2007/04/03号◆特別レポート「染色体領域と前立腺癌を結ぶ新たなエビデンス」
同号原文
NCI Cancer Bulletin2007年4月3日号( Volume 4 / Number 14)
NCIキャンサーブレティン顧問:古瀬清行
●2007/4よりNCI隔週発行となりました
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◇◆◇特別レポート ◇◆◇
染色体領域と前立腺癌を結ぶ新たなエビデンス
最近実施された5つの研究により、男性の前立腺癌発症リスクを増大させると考えられる遺伝子変異が第8番染色体の領域にあることが報告されている。
前立腺癌に罹患するリスクの原因となる特異的変異は未だ発見されておらず、また、リスクを増大させる作用の根底にある生物学的機序は未だわかっていない。しかし、疾患と強く相関する遺伝マーカーが研究者らによって同定され、この相関がさまざまな集団で認められることを示す多数のデータが得られている。
「この領域には、民族的背景が異なる男性の間で異なる多くの変異が認められる。このような変異が前立腺癌リスクに重要な影響を及ぼすと考えられている」と、NCIのCore Genotyping Facilityの責任者であり、NCIによる試験の共同指導者であったStephan Chanock医師は述べる。
同医師は、「このような多くの新しい研究によって、さまざまな集団において、どの変異が重要であるかということを学ぶ機会が、この領域からもたらされる可能性があることは明らかである。」と付け加えている。
Chanock医師のチームは、癌感受性遺伝子マーカー試験(Cancer Genetic Markers of Susceptibility (CGEMS) study)イニシアチブから、前立腺癌患者1,100人以上のゲノムと、マッチングにより選定した対照群1,100人のゲノムを精査した。研究者らは問題の領域で、昨年初めて報告されたリスク変異と、その近傍にある、ヨーロッパ人の祖先をもつ男性の独立危険因子として作用する2つめの変異を同定した。
研究者らは,この新たに発見された変異(rs6983267)はアメリカの白人前立腺癌患者の20%に存在するものと推定している。彼らの研究は、Nature Geneticsオンライン版4月1日号に同時発表された3つの報告のうちの1つである。
この同時発表された2つ目の研究を率いたのが、昨年この領域における最初の変異(rs1447295)を発見したチームの統率者であるアイスランドdeCODE Genetics社のKari Stefansson医師である。彼らはすでに、ヨーロッパ人の祖先をもつ男性の4集団で、前立腺癌リスクに有意に寄与する2番目の変異を同定した。
3つ目の試験はNCIが一部出資し、ハーバード大学Broad InstituteおよびMITのDavid Reich医師と南カリフォルニア大学 (USC)のChristopher Haiman医師によって主導されたもので、8q24と呼ばれる領域の3ヵ所で、前立腺癌リスクとの相関が認められる遺伝子変異7種類を同定した。
変異のほぼ全種類がアフリカ系アメリカ人に最も高い頻度で発見され、この集団では他のアメリカ人集団より前立腺癌罹患率が高いことに寄与していると考えられる。この変異が特定の組み合わせで存在すると、アフリカ系アメリカ人でリスクが5倍になるという相関がみられた。
前立腺癌では、年齢、民族および家族歴が役割を果たすことが知られている。しかし、ここ10年以上もの間、易罹患性遺伝子の発見に向けた取り組みの大部分が不首尾に終わっている。
「今回発見された変異は、初めて確固たる前立腺癌の危険因子となる遺伝子である。この疾患に寄与する領域での遺伝子変異については、今では膨大な裏付けが得られている」と、USC-Broad Institute共同報告の主執筆者、Haiman医師は話す。
Cancer Research 4月1日号には、8q24に関してこのほか2件の報告がある。そのうちの1件は、遺伝子の2つのコピーがrs1447295変異している白人男性では、変異がない男性より前立腺癌リスクが90%増大すると推定している。この試験には、NCIの乳癌前立腺癌コホートコンソーシアム(Breast & Prostate Cancer Cohort Consortium)から前立腺癌患者6,600人および対照群7,300人が参加した。
「前立腺癌遺伝子について、これほどの一致は連鎖解析試験でも相関解析試験でも、ましてやあらゆる方法を組み合わせた場合にも観察されたことがない。」ジョン・ホプキンズ大学ブルームバーグ公衆衛生学部のElizabeth Platz医師は、付属の論説でこのように記載した。
まったく思いがけなかったのは、染色体の同じ部位に前立腺癌に影響を及ぼす複数の領域が見つかったことであると言及しているのは、NCIによる試験の上級執筆者であり、CGEMSの共同指導者でもあるGilles Thomas医師である。「特筆すべきなのは、その部位に有望な候補遺伝子があるとは思ってもいなかったことである」。
この領域にはきわめて少数の遺伝子しか含まれていない。変異は、一塩基多型(SNP)―ゲノム中にある、DNAの1つの構成部位が、ある人と他の人とで異なっている部分―であるが、遺伝子の内部にも近傍の遺伝子にも属さないため、リスクをもたらす機序は依然として謎に包まれている。
「われわれは、この領域に重要な遺伝子の働きを調節することができる、microRNAのような因子があるのではないかと思っている」とChanock医師は述べる。
「実におもしろい。このことが示すのはいったい何なのかを解明するには、基礎研究に携わる同僚の援助助けが必要である」と、USC医学部長のBrian Henderson医師は付け加える。
どのような答えが出ても、前立腺癌の治療および予防に大変革をもたらす全く新しい情報であり、前立腺癌以外の疾患にとっても重要な意味をもつと、Henderson医師は述べる。
「おそらく驚くような答えが出るだろう。だからこそ、これほど興味をひき、重要なのだ―考えもしなかったことなのだから。」USC-Broad Institute共同試験の上級執筆者、Henderson医師はこう語っている。
— Edward R. Winstead
原文掲載日
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