シスプラチンを使えない頭頸部がんにはセツキシマブがデュルバルマブより有効

抗がん薬であるシスプラチンは放射線療法と併用され、局所進行頭頸部がんの初発患者に対する標準治療法である。しかし、こうしたがん患者の約3分の1には、難聴や腎臓病など他の健康障害があり、この薬を投与することができない。

これらの患者にとって最適な治療法が何であるかは不明であった。そして、これは重要な問題である。なぜなら、頭頸部がんと診断された人のほとんどが局所進行がん、つまり腫瘍が比較的大きいが体の他の部位に転移していない状態だからである。

臨床試験の新たな結果がその疑問への回答に役立つ可能性があると、本研究を主導した研究者らは言う。NCIが支援するこの試験では、局所進行頭頸部がん患者約200人を対象に、シスプラチンに代わる可能性のある2つの治療法を比較した。

この研究では、分子標的薬セツキシマブ(販売名:アービタックス)を放射線療法と併用した患者は、免疫療法薬デュルバルマブ(販売名:イミフィンジ)を放射線療法と併用した患者と比較して転帰が良好であった。

追跡期間中央値2.3年で、無増悪生存率(疾患の進行なく生存している割合)は、セツキシマブ群で64%であったのに対して、デュルバルマブ群では51%であった。この研究結果は、11月14日付けLancet Oncology誌で発表された 。

研究者らは、計画していた中間結果解析から、デュルバルマブ投与群に無作為に割り付けられた患者は、セツキシマブ投与群の患者と比較して予後が悪い可能性が示されたため、試験を早期に終了した。試験終了後、研究者らは患者の追跡調査を継続した。

「私たちの研究結果は、標準療法のシスプラチンを投与できない患者にとって、セツキシマブを併用する放射線治療が非常に良い代替療法であるという考えを裏付けています」と、研究リーダーのLoren Mell医師(放射線腫瘍医、カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部)は話す。

「デュルバルマブに大きな期待を寄せていましたが、この患者群にはセツキシマブの方が良いようです」とMell医師は続けた。

NCIがん研究センターのCharalampos Floudas医師は、今回の新たな結果は将来の試験の方向性を示す可能性があると述べた。同医師は頭頸部がんの治療に携わっているが、今回の試験には関与していない。

この結果は、シスプラチンを投与できない局所進行頭頸部がん患者を対象に免疫療法薬ペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)とセツキシマブを比較した最近のランダム化比較臨床試験の結果と一致していると、Floudas医師は指摘する。その試験では、ペムブロリズマブと放射線療法の併用は、セツキシマブと放射線療法の併用と比較して腫瘍の成長を遅らせたり、患者の生存を改善することはなかった。

「理由がどうあれ、免疫療法薬と放射線療法の併用は、頭頸部がん患者の多くにとって効果的な治療法ではありません」とMell医師は言う。「そのため、シスプラチンを投与できない患者のために、私たちは別の戦略を追求するようになりました」。

研究が進んでいない集団で様々な種類のがん治療薬を比較

シスプラチンを投与できない局所進行頭頸部がん患者は高齢である傾向にあり、臨床試験への参加要件を満たせない基礎疾患を抱えていることも多い。

「これらの人々については研究が十分にされていません」とMell医師は言う。「これらの患者を対象とした臨床試験が不足しているために、最適な治療法について不確実性が高くなっています」。

これまでの研究では、放射線治療と併用するシスプラチンに代わる複数の選択肢については相反するデータが得られている。これらの代替薬としては、ドセタキセルなどの他の化学療法薬や、カルボプラチンとパクリタキセルの併用などがあると研究者らは指摘している。

「現在この分野で広く議論されている疑問の一つは、併用化学療法はセツキシマブなどの分子標的療法薬投与よりも優れているかどうかです」とMell医師は話す。

NCI の国立臨床試験ネットワークの一部であるNRG OncologyでMell医師らが試験を開発した当時、セツキシマブはシスプラチンの主な代替薬と考えられていた。

研究者らは、セツキシマブとデュルバルマブ(免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる免疫療法薬の一種)を比較することにした。というのも、再発または転移した頭頸部がん患者の治療にすでに他の免疫チェックポイント阻害薬が使用されているからである。

デュルバルマブは、シスプラチンを投与できない頭頸部がん患者を対象とした過去の非ランダム化試験でも有望な結果を示していた。また、別の複数研究では、一部の頭頸部がん患者において放射線が免疫療法薬の効果を高める可能性があることが示唆されている。

試験の治療群間で同様の副作用

今回の試験では、参加者の半数以上が70歳以上で、大多数が白人男性であった。参加者がシスプラチンの適応とならなかった最も多い理由として、腎臓疾患、難聴、末梢神経障害などがあった。

研究参加者のうち、123人をデュルバルマブ群、63人をセツキシマブ群に無作為に割り付けた。NCIと、デュルバルマブの製造元であるアストラゼネカ社がこの臨床試験に資金を提供した。

セツキシマブ群の無増悪生存率は64%で、この患者集団を対象とした多施設ランダム化試験でこれまでに報告された中で最も高いと思われると研究者らは指摘した。

研究者らが、腫瘍に特定の特徴がある患者など、患者のサブグループ間で治療反応を分析したところ、セツキシマブは全般的に優れていた。しかし、試験が早期に終了したこととサブグループの規模が小さいことから、サブグループ分析は慎重に解釈する必要がある、と研究者らは記している。

有害事象の発生率は両グループで同様であったことがわかった。最も多くみられた重篤な副作用(グレード3または4)は、嚥下困難(デュルバルマブ群22%、セツキシマブ群30%)、血中リンパ球数の減少(28%、33%)、および口内炎(11%、18%)であった。

デュルバルマブ群の患者4人(3%)とセツキシマブ群の患者1人(2%)が治療関連の有害事象で死亡したと報告された。

先行研究の確固たる証拠に基づく試験設計

シスプラチンが投与できない局所進行頭頸部がん患者に対する最適な治療法を確定するにはさらなる研究が必要だが、本研究は重要な疑問に答えたとMell医師は語った。

「この研究を行う前は、医学的に虚弱な患者を対象にした研究が実施可能かどうかさえわかりませんでした」とMell医師は語った。「この患者グループを対象として試験を実施できることが確認でき、これにより、疑問に答えることができるでしょう」。

同医師はさらに、腫瘍が免疫療法薬に反応する特定の患者では、デュルバルマブと放射線療法が有益となる可能性がまだあると付け加えた。

付随論説では、神戸大学病院で頭頸部がん治療を専門とする清田尚臣医学博士も同意した。現在行われている臨床試験で、これらの薬を最も効果的に使用する方法についての手がかりが明らかになる可能性があると清田医師は指摘した。

例えば2件の臨床試験の参加者は、化学療法と放射線療法を終えた後に免疫療法薬(volrustomig またはドスタルリマブ[販売名:Jemperli])を投与されている。同様の治療順序(化学療法と放射線療法の後に免疫療法薬を投与)により、臨床試験で肺がん患者の一部は生存期間が延びたと、清田医師は書いている。

研究者らが局所進行頭頸部がん患者に対する新たな試験を開発する際に、セツキシマブは比較治療薬として使用できるとMell医師は示唆した。

「私たちの研究の重要な発見は、セツキシマブが予想以上に良い薬であるようだということです」とMell医師は話す。「この結果は、先行研究結果と合わせて、この薬がこの患者群に有効かどうかという懸念を和らげるのに役立つはずです」。

  • 監修 山﨑知子(頭頸部・甲状腺・歯科/埼玉医科大学国際医療センター 頭頸部 腫瘍科)
  • 記事担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2024/12/19

この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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