2011/03/08号◆特別リポート「PSA上昇速度により前立腺癌の検出精度は向上しない」

同号原文
NCI Cancer Bulletin2011年3月8日号(Volume 8 / Number 5)

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◇◆◇ 特別リポート ◇◆◇

PSA上昇速度により前立腺癌の検出精度は向上しない

前立腺特異抗原(PSA)値の急速な上昇を根拠にして、ただちに前立腺生検を勧めるべきではないという研究の結果が、2月24日付けJournal of the National Cancer Institute(JNCI)誌電子版で発表された。

PSA値の変化速度、つまりPSA上昇速度は、前立腺癌の存在を示すマーカーとして研究されてきた。全米総合癌情報ネットワーク(NCCN)および米国泌尿器学会(AUA)の2団体はその臨床勧告で、PSA上昇速度が一定の閾値(年間 0.35 ng/mL)を超える男性については、総PSA値が針生検の標準的な下限値を下回っており、直腸指診(DRE)で異常所見がない場合でも、針生検の実施を考慮するよう推奨している。

今回の新たな研究での知見は、これらの臨床勧告が改正されるべきであることを示唆している、と著者らは結論づけた。 「概してPSA上昇速度は標準的予測モデルあるいはPSA自体の予測精度を向上させる重要な因子ではありませんでした」と、スローンケタリング記念がんセンター(MSKCC)のDr. Andrew Vickers氏らは書いている。

「ガイドラインの実施が患者の転帰を向上させると信じるに足りる理由は何もなく、実際はPSA上昇速度を根拠にすることで、必要のない生検を数多く実施することになります」。 PSA上昇速度は、PSA値の経時的な変化を動的に評価する、PSA動態(PSA kinetics)の一つである、とNCI癌予防部門のDr. Howard Parnes氏は説明する。

PSA上昇速度に加え、PSA値の倍加時間などの測定もPSA動態に含まれる。 「直感的に、バイオマーカーの経時的な変化を調べたほうがより有益な情報が得られると考えるでしょう」と、Parnes氏は述べた。本研究の結果では、PSA上昇速度に関してはそれがあてはまらないことが示された。「PSA値の上昇が認められた場合に泌尿器科医が生検を勧めるのは、癌を見逃したくないからだということはお分かりでしょう」と彼は付け加えた。

本研究の実施にあたり、研究者らはNCIが資金提供した前立腺癌予防試験(Prostate Cancer Prevention Trial: PCPT)のプラセボ群の男性5500人以上についてのデータを用いた。この臨床試験では、試験登録時にPSA値が3.0 ng/mLを下回り、DREで異常所見がなかった55歳以上の男性が、フィナステリド投与群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。

通常のPSA検査を受けるほか、PSA値が4.0 ng/mL以上の患者については前立腺生検が勧められ、さらに、大多数がPSA値にかかわらず試験終了時に生検を受けた。その結果、全範囲のPSA値を通じて「PCPTはPSA上昇速度について理想的なテストケースを提供している」と著者らは記している。

研究者らは、年齢、PSA値、DRE所見、前立腺癌の家族歴、および前立腺生検実施歴などの標準的なリスクモデルに、年間0.35 ng/mLの閾値を超えるPSA上昇速度を併用した場合に、モデルの予測精度が向上したかどうかを評価した。PSA上昇速度のさまざまな測定方法に加え、より悪性の癌(Gleason score 7以上と定義)および「臨床的に重要な」癌(一般的に用いられるEpsteinの基準で定義)の検出をPSA上昇速度が向上させるかどうかという点から、この分析がなされた。

すべての場合において、PSA上昇速度の併用によるモデルの予測精度の向上はわずかであった。実際PSA閾値を4.0 ng/mLから2.5 ng/mLに下げて前立腺生検を勧めるほうが、より有効であることをこの分析は示している。 PSA上昇速度をモデルに加えることで、新たに115例の癌(必ずしも致命的癌ではない)が特定されたが、一方で癌が検出されない「必要のない生検」を433例実施することとなった。生検のPSA閾値を2.5 ng/mLに下げた場合には必要のない生検の実施はほぼ同数であったが、新たに24例の癌を同定した。

本研究の知見に関するAUAの声明で、カリフォルニア大学医学部泌尿器科部長であるDr. Peter Carroll氏は、「前立腺生検を実施するかどうかは、PSA値異常とDRE所見の両方あるいはその一方に加え、あらゆる因子も考慮に入れた上で決定しなければなりません」と述べた。PSA上昇速度は「ある場合には」それらの因子の一つとなりうる、と同氏は述べた。 実際の臨床では、前立腺生検実施歴がある患者のPSA上昇速度が増加した場合、再び生検を実施することが多い、とParnes氏は説明する。

そのような状況では、PCPTの試験責任医師らにより開発されたrisk calculator(前立腺癌予測モデル)を用いることを同氏は勧めている。(JNCI誌に発表された研究でのリスクモデルはこのPCPT risk calculatorに基づいている。)これはオンラインcalculatorで、一般の前立腺癌ならびに悪性度の高い前立腺癌を生検で検出できる可能性を予測するものである。

PSA上昇速度が生検実施を決定する根拠として盛んに用いられている現在、本研究での知見は有益である、とParnes氏は述べる。「この知見により、医師と患者とがデータに基づいた話し合いをできるようになり、リスクの推定に取り組んでいるのだということを理解できます」と彼は続けた。

— Carmen Phillips

参考文献:『「よりスマートな」前立腺癌の生検法の検証』 (2010/10/19号NCIブレティンスポットライト記事)

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河原 恭子 訳
辻村 信一(獣医学/農学博士・メディカルライター) 監修 
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