostate, Lung, Colorectal, and Ovarian Cancer Screening Trial)で、一定の検診がいくつかの一般的ながんによる死亡者数の減少に役立つかどうかを確認する目的で米国国立がん研究所(NCI)が実施しました。本試験の前立腺がんの部では、PSA検査と直腸指診が、前立腺がんで死亡する確率を低下させることができるかどうかを評価しました。

PLCO試験では、前立腺がん検診を毎年受けた群は、対照群に比べて前立腺がんの発生率は高くなりましたが、前立腺がんによる死亡率は同程度であったことが明らかになりました(3)。全体的に見て、この結果は、多くの男性が、検診を受けなければ生存中に検出されなかったであろう前立腺がんの治療を受けていたことを示唆しています。結果として、これらの男性は治療の潜在的な有害性に不必要にさらされていたのです。

別の大規模試験であるERSPC試験(European Randomized Study of Screening for Prostate Cancer)では、PSA検査を用いた検診を受けた群と受けていない群に男性を無作為に割り付け、前立腺がん死亡率を比較しています。PLCO試験と同様に、ERSPC試験でも、前立腺がん検診を受けた群は、対照群に比べて前立腺がんの発生率が高くなりました。しかし、PLCO試験とは対照的に、検診を受けた群では前立腺がんによる死亡率が低くなりました(4, 5)。

最近の論文では、PLCO試験で対照群に割り付けられていたにもかかわらずPSA検診を受けていた男性がいたという事実を考慮して、複雑な統計モデルを用いてPLCO試験のデータを解析しています。この解析により、PLCO試験とERSPC試験の有益性の値は類似しており、両試験とも前立腺がん検診を受けている場合に前立腺がん死亡率がある程度減少していることが示唆されました(6)。このような統計的モデル化研究には重大な限界があり、検証されていない仮定に依存しているため、その所見には疑問の余地があります(すなわち、検診のガイドラインの基礎になるというよりは、これからの研究に適しています)。さらに重要なことは、このモデルでは検診による有益性と有害性のバランスの評価ができないということです。

米国予防医学専門委員会は、報告されているすべての前立腺がん検診の試験(主にPLCO試験とERSPC試験)からのデータを解析し、55~69歳の男性1,000人あたりで試算し、彼らが10~15年間で1~4年ごとに検診を受けていることを想定して、以下の通り推定しています(7)。

・ 約1人の前立腺がんによる死亡が回避されます。
・ 120人の男性は検査結果が偽陽性で生検を受けることになり、生検を受けた男性の中には、生検によって少なくとも中程度の不快な症状を経験する人がいることになります。
・ 100人の男性が前立腺がんと診断されることになります。そのうち80人が(即時または監視療法の後に)外科手術または放射線治療を受けることになります。そのうち少なくとも60人の男性が、治療によって勃起不全や尿失禁などの重篤な合併症を発症することになります。
前立腺がんの治療を受けている男性ではPSA検査はどのように使用されていますか?

PSA検査は、多くの場合、前立腺がんの既往歴のある患者のがんが再発しているかどうかを監視するために使用されます。男性のPSA値が前立腺がん治療後に上昇し始める場合は、再発の最初の徴候である可能性があります。このような「生化学的再発」は通常、前立腺がん再発の他の臨床徴候・症状より数カ月または数年前に発生します。

しかし、前立腺がんの既往歴のある患者のPSA測定値が1回上昇しただけでは、必ずしもがんの再発を意味するわけではありません。前立腺がんの治療を受けている男性は、PSA値の上昇について主治医に相談する必要があります。主治医は、再発の兆候を確認する目的で再度のPSA検査または他の検査を行うことを推奨することがあります。主治医は、1回のPSA値の上昇ではなく、経時的なPSA値の上昇傾向がないか調べることがあります。

前立腺がんの治療を受けている男性にとってPSA値の上昇はどのような意味を持ちますか?

男性のPSA値が前立腺がん治療後に上昇した場合、主治医は、さらなる治療を推奨する前に、いくつかの要因を検討します。1回だけのPSA検査に基づいて追加の治療を推奨することはありません。経時的なPSA値の上昇傾向と、画像検査の異常な結果などの他の所見に基づき、主治医がさらなる治療を推奨することがあります。

研究者らはどのようにPSA検査を改善しようとしていますか?

研究者らは、がん性疾患と良性疾患、または進行の遅いがんと進行が早く致命的となり得るがんを、医師がよりはっきりと鑑別できるようにPSA検査を改善する方法を研究しています。前立腺がんによる死亡リスクを減少させることが証明されている方法はまだありません。研究されている方法には、以下のようなものがあります。

・ 遊離型PSA対総PSA:血液中の「遊離型」(タンパク質非結合型)PSA量を総PSA(遊離型+結合型)で割った値が、遊離型PSA比です。遊離型PSAの比率が低いほど、より侵襲性の強いがんと関連している可能性があることを示唆するエビデンスがあります。
・ 移行帯のPSA濃度:PSAの血中濃度を前立腺の移行帯の体積で割った値。移行帯とは、前立腺の内部で尿道を取り囲む部分のことです。この測定値の方が、標準的なPSA検査よりも、前立腺がんの検出精度が高いことを示唆するエビデンスもあります。
・ PSA年齢階層別基準値:男性のPSA値は加齢とともに上昇する傾向にあるため、PSA年齢階層別基準値を使用することでPSA検査の精度が向上する可能性があることが示唆されています。しかし、PSA年齢階層別基準値の使用は、多くの男性の前立腺がんの検出を遅らせる可能性があるため、一般的には推奨されていません。
・ PSA速度とPSA倍加時間:PSA速度とは、男性のPSA値の経時変化率を1年あたりのng/mLで示した値です。PSA倍加時間とは、男性のPSA値が2倍になる期間のことです。男性のPSA値の上昇率が、前立腺がんかどうかの予測に役立つ可能性があることを示唆するエビデンスもあります。
・ Pro-PSA:Pro-PSAは、PSAのいくつかの異なる不活性前駆体を指します。Pro-PSAは前立腺肥大症よりも前立腺がんとの関連性が強いというエビデンスもあります。最近承認された検査は、[-2]proPSAと呼ばれるpro-PSAの測定と、PSAおよび遊離型PSAの測定を組み合わせた検査です。結果として得られる「前立腺健康指数(Prostate Health Index)」は、PSA値が4~10ng/mLの人が生検を受けるべきかどうかを判断する際に利用することができます。
・ IsoPSA:PSAは、さまざまな構造形態(アイソフォームと呼ばれる)で血液中に存在しています。IsoPSA検査は、血液中のPSA濃度ではなく、PSAアイソフォームの全スペクトルを測定することで、前立腺がんの男性における生検対象者の選択を改善する可能性があります(8)。
・ PSAと他のバイオマーカーとの併用:血中PSAの測定と、血液中または尿中の前立腺がんに関連する他のバイオマーカーの測定を組み合わせた検査が高リスク疾患の鑑別に使用できるかどうか研究されています。これらの他のバイオマーカーには、カリクレイン関連ペプチダーゼ2、前立腺がん抗原3(PCA3)、TMPRSS2-ERG融合遺伝子などがあります。

主要参考文献

1. Thompson IM, Pauler DK, Goodman PJ, et al. Prevalence of prostate cancer among men with a prostate-specific antigen level < or =4.0 ng per milliliter. New England Journal of Medicine 2004; 350(22):2239–2246. [PubMed Abstract]
2. Barry MJ. Clinical practice. Prostate-specific-antigen testing for early diagnosis of prostate cancer. New England Journal of Medicine 2001; 344(18):1373–1377. [PubMed Abstract]
3. Pinsky PF, Prorok PC, Yu K, et al. Extended mortality results for prostate cancer screening in the PLCO trial with median follow-up of 15 years. Cancer 2017; 123(4):592–599. [PubMed Abstract]
4. Schröder FH, Hugosson J, Roobol MJ, et al. Prostate-cancer mortality at 11 years of follow-up. New England Journal of Medicine 2012; 366(11):981–990. [PubMed Abstract]
5. Schröder FH, Hugosson J, Roobol MJ, et al. Screening and prostate cancer mortality: Results of the European Randomised Study of Screening for Prostate Cancer (ERSPC) at 13 years of follow-up. Lancet 2014; 384:2027–2035. [PubMed Abstract]
6. Tsodikov A, Gulati R, Heijnsdijk EAM, et al. Reconciling the effects of screening on prostate cancer mortality in the ERSPC and PLCO trials. Annals of Internal Medicine 2017; 167(7):449–455. [PubMed Abstract]
7. US Preventive Health Services Task Force. Prostate Cancer Screening Final Recommendation Statement. 2018. Accessed February 24, 2021.
8. Klein EA, Chait A, Hafron JM, et al. The single-parameter, structure-based IsoPSA assay demonstrates improved diagnostic accuracy for detection of any prostate cancer and high-grade prostate cancer compared to a concentration-based assay of total prostate-specific antigen: A preliminary report. European Urology 2017; 72(6):942–949. [PubMed Abstract]

翻訳担当者 会津麻美

監修 榎本裕(泌尿器科/三井記念病院)

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