C型肝炎患者は特定の頭頸部がんを2~5倍発現しやすい可能性

MDアンダーソンがんセンター

MDアンダーソンがんセンターの試験で、新たながん種との関連性が初めて判明し、スクリーニングと治療に重要な影響を及ぼす可能性がある。

C型肝炎ウイルス(HCV)について、肝臓がんおよび非ホジキンリンパ腫との関連性は以前から示されているが、今回初めて、一部の頭頸部がんに関連していることがテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの試験で分かった。この結果はNational Cancer Institute誌で報告されたが、ウイルスのスクリーニングと、頭頸部がんの治療の両方に対して重要な影響を及ぼす可能性がある。

米国で最も多い血液感染であるC型肝炎は、人口の最大1.5%が感染するウイルスである。研究者らによると、推計390万人もの人々が慢性的に感染していると言われている。

感染症・感染管理・産業衛生部門の准教授であるHarrys A. Torres医師によると、ここ2、3年で、新薬によりC型肝炎患者の90%以上が治癒可能になった。またTorres医師は、これらの抗ウイルス剤は1日1回もしくは2回服用の経口薬でほぼ副作用がないと説明している。

2009年、MDアンダーソンがんセンターは、C型肝炎患者について対応しきれていない医学的ニーズに対処するクリニックを開設した。総合がんセンターにおけるこの種のクリニックは現在も他に例がない。

「明らかに、C型肝炎の感染は、患者のがん治療の奏効に影響する可能性があります。また、C型肝炎患者の多くが、臨床試験から除外されていることも分かりました。現在、多くのC型肝炎の患者は治癒可能であるため、われわれはまずウイルス対策を講じ、できれば治すことが重要であり、それによって患者は必要ながん治療を受けられるようになります」。

Torres医師はクリニック開設当初、数多くの肝臓がんと非ホジキンリンパ腫の患者の診療を予想していた。というのも、これら2つの疾患リスクはC型肝炎感染があるとそれぞれ48倍(肝臓がん)、2~3倍(非ホジキンリンパ腫)に上昇することが実証されているからである。他の最近の試験では、C型肝炎の感染によって、さらに別のがんのリスクも増加することが分かっているが、有意な頭頸部がん患者数との関連性については何も知られていなかったと、Torres医師は話した。

「驚いたことに、多くの頭頸部がん患者でC型肝炎ウイルス検査が陽性判定でした。この結果から、これら2つの間に未知の相関性があるのではないかと考え始めました。われわれの研究結果から、C型肝炎感染と中咽頭がん・非中咽頭がんとの関連性は、非ホジキンリンパ腫との関連性と同じくらい高いことが分かりました」。

中咽頭がんは、咽頭の中でも、舌の奥3分の1、軟口蓋、扁桃腺、咽喉の側壁と後壁を含む中咽頭に発生する。非中咽頭がんは、口腔、鼻腔、喉頭に発生する。

今回の後ろ向き症例対照試験では、2004年から2014年の間にHCV検査を実施していたMDアンダーソンがんセンターの患者34,545人を対象とした。すべての患者に対してHCV抗体検査を実施し、実施可能な場合には、慢性感染を確認するためにRNAウイルス検査を実施していた。

頭頸部がん患者409人(中咽頭がん患者164人と非中咽頭がん患者245人)を症例対象者とした。また、本試験の重要な点として、頭頸部がんの主な危険因子である喫煙を対照とした、とTorres医師は話した。したがって、対照群として694人を特定し、その全員が喫煙に関連したがん(肺がん378人、食道がん168人、膀胱がん患者148人)の診断を受けていた。

本試験の結果、HCV抗体陽性は中咽頭がん患者で14%であったのに対し、対照群ではたったの6.5%であった。非中咽頭がん患者では、HCV抗体陽性は20%であった。すべての結果は、統計学的に非常に有意であった。

対照群と比較して、C型肝炎感染患者が特定の頭頸部がんを発現するリスクは、口腔がんでは2.4倍、中咽頭がんでは2.04倍、喉頭がんでは4.96倍となった。

注目すべきことに、中咽頭がん患者のうち145人は、ヒトパピローマウイルス(HPV)も検査しており、この二種のウイルスの関連の可能性についても比較できた。HCV陽性の頭頸部がん患者は、HPVも陽性である傾向がより高かった。

本結果は、今後、大いに関心を集める研究分野であるとTorres医師は語った。C型肝炎患者における上記2種のウイルス間の関連性が判明したことを受け、Torres医師らはHPVが関連する他のがん、および、それらのがんとHCVとの関連の可能性について、MDアンダーソンがんセンターMoon Shots Programで調査する計画である。

肝臓がんと非ホジキンリンパ腫に関する報告のとおり、抗ウイルス薬での治療により、がんを予防できる可能性があるため、C型肝炎ウイルス検査は重要であろうと、Torres医師は指摘した。

すでにがんが発生した患者の治療にも影響を及ぼす可能性がある。実際、National Comprehensive Cancer Networkガイドラインでは、一部の低悪性度非ホジキンリンパ腫であるC型肝炎患者について、C型肝炎は治癒が可能であるので、C型肝炎の治療を先に実施することを推奨していると、Torres医師は指摘している。

抗ウイルス療法でC型肝炎を治療すると、リンパ腫が消失した症例もあったとTorres医師は説明した。

本結果に基づいて、MDアンダーソンがんセンターでは、すべてのHCV陽性頭頸部がん患者を検査、治療し、その転帰を追跡する予定である。

肝臓全般または感染症を専門とする両分野、すなわちC型肝炎患者を主として治療する人々に対して、C型肝炎が肝臓に影響を及ぼすだけではなく、全身に影響を及ぼす感染症であることを理解するよう教育することが非常に重要になる。

「みなさんに理解してほしいことは、C型肝炎は他にも影響を及ぼす感染症であり、治癒可能な感染症であるということです」とTorres医師は語った。

本試験はNIH/NCIの支援(助成金番号P30CA016672)を受けており、2015 Conquer Cancer Foundation of American Society of Clinical Oncology Merit Awardを受賞している。

全員MDアンダーソンがんセンター所属研究者による本試験において、Torres医師以外の著者は以下の通りである。Parag Mahale, M.D., and Ella J. Ariza-Heredia, M.D., both of Infectious Disease, Infection Control and Employee Health; Erich M. Sturgis, M.D., Head and Neck Surgery; and David J. Tweardy, MD., Infectious Diseases and Molecular and Cellular Oncology

Harrys A.Torres医師は、Gilead Sciences社、Janssen Pharmaceuticals, Inc.社、Merck & Co.,Inc社、 Vertex Pharmaceuticals社、Novartis社、 Genentech社、Astellas社、Pfizer社と Theravance, Inc社の顧問であり、Gilead Sciences社、Merck & Co.,Inc.社と、Vertex Pharmaceuticals社から研究資金を受け取っている。

David J. Tweardy医師は、StemMed, Ltd.社の持分権を所有している。他の著者は、利益相反がないことを宣言している。

翻訳担当者 松川深玲

監修 林 正樹(血液・腫瘍内科/社会医療法人敬愛会中頭病院)

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