C型肝炎ウイルスは頭頸部がんと関連する

MDアンダーソン OncoLog 2018年3月号(Volume 63 / Issue 3)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

C型肝炎ウイルスと非肝がんとの関連性から、C型肝炎ウイルス検査および治療に意味がもたらされた。

C型肝炎ウイルスと原発性肝がんおよび非ホジキンリンパ腫との関連性が明らかとなって久しいが、頭頸部がんなど他の数種類のがんとの関連性は明確に示されていない。テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、同センターの頭頸部がん患者のC型肝炎ウイルスの感染率が高かったことを受け、C型肝炎ウイルスと頭頸部がんとの関連性を調査するため、いくつかの研究を立ち上げた。研究結果が、がんの種類を問わず、がん患者に対するC型肝炎ウイルスのスクリーニングと治療の標準的な方法を変える可能性がある。

MDアンダーソンがんセンターは、がん患者に併存するC型肝炎に長年関心を持ってきた。同センターは、世界でいち早くC型肝炎治療のためのクリニックを設立し(2009年)、全新規患者に対してC型肝炎ウイルスのスクリーニングを実施した(2016年)がん病院である。そのため、同センターは、C型肝炎ウイルスに感染しているがん患者のデータを大量に所有している。

「他のいくつかのがんと比較して、頭頸部がん患者さんでC型肝炎ウイルスの陽性率が高いことがわかり始め、その理由を解明しようと考えました」と、感染症・感染管理・産業衛生研究科の准教授であり、C型肝炎クリニックの所長であるHarrys Torres医師は語った。これまでに同医師らは、C型肝炎ウイルスが頭頸部がんと関連していることを発見している。

「新しく、期待の持てる研究分野です。今われわれが行っている研究から、重要かつ臨床的に重要な知見がさらに得られるでしょう」と、Torres医師は述べた。

C型肝炎ウイルスとがんの発症・予後

Torres医師と頭頸部外科教授であるErich Sturgis医師・公衆衛生学修士(以下Sturgis医師)らは、2004年から2014年の間にC型肝炎ウイルス検査を受けた頭頸部がん患者409人について後ろ向き研究を行った。対照群として、同じ期間にC型肝炎ウイルス検査を受けた他のタバコ関連がん(具体的には肺がん、食道がん、または膀胱がん)患者694人の解析を行った。

中咽頭がんと非中咽頭の頭頸部がんは、いずれもC型肝炎ウイルス血清陽性に関連していることが研究により明らかとなった。中咽頭がんの発生機序における要因としてヒトパピローマウイルス(HPV)感染があることから、研究者らは、サブグループ解析を実施し、中咽頭がん患者のC型肝炎ウイルスおよびヒトパピローマウイルスの感染状態について調査した。中咽頭がんでは、血清のC型肝炎ウイルス陽性結果はヒトパピローマウイルスの陽性結果と関連していたが、ヒトパピローマウイルスの陰性結果とは関連していなかった。

「C型肝炎ウイルスとヒトパピローマウイルスには共通の発がん経路があり、両ウイルスはTP53とRb(網膜芽細胞腫)腫瘍抑制遺伝子に作用します。これが原因で、両ウイルスが相乗的に中咽頭がんを引き起こしているのかもしれません。しかし、両ウイルスの関連性についてはまださらに研究が必要です」と、Torres医師は語った。

同医師らは、中咽頭がんやそれ以外の頭頸部がんを有する患者の生存に対するC型肝炎ウイルス感染の影響についても調査した。中咽頭がん患者の研究結果は、最近Cancer誌に掲載されることになり、中咽頭がん以外の頭頸部がん患者の研究結果については、2018年米国臨床腫瘍学会(ASCO)での発表にむけて、準備が進められている。

中咽頭がん患者の生存に関する研究では、2004年から2015年までにMDアンダーソンがんセンターでC型肝炎ウイルス検査を受けた患者の記録が調査された。C型肝炎ウイルスが陰性であった患者では、陽性であった患者よりも5年全生存率および5年無増悪生存率が有意に高かった(上記のグラフを参照)。さらに、C型肝炎ウイルスが陽性であった中咽頭がん患者のうち、C型肝炎の抗ウイルス治療を受けた患者では、治療を受けなかった患者よりも5年全生存率および5年無増悪生存率が有意に高かった。

「C型肝炎ウイルスは疫学的に頭頸部がんと関連しているばかりでなく、一部の頭頸部がん患者の生存にも影響しているように思われます」と、Torres医師は述べた。

医師への影響

Torres医師と、総合内科学部門の准教授であるJessica Hwang医師・公衆衛生学修士(以下Hwang医師)を含むASCOの共同研究者グループは、C型肝炎ウイルスは患者がどの種類のがんであっても重要であることを、がん専門医に伝えるための提言書を作成している。Torres医師は、「提言書では、まず、がん患者さんのC型肝炎ウイルススクリーニングを実施するよう医師に提案しています。次に、C型肝炎ウイルス陽性の患者さんへ抗ウイルス療法を勧めるよう医師に求めています」と述べ、さらに、C型肝炎ウイルスが陽性と判明したがん患者の多くはC型肝炎とがんの同時治療が可能であると付け加えた。

非ホジキンリンパ腫の患者に対し、C型肝炎の治療を行うと、がんの予後が改善することが知られている。事実、低悪性度リンパ腫の患者の中には、C型肝炎の抗ウイルス治療後に完全寛解を得る者もいる。他のがん患者では、C型肝炎ウイルス治療の利点はあまり知られていないが、Torres医師によると、ウイルスを排除することは、肝硬変の予防や進行を遅らせるだけでなく、長期的な効果を期待できるという。

がん患者に対し、C型肝炎の治療を行うと、二次がん(例:原発性肝がん、非ホジキンリンパ腫)の発生も予防できる可能性がある。Torres医師は、Ernest Hawk医師・公衆衛生学修士(以下Hawk医師)をはじめとする研究者らと共同で、このテーマについて研究を開始した。Hawk医師は、がん予防・人口科学部門(Cancer Prevention and Population Sciences)の副部長であり、ダンカンファミリーがん予防・リスク評価研究所(Duncan Family Institute for Cancer Prevention and Risk Assessment)の理事である。

「われわれは、十分早い時期にC型肝炎ウイルスを同定し治療すれば、二次がんの予防が可能かどうかを知りたいと思っています。また、C型肝炎ウイルス関連の二次がんはがんサバイバーに多く、致命的であることを裏付けるいくつかの予備的データを持っています」と、Torres医師は述べた。

消化管がん、甲状腺がん、腎がん、前立腺がん、肺がん、皮膚の非上皮性悪性腫瘍といった他のがんがC型肝炎ウイルスと関連するかもしれないというケースが報告されているが、もし、これらのがんとの関連性がTorres医師と同様の研究によって確認されれば、がん患者におけるC型肝炎ウイルス検査と治療はさらに重要になるだろう。「C型肝炎ウイルスに関連する悪性腫瘍のリストに載るがんの数を増やすことになると考えています」とTorres医師は述べた。

キャプション】

中咽頭がん患者において、カプラン・マイヤー法を用いた解析によれば、C型肝炎ウイルス(HCV)陰性患者は陽性患者と比較して無増悪生存率が高い(P = 0.001)ことが判明した。Cancer誌の許可を得て転載(2017. doi: 10.1002/cncr.31146)。

For more information, contact Dr. Harrys Torres at 713-792-6503 or htorres@mdanderson.org.

FURTHER READING

Economides MP, Amit M, Mahale PS, et al. Impact of chronic hepatitis C virus infection on the survival of patients with oropharyngeal cancer. Cancer. 2017. doi: 10.1002/cncr.31146. [Epub ahead of print]

Mahale P, Sturgis EM, Tweardy DJ, et al. Association between hepatitis C virus and head and neck cancers. J Natl Cancer Inst. 2016;108:djw035.

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翻訳担当者 竹原 順子

監修 東 光久(総合診療、腫瘍内科、緩和ケア/福島県立医科大学白河総合診療アカデミー)

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