頭頸部がんで2023年のシスプラチン不足の長期にわたる影響が浮き彫りに

2024年ASCOクオリティ・ケア・シンポジウムで新たな研究が発表される

ASCOの見解(引用)

 「米国における抗がん剤不足は、ジェネリックの安価な化学療法剤で最もよく起きます。この研究は、2023年のシスプラチン/カルボプラチン不足の危機の間、頭頸部がん患者で代替レジメンへの切替えの際に、より高価な代替薬[特にモノクローナル抗体セツキシマブ(販売名:アービタックス)]が使用され、その結果、支払者と患者の医療費が大幅に増加したことを示しています。最近の医薬品不足の際に行われた切替えが、最終的に同等の転帰をもたらすか、悪い転帰をもたらす可能性があるかは、まだわかりません」。-Julie R. Gralow医師、米国臨床腫瘍学会(ASCO)副会長および最高医学責任者、FACP、FASCO

研究要旨

テーマ2023年 シスプラチン不足がヘルスケアシステムに与える影響
対象者全米がんネットワーク(The US Oncology Network)の26の腫瘍科診療所で化学療法を受けている頭頸部がん患者
主な結果2023年のシスプラチン不足は、頭頸部がん患者の代替薬の使用増加とヘルスケアシステムでの医療費増加につながった。
意義・医薬品不足は治療の遅延、ケアの中断または治療計画の変更につながる可能性がある。薬剤不足の間、一部の患者は代替の薬剤や治療レジメンを受ける必要がある場合があり、元の推奨された治療よりも副作用が増えたり、効果が薄くなったり、費用が高くなったりする可能性がある。
・2023年に、ジェネリック医薬品として入手可能な化学療法薬のシスプラチンが2月から8月まで不足した。シスプラチンは、頭頸部がんを含むいくつかの種類のがんの治療に使用される。化学療法の使用は頭頸部がん患者にとって一般的であり、不足前は、シスプラチンがこれらの患者に最も使用されていた化学療法薬であった。
・これまで、医薬品不足がヘルスケアシステムに与える影響については、事例証拠しかなかった。本研究は、治療可能ながんにおける重大な医薬品不足の具体的な影響をよりよく理解し、ケアに対して予想される影響についてデータに基づく証拠を作成することを目的とした。

 2023年のシスプラチン不足は、頭頸部がん患者の代替薬の使用増加と費用増加につながったことが、2024年9月27日〜28日にカリフォルニア州サンフランシスコで開催される2024年米国臨床腫瘍学会(ASCO)クオリティ・ケア・シンポジウムで発表される新たな研究により明らかになった。

研究について

「医薬品不足はがんケアにおいてあまりにも一般的な出来事となっており、患者の治療を中断させ、医療従事者がどこでどのように時間を費やすかに影響を与え、ヘルスケアシステムに広範な影響を及ぼしています。これらの結果は、医薬品不足がもたらす多面的な結果を示しており、医薬品不足の問題を解決するために、すべての医療関係者および参加するサプライチェーン関係者に行動を呼びかける証拠となるものです」と、本研究の筆頭著者であるPuneeth Indurlal医師[理学修士、医学士(MBBS)、The American Oncology Network(AON)、この研究が実施された当時The US Oncology Networkに在籍]は述べた。

研究者らは、The US Oncology Networkの26箇所の診療所から、薬剤不足前(2022年7月~2023年1月)、薬剤不足期間中(2023年2月~2023年8月)、薬剤不足後(2023年9月~2024年3月)の診療記録と請求書を調査した。

主な知見

  • 頭頸部がん患者に対するシスプラチンの使用は、不足期間中に15%減少した。最も使用が少なかったのは2023年6月と7月で、不足前に比べて60%減少した。
  • 他の化学療法薬では、カルボプラチン(使用が40%増)、パクリタキセル(同24%増)、5-フルオロウラシル(同5.3%増)などが不足期間中により頻繁に使用された。3剤ともジェネリック医薬品が利用可能である。分子標的治療薬であるセツキシマブ(アービタックス)の使用も不足期間中に15%増加した。
  • 不足前にすでにシスプラチンを投与されていた患者の10%は、入手可能な薬剤が全くなかったため、不足中に別の薬剤の投与に変更された。不足前にまだ治療を開始していなかった患者には、シスプラチンの代わりにカルボプラチン(パクリタキセル併用または非併用)、セツキシマブ、5-フルオロウラシルが投与された。
  • 不足期間中に使用されたすべての代替薬の中で、セツキシマブにかかる費用が最も高く、1回投与あたりの平均は2,607ドルであった。
  • これに対し、他の薬剤では平均でシスプラチンが18ドル、カルボプラチンが14ドル、パクリタキセルが16ドル、5-フルオロウラシルが22ドルであった。特にセツキシマブの使用が多いと総費用は16%増加し、点滴1回あたりの費用は144倍となった。この結果、患者と医療保険提供者の双方にとって費用増加となった。
  • 特定の薬剤レジメンによるがん治療は、通常、その薬剤による治療開始後に切り替えるべきではない。そのような混合レジメンの有効性を評価する十分なエビデンスが今のところないからである。そのため、薬剤不足の間にセツキシマブの投与を開始したすべての患者は、シスプラチン不足が解消しても、より高価なこの薬剤の投与を継続した。

次のステップ

研究者らは、医薬品不足が治療の遅れや患者の治療中断につながったかどうかを含め、薬剤不足ががんケアにどのような影響を及ぼすかについてさらに詳しく調べる予定である。また、薬剤不足が患者の転帰にどのような影響を及ぼしたか、費用の増加ががんケアシステムのパフォーマンスにどのような影響を及ぼしたかについても調査する予定である。

この研究は資金提供を受けていない。

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  • 監修 東海林洋子(薬学博士)
  • 記事担当者 坂下美保子
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  • 原文掲載日 2024/09/23

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