治験薬dacomitinibが一部の頭頸部癌患者に有効な可能性

2014年4月5日~9日にサンディエゴで開催された米国癌学会(AACR)の年次総会において、治験薬dacomitinib(ダコミチニブ)の第2相試験の結果が発表され、頭頸部癌で最もよくみられる病型である、再発または転移性の頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)を有する患者のうち、PI3K経路と呼ばれる細胞シグナル伝達経路に異常がなく、激しい炎症所見を伴わない患者に対して、ダコミチニブが有効な可能性が示された。

「再発または転移性SCCHN患者の予後はきわめて不良であり、承認されている治療薬が少なく、生存期間の中央値は6~9カ月です」とYonsei Cancer Center(韓国、ソウル)の准教授であるByoung Chul Cho医学博士は述べた。「われわれが実施した第2相試験のデータから、多くの前治療を受けた再発または転移性SCCHN患者のうち、PI3K経路に異常がなく、炎症性サイトカインが過剰発現していない患者に対して、ダコミチニブは有望な抗腫瘍作用を発揮することが示されています」。

「この第2相試験の結果は、ダコミチニブの有効性を他の延命目的の化学療法と比較する第3相試験で確認する必要があります」とCho医師はつけ加えた。「バイオマーカーデータを利用し、ダコミチニブが最も有効と考えられる患者、すなわちPI3K経路に異常がなく、炎症性サイトカインが過剰発現していない患者を選択することで、試験の成功率が上昇するでしょう」。

ダコミチニブは上皮成長因子受容体(EGFR)と呼ばれるタンパク質の活性を阻害する。Cho医師によると、この試験を実施した根拠は、ほとんどのSCCHNでEGFRの発現が増加しており、このEGFRが治療標的となり得ることに基づいている。

「この第2相試験の結果が第3相試験で確認されれば、ダコミチニブは、新たな治療薬が切望されている疾患に対する、新たな分子標的治療薬になり得ます」とCho医師は述べた。「ダコミチニブが最も有効と考えられる患者をより正確に定義するために、われわれはバイオマーカー解析にさらに取り組んでいます」。

第2相試験では、再発または転移性SCCHN患者48人を登録し、全例にダコミチニブを1日1回経口投与した。ダコミチニブの治療効果は、固形癌の効果判定基準(RECIST)ガイドライン1.1版を用いて評価した。

部分奏効10人、病勢安定31人であり、本試験の主要評価項目である全奏効率は21%であった。また、追跡期間の中央値8.4カ月で、無増悪期間は平均3.9カ月、全生存期間は平均6.6カ月であった。

腫瘍検体の遺伝子解析を実施し、ダコミチニブの治療効果と関連する複数のマーカーを同定した。PI3K経路に関与する重要な2つの遺伝子(PIK3CAおよびPTEN)について、2遺伝子のいずれかに変異のある腫瘍を有する患者(変異例)は、2遺伝子のいずれにも変異のない腫瘍を有する患者(非変異例)と比較して2倍以上早く進行した。つまり、平均無増悪生存期間は、変異例2.9カ月、非変異例4.9カ月であった。非変異例2人の無増悪期間は平均値よりはるかに長く、13.1カ月および18.9カ月であった。

炎症に関連する遺伝子(IL6、IL8、PTGS2、PLA2G2A)の発現量についても、高発現腫瘍患者と低発現腫瘍患者との間に無増悪生存期間に差が認められた。すなわち、平均無増悪生存期間は、高発現腫瘍患者2.8カ月、低発現腫瘍患者9.9カ月であった。

本試験は、Korea Health Technology R&D Project(韓国医療技術研究開発プロジェクト)(HI12C1440)、韓国のMinistry of Health and Welfare(保健福祉部)の資金提供を受けた。Cho医師は利益相反状態にないことを開示した。

翻訳担当者 永瀬祐子

監修 東 光久(血液癌・腫瘍内科領域担当/天理よろづ相談所病院)

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