早期咽喉部がんに対する経口的ロボット支援手術

MDアンダーソン OncoLog 2016年3月号(Volume 61 / Issue 3)

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早期咽喉部がんに対する経口的ロボット支援手術

最小侵襲手術によって放射線療法や化学療法の回避または線量/用量を減少できる可能性

長年にわたり、手術の難しい部位の咽喉部がん患者の多くが、しばしば重篤な毒性作用をもつ高線量の放射線療法や高用量の化学療法を受けていた。従来の手術は侵襲性が高く、外観をそこなうものであったためである。現在では、低侵襲のロボット支援手術によって、舌根や扁桃にできたがんを大きな傷跡を残さずに切除できるようになったため、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者たちは、この治療でどのようにして放射線療法や化学療法を最小限に減らし、患者のQOL(生活の質)を向上させることができるか研究している。

患者集団の変化

舌根または扁桃の初期がんにおける典型的な患者特性は、近年大きく変化した。若年患者が増加する傾向があり、がんに罹患した後も長期にわたって生存する可能性が高く、がんは喫煙よりもヒトパピローマウイルス(HPV)との関連性が強くみられる。

「HPV関連早期咽喉部がんの若年患者にとって、予後は当初から良好であるため、治療のニーズは今までと異なります」と頭頸部外科部門の准教授であるNeil Gross医師はいう。この新たなプロファイルをもつ患者の90%以上は長期生存が期待されるため、頭頸部の専門医たちは長期にわたる毒性作用が少ない治療法の開発に注目している。

開放手術と放射線治療の短所

初期咽喉部がんの標準的な治療は良好な生存率をもたらすが、治療後のQOLは理想的とは言い難かった。長期にわたり、この種のがんを切除する開放手術は顎を切り開いて病巣部位にアプローチすることが多かったが、近年では、強力な放射線療法と細胞傷害性の化学療法を組み合わせる治療にほぼ完全に置き換わっている。この併用療法は侵襲性の高い手術を回避できるが、顎の損傷、慢性の口内乾燥(ドライマウス)、嚥下障害など長期にわたる強い有害作用を伴い、一時的または永久的な胃管栄養法が必要となる可能性がある。つまり、放射線療法と化学療法を選択するとがんに罹患した組織構造は温存されるが、重要な発語機能や嚥下機能が損なわれてQOLが低下する。

「この部位は体にとって『台所』のようなものです。口はさまざまなことを行う場所だからです。口は社会的な交流にかかわり、会話や呼吸、食事をするところであり、人々が注目するところでもあります」とGross医師はいう。「頭頸部がんの治療を受ける患者は、うつ病や自殺の割合が高い。というのもそれだけ日常生活に深刻な影響を及ぼす部位だからなのです」。

手術の技術革新による低侵襲の治療

初期の咽喉部がん患者で、放射線療法と化学療法を最小限にしてその有害作用を回避する鍵は、手術を増やすことであるが、それは侵襲性の低いものでなければならない。今日、経口的ロボット支援手術(TORS)のダ・ヴィンチ手術システムでは、開放アプローチによらず、口からがんにアプローチすることを可能にしている。

TORSでは、頭頸部外科医が柔軟なロボットアームを遠隔操作して、人間の手だけで届く範囲よりもずっと咽頭の奥で手術器具を扱う。TORSでは、術者が咽喉の解剖学的構造を迂回するように器具を操作できるため、視線上の切除しか行えない経口的レーザー顕微鏡下手術(マイクロサージャリー)より有利である。そのため、初期の舌根または扁桃腫瘍の多くが腫瘍周囲のマージンを取って切除できる。そのような患者では、放射線療法や化学療法を省略したり、より少なく毒性を抑えた線量または用量で投与できるかもしれない。

「がんを切除した後に放射線療法と化学療法を完全に回避するか、あるいは補助療法が必要な患者には、術後に低線量の放射線療法、または放射線療法と化学療法の併用療法を施行することを考えています」とGross医師。TORSは、患者数の多い施設でこの手術に慣れた外科医によって施行するのが最も効果的だとも同医師は指摘している。

経口的ロボット支援手術の臨床試験

MDアンダーソンでは、舌根または扁桃のがんの治療で、TORSをどのように使用するのが最善か、そしてどの程度QOLを改善できるかを評価する臨床試験をいくつか実施中または計画中である。Gross医師や、放射線腫瘍学部門の准教授であるBrandon Gunn医師らが進めているこういった臨床試験の一つでは、初期のHPV陽性の舌根/扁桃がん患者が、TORSまたは陽子線放射線治療からどのように回復するかを追跡する方法を調べている。対象患者のほとんどは治癒が期待できるため、多くの患者は単に生存するだけでなく、QOLや、どれだけ早く通常の生活に戻れるかに特に関心がある。そのためこの試験では、嚥下機能や倦怠感など患者が報告する症状を評価するのみならず、身体に装着する活動モニタを利用して、歩行距離や高度の変化、睡眠習慣など患者の身体活動データも収集する予定である。本試験では、この方法で測定した活動レベルと患者が訴える症状との間に相関があるかどうかを評価する。さらには、異なった治療法によるQOLの差を比較する大規模臨床試験に、活動モニタで収集するデータが利用できるかどうかを見極める上で役立つと期待される。

「患者の多くは治療後無気力になり、回復には時間がかかります。中には元の活動レベルまで完全には戻らない患者もいます」とGross医師はいう。「繰り返しますが、若い患者が多く、かつては忙しく活動的な生活を送っていた傾向があります。突然その活動ができなくなると、その変化は大きいのです」。

MDアンダーソンで今年半ばに開始が予定されている別の試験では、舌根または扁桃のがんの患者にTORSを施行する前に、免疫チェックポイント阻害薬を投与する。免疫治療薬を投与する前に実施した腫瘍の生検検体を、手術で切除した腫瘍と比較して、免疫療法の生物学的作用を評価する予定である。さらに研究者たちは、TORSの前に免疫療法薬を投与することによって、補助的な放射線療法や化学療法の必要性を減らせるかどうかがわかるであろうと期待している。対象となるのは、HPV陽性がんとHPV陰性がんの患者である。

これらの試験は、舌根または扁桃のがんの患者に対する集学的治療にTORSを使用する際の手引きとなるだろう。技術が進歩を続け、手術器具がさらに小型化し術者の動きに機敏に反応するようになると、いずれは咽喉部でもっと手術が難しい喉頭、気管、上部食道などの部位にあるがんの切除にも、TORSが使用されるようになるかもしれない。

「技術は、今日われわれが診ている患者のニーズに追いつきつつあります」とGross医師はいう。「結局のところ、問題は道具ではなく、患者なのです」。

【画像キャプション訳】
侵襲性のきわめて低い経口的ロボット支援手術で外科医が左側の扁桃腫瘍(楕円内)を切除しようとしているところ。
写真はNeil Gross医師による。

For more information, contact Dr. Neil Gross at 713-745-8483.

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翻訳担当者 佐復 純子

監修 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)

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