非ステロイド性抗炎症薬で頭頸部がんの生存率が改善

一部のがん細胞株が非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)に対してより高い感受性を有することを発見

アスピリンやイブプロフェンなど、一般的な薬剤の常用によって、頭頸部がん患者の生存率が3倍以上有意に改善されることが、カリフォルニア大学サンフランシスコ校が主導した新たな試験によりわかった。

非ステロイド性抗炎症薬、すなわちNSAIDにより、PIK3CAとして知られる特異的な遺伝子変異を有するがん患者の5年全生存率が25%から78%へと改善された。遺伝子変異がないがん患者の生存率に対しては、NSAIDの使用による影響はなかった。

この試験は、PIK3CA遺伝子変異を有する頭頸部がん患者におけるNSAID常用の大きな臨床的利点を示し、頭頸部がんの特定の症例に対してNSAIDによる治療を実施する明白な生物学的根拠を示した最初の試験であると、著者らは語った。

本論文は2019年1月25日にJournal of Experimental Medicine誌で公開された。

「われわれの結果は、頭頸部がん患者だけでなく、PIK3CA変異のある他のがん患者についても、NSAIDの使用により転帰が有意に改善される可能性があることを示唆しています」と、カリフォルニア大学サンフランシスコ校、耳鼻咽喉・頭頸部外科教授であり論文の統括著者であるJennifer R. Grandis医師は語った。

「この利点は明白で大きいものであり、人々の健康に良い影響を与える可能性があります」とGrandis医師は語った。

頭頸部扁平上皮がんでは、PIK3CAは最も多く変異がみられるがん遺伝子であり、すべての腫瘍のうち34%はPIK3CA遺伝子を活性化させる変異を有している。ヒトパピローマウイルス(HPV)と関連のある頭頸部がんでは、半数以上の腫瘍でPIK3CAが変異している。

頭頸部扁平上皮がんは、予後不良をもたらす複雑な悪性腫瘍であり、5年生存率は約45%である。アメリカがん協会によると、頭頸部がんは米国におけるがん全体のおよそ4%を占め、毎年65,000人が頭頸部がんを発症すると推定されている。

頭頸部がんは若年期に発症する可能性があるものの、大半の患者は診断時に50歳を超えている。主要なリスク因子としては、喫煙、アルコール摂取、およびヒトパピローマウイルス感染が挙げられる。

イブプロフェンやアスピリンなどの市販薬を含むNSAIDは、疼痛を緩和し、炎症、発熱、および血液凝固を抑えることで知られている。NSAIDは、関節炎などの疾患に対して最も多く処方される薬剤である。

今回の新たな研究において試験著者らは、腫瘍を手術により切除したピッツバーグ大学医療センターの患者266人について調査を行った。患者の大半(84%)で喫煙歴があり、67%は術後化学療法や放射線療法を受けていた。全生存期間中央値は66カ月であった。

試験では、総計75人(28%)の腫瘍がPIK3CA遺伝子の活性化変異を有していた。

NSAIDを常用していた患者のうち、93%はNSAIDによる治療の一部としてアスピリンを常用しており、73%はアスピリンを単剤投与されていた。NSAID常用者の大半が、頭頸部がんの診断後にアスピリン療法を開始していた。

PIK3CA遺伝子の変異または増幅がみられる患者においては、少なくとも6カ月にわたるNSAIDの常用で、同薬を使用しない場合よりも生存期間が「著しく延長」したことを研究者らは発見した。これらの患者では、NSAIDによって5年全生存率が25%から78%に上昇した。しかし、PIK3CA遺伝子の変異がない患者には、非ステロイド性抗炎症薬の投与による生存率の改善はみられなかった。

細胞株とマウス両方の試験の分析で、研究者らは、NSAIDがプロスタグランジンE2と呼ばれる炎症分子の産生を抑制することで腫瘍の増殖を阻害する可能性があると推測した。

研究者らは、この結果を前向き試験によって裏付けする必要があると指摘した。さらに、今回の試験群が小さく、ならびに患者に投与したNSAIDの種類、投与時期、および投与量について限界があったことを報告した。

「NSAIDの使用によりPI3K経路とCOX経路が直接的に相互作用することで、PIK3CA変異を有する頭頸部がんの全生存について統計的および臨床的に有意な利点を得られる可能性があります」と、カリフォルニア大学サンフランシスコ校ヘレン・ディラー・ファミリー総合がんセンターの一員であるGrandis医師は語った。

「頭頸部がんの死亡率が著しく高いことを考慮し、研究者らは、最初の試験における限界に対処しNSAID使用の臨床的な意義を評価するために、前向きランダム化比較試験を設計しました」とGrandis医師は語った。

著者:カリフォルニア大学サンフランシスコ校の共著者は以下のとおりである。Noah D. Peyser, PhD; Hua Li, PhD; Neil E. Bhola, PhD; Tian Ran Zhu, MD; Yan Zeng; Toni M. Brand, PhD; Mi-Ok Kim, PhD; Richard C. K. Jordan; Scott VandenBerg, MD, PhD; Victor Olivas; Trever G. Bivona, MD, PhD; Patrick Ha, MD; and Daniel E. Johnson, PhD.

資金提供:米国国立衛生研究所(R01CA098372、R01DE023685、P50CA097190)、およびアメリカがん協会が、研究の一部に資金提供を行った。資金提供の完全なリストは論文を参照のこと。

情報開示:申告なし。

翻訳担当者 串間貴絵

監修 小宮武文(腫瘍内科/トゥーレーン大学)

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原文掲載日 

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