2012/02/07号◆特集記事「臨床試験で示された進行前立腺癌の新たな選択肢」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2012年2月7日号(Volume 9 / Number 3)

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◇◆◇ 特集記事 ◇◆◇

臨床試験で示された進行前立腺癌の新たな選択肢

進行前立腺癌の治療法に、まもなく新たに2つの選択肢が加わるかもしれない。米国サンフランシスコで先週開催された泌尿生殖器癌シンポジウム(2012 Genitourinary Cancers Symposium)で2つの第3相臨床試験の最新の結果が発表された。

これらの臨床試験では、MDV3100とラジウム-223(Alpharadin)という試験薬が転移を伴う去勢抵抗性前立腺癌男性の全生存期間を改善した。去勢抵抗性とは、腫瘍増殖を促進する体内のテストステロンを除去する治療に反応しなくなった状態をいう。

作用機序の異なるこれら2つの薬は、前立腺癌の腫瘍転移で最も頻度の高い骨転移の増殖を抑制した上に、重篤な副作用をほとんど引き起こさなかった。両試験とも、生存期間が改善したため早期終了となった。試験薬を投与されなかった群の患者にも終了後、実薬が提供された。

研究者らの予想どおりに米国食品医薬品局(FDA)が両薬を承認すれば、進行した去勢抵抗性前立腺癌に対して承認された治療法の数は、承認された化学療法剤がドセタキセル1つしかなかった2004年から6つに増えることになる。

進行前立腺癌の治療に対するFDA承認薬

薬剤承認された年薬効分類
ドセタキセル2004化学療法剤
Cabazitaxel〔カバジタキセル〕(Jevtana)2010化学療法剤
Abiraterone〔アビラテロン〕(Zytiga)2011CYP17阻害剤(テストステロンの産生を阻害)
Sipuleucel-T〔シプロイセルT〕(Provenge〔プロベンジ〕)2011免疫療法剤

FDAは、転移を有する去勢抵抗性前立腺癌の治療に対してMDV3100とラジウム-223を優先審査に指定して審査中である。優先審査指定は、現行の医療で治療ニーズに対処できない重大な疾患に対する薬物の審査を迅速化するために行われる。

「とてもエキサイティングな発表でした。進行した去勢抵抗性前立腺癌の患者に新たな選択肢が増え、それぞれの薬で作用機序が異なるので、さまざまな方法で癌を治療できることになります。患者にとって朗報です」とトーマス・ジェファーソン大学キンメルがんセンターのDr. Leonard Gomella氏はいう。Gomella氏はいずれの臨床試験にも関与していない。

異なる薬で同様の結果

2つの臨床試験のうち、規模の小さいALSYMPCA試験には、骨にのみ転移を有する進行性前立腺癌患者900人以上が登録された。ALSYMPCA試験では、ラジウム-223と最善の支持療法(BSC)を併用する群とプラセボにBSCを加える群が比較された。

ノルウェーのAlgeta社が開発したラジウム-223は、α粒子放射体と呼ばれる薬効分類としては初の薬剤で、この種の薬の中では現在最も臨床試験が進んでいる。この薬には「カルシウム類似作用」があるため、カルシウムと同様に、腫瘍に誘発された活発に変化する骨の領域を標的にする。この薬は骨転移を標的にデザインされていると、試験責任医師であるテュレーン大学がんセンターのDr. A. Oliver Sartor氏は記者会見で述べた。

ラジウム-223は骨に取り込まれた後、100ミクロン(0.1mm)未満の範囲にしか届かないごく低線量のα線を放射する。Sartor氏によると、この薬剤は腫瘍とその周辺組織に「きわめて限局的に」放射線を照射する。「ちょうど小さな爆弾のように、爆発してもその周りの組織にはほとんど影響を与えません」。

先週発表された結果は、臨床試験に参加した患者805人の中間解析の結果である。解析の結果、全生存期間の中央値は、ラジウム-223投与群では14カ月であったのに対して、プラセボ投与群では11.2カ月であった。骨折や脊髄圧迫などの骨関連事象が発生するまでの期間の中央値も、ラジウム-223投与群では13.6カ月と、プラセボ投与群の8.4カ月と比べて有意に延長した。

骨関連事象の発症を遅らせることは臨床的に重要であると、この試験には関与していないマサチューセッツ総合病院のDr. Philip Saylor氏は述べている。「前立腺癌のこのような計り知れない負担は、骨格で生じます」。ラジウム-223は、β粒子放射体の試験薬で発生した骨髄抑制の問題を引き起こさないようにみえることも有望な徴候だという。

一方、AFFIRM試験は、細胞のアンドロゲン受容体を標的にする薬物、MDV3100を対象としている。

つい最近まで、体内のテストステロン値がきわめて低くても成長を続ける前立腺癌は、テストステロンの関与しないメカニズムを利用しているという考え方が主流であった。しかし、腫瘍細胞には「局所腫瘍部位でアンドロゲンを産生したり、アンドロゲン受容体を刺激して腫瘍増殖を促進する手段を見出す独自のメカニズムがある」ことが実験室レベルでの研究によって説得力をもって示されたとGomella氏はいう。

サンフランシスコを拠点とするMedivation社と東京に本社を置くアステラス製薬が共同開発したMDV3100は、テストステロンがアンドロゲン受容体と結合するのを阻害し、細胞内でアンドロゲン受容体が腫瘍増殖を誘導するタンパクの産生開始を阻害するという、2つの経路で作用する。

AFFIRM試験に参加したのは、ドセタキセルでの治療後に増悪した去勢抵抗性前立腺癌の患者約1,200人である。全生存期間の中央値は、MDV3100投与群で18.4カ月、プラセボ投与群で13.6カ月であった。

腫瘍が部分的または完全に縮小したのは、MDV3100投与群の約3分の1、プラセボ投与群の1.3%であったと試験責任医師であるスローンケタリング記念がんセンターのDr. Howard Scher氏は説明する。MDV3100での治療により、画像検査によって測定された転移性腫瘍の進行を除外した生存期間も、2.9カ月から8.3カ月へと大幅に延長した。

この結果を受けてMDV3100は、ドセタキセル治療後に増悪した進行性去勢抵抗性前立腺癌患者の初回治療として「位置づけられる可能性が高い」とScher氏は述べている。

次のステップ:治療の順序と組み合わせ

去勢抵抗性前立腺癌の数種類の治療選択肢をめぐって、研究者と臨床医の間で議論の中心となっているのは、どのように使用するのが最善か、特に治療の順序についてである。

MDV3100とラジウム-223では作用機序が異なり、いずれも生存期間が延長したことから、2つの薬を順次投与するのが特に有望なアプローチになり得る、とネバダ州総合がんセンターのDr. Nicholas Vogelzang氏は記者会見で述べた。

これにはSartor氏も同意している。「付加的な効果、あるいはさらに相乗的な効果が得られるかどうかを試験で実証する必要があります。これらの薬剤の併用や連続的な使用によって、今回発表された結果よりもさらに高い効果が得られる可能性もあります」。

また、承認薬と試験薬との併用も優先度の高い研究課題である。無症候の患者において、シプロイセルTのような免疫療法と、アンドロゲンを標的とする新しい療法を併用するのは有益なアプローチであるとGomella氏はいう。進行癌患者では、ラジウム-223併用化学療法を組み込んだ治療が特に有効な可能性がある。

「もちろん、これは理論上の話にすぎません。しかし、今の段階ではこうした理論について議論できることは実に喜ばしいことなのです」。

— Carmen Phillips

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月橋純子 訳
須藤智久(薬学/国立がん研究センター東病院 臨床開発センター) 監修 
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