2010/10/19号◆癌研究ハイライト

同号原文
NCI Cancer Bulletin2010年10月19日号(Volume 7 / Number 20)


日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

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癌研究ハイライト
・アビラテロンは転移前立腺癌患者の生存率を高める
・類似する前期試験で異なった薬物が禁止されている状況は、結果に影響する
・外科的処置により癌患者の脊椎骨折の障害と疼痛が減少

Abirateroneは転移性前立腺癌患者の生存率を高める

多国間第3相試験で、abiraterone acetate(酢酸アビラテロン)という薬剤がプラセボ投与群と比べて、転移性去勢抵抗性前立腺癌患者の生存期間中央値を4カ月間延長することが明らかになった。この研究の中間結果は、イタリアのミラノで開催された第35回欧州癌治療学会議(ESMO)で10月11日に発表された。

前立腺癌の標準治療は、癌の増殖を促進するホルモンである、テストステロンの血中濃度を下げる治療であるが、ほとんどの前立腺癌は最終的に標準治療に対して耐性を得る。このような癌を、去勢抵抗性前立腺癌と呼ぶ。アビラテロンは、精巣、副腎および前立腺癌の腫瘍そのものにおけるアンドロゲンの産生を抑制することによりこれらの腫瘍の治療をするように設計されている。

この臨床試験は、13カ国においてドセタキセルを含む2つの化学療法レジメンの1つで治療を受けたことがある転移前立腺癌患者1,195人を対象とした。アビラテロンと糖質ステロイド薬であるプレドニゾンの併用投与に無作為に割付けられた797人の患者では、全生存期間中央値は14.8カ月であった。プレドニゾンとプラセボを併用投与した398人の患者では、同中央値は10.9カ月であった。

また、プラセボ投与群とアビラテロン治療群の差は、前立腺特異抗原(PSA)値が上昇するまでの期間、画像検査によって判断される無増悪生存期間、そして治療後にPSA値が低下した患者数などの副次的評価項目のすべてに現れた。

アビラテロンの有益性は事前に規定された研究結果の中間解析で明らかであり、独立データモニタリング委員会はこの試験を非盲検化してプラセボ投与群の患者に対してアビラテロンの提供を勧告することとなった。

「前立腺癌の治療において、これは大きな前進である」と本試験の責任医師である、英国癌研究所および英国王立マースディン病院のDr. Johann de Bono氏は述べた。「転移のある去勢抵抗性前立腺癌の男性は予後不良で、診断後5年生存するのは3人に1人ぐらいである。アビラテロンは、多くの男性の余命を延ばすことができる。」と同氏は説明した。

類似する前期試験で異なった薬物が禁止されている状況は、結果に影響する

北米で実施されている第1/2相癌臨床試験の登録期間中に、患者が服用しないように警告または禁止されている薬物リストに「きわめて高率の、説明できない不一致」があると、最近のESMO会議で研究者らが報告した。このリストにおけるばらつきは、研究結果の評価および比較を一層難しくし、患者が服用しているかもしれない他剤と被験薬との相互作用が考えられるため、患者の安全性を損なう可能性があると研究者らは述べた。当知見は、ミラノにおいてフランスのリヨン市立慈善病院のDr. Benoit You氏とカナダのプリンセス・マーガレット病院のDr. Eric Chen氏により10月11日に公表された。

2004〜2009の間に実施された第1相ならびに第2相癌臨床試験100件について臨床試験実施計画書を調査したところ、そのうち77件は使用上注意すべき薬物あるいは禁止されている薬物リストの規定があった。研究者らは、この問題の1例としては、これらのうち37件が肝酵素CYP3A4により代謝される同種の癌被験薬を研究していたが、この酵素の機能を妨げる可能性があるため回避しなければならないとして警告あるいは禁止された薬物が1剤から152剤まで幅があることを指摘した。

「薬物リストの不一致は、早期試験における患者の適格性、対象患者の症状管理を不均一にし、最終的には試験結果の不均一性の原因を生じる可能性があるとわれわれは考えている。結果的に、各試験の比較が可能かどうかに影響を与えるかもしれない」とBenoit氏はプレスリリースで述べた。

このような混乱が患者を害する可能性は低いと研究者らは述べている。しかし、試験結果については、「全体的な質を著しく低下させる可能性があり」、新薬の開発に影響を与えるかもしれない。「現実的な、合意に基づく標準化された警告あるいは禁止薬物のリストの開発が必要とされている」としている。

外科的処置により癌患者の脊椎骨折の障害と疼痛が減少

イタリアのミラノで開催されたESMOの会議において10月9日発表されたランダム化試験の結果によると、バルーン椎体形成術(BKP)として知られる外科手術は、癌患者の脊椎の圧迫骨折による疼痛および機能障害を減少させる。椎骨がもろくなって生じる脊椎の圧迫骨折は、多発性骨髄腫または脊椎に転移した癌がある多くの患者の疼痛および機能障害の重大な原因である。

多国籍研究チームを主導するドイツのレーバークーゼン病院(Klinikum Leverkusen)のDr. Leonard Bastian氏は、3箇所以下の有痛性椎骨圧迫骨折(VCFs)をした成人癌患者134人をBKP施術群(70人)あるいは非外科的治療群(64人)のどちらかに無作為に割り付けし、その後追跡調査した。手術を受けた患者は、障害測定用のアンケートによる評価では、1カ月後の障害レベルが統計的有意に低下しており、手術から1週間後に背部痛も有意に改善したことを示した。非外科的治療を受けた患者は障害・痛みのいずれも改善が見られなかった。

1カ月後、外科的治療をしないよう無作為に割り付けられた患者はBKPを受ける機会を与えられ、38人がBKPを選択した。 12カ月間全患者を追跡調査後、BKPを行った全患者が、背部痛、活動レベル、QOLにおいて研究期間中、改善が持続したと報告していることを見出した。有害事象数は両群とも同様であった。

BKPは、1cmの切開を通じて折れた椎骨に小さなバルーンを挿入し、バルーンを膨らませて椎骨の形と高さを一時的に回復する。そしてバルーンをしぼませて、大きな、ほぼ円柱状をなしている椎体に急速に固まる骨セメントを挿入し、椎体を安定させる。

BKPは「従来の鎮痛薬が有効でない場合、あるいは副作用が大きすぎる場合は、椎骨圧迫骨折に対する正しい治療法になる可能性がある」とESMOのプレスリリースでBastian氏は述べた。

「この手技についての研究は継続しているので、癌治療におけるバルーン椎体形成術の役割を確認するためプラセボ対照二重盲検試験を行うことは重要である」とイタリアのテルニにあるオスペダーレ・サンタマリア病院のDr. Fausto Roila氏はプレスリリースで述べた。

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福田 素子 訳
榎本 裕(泌尿器科/東京大学医学部付属病院) 監修 
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