OncoLog 2013年11-12月号◆頭頸部癌患者における歯科合併症の管理
MDアンダーソン OncoLog 2013年11-12月号(Volume 58 / Numbers 11-12)
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頭頸部癌患者における歯科合併症の管理
頭頸部癌患者における歯科合併症は、効果的に管理されない場合には重篤となったり、生命を脅かすことさえある。
このような歯科的問題は、放射線療法によって引き起こされることが最も多いが、外科手術や化学療法が原因で歯または歯周組織に問題が生じたり、悪化したりする場合もある。癌治療の前、治療中および治療後に細心の注意を払うことで、こうした合併症を最小限に抑えることができる。
歯科合併症
口渇症(口内乾燥)は、頭頸部癌への放射性療法によくみられる副作用である。「頭頸部癌に対する放射線治療を受けた患者のほとんどが、ある程度の口渇症を発症します。とくに大唾液腺が照射野に含まれる場合には、その可能性が高くなります」とテキサス大学MDアンダーソンがんセンター頭頸部外科部門の教授であり、口腔腫瘍学・顎顔面補綴学課の課長 を務めるMark Chambers歯学博士は言う。残念なことに、口内乾燥は慢性合併症となる可能性がある。一部の化学療法薬によっても、口内乾燥が生じることがある。
口内乾燥は、唾液のpHの低下により、う歯、歯垢の蓄積および歯肉疾患の原因となる。口内乾燥によって、患者は真菌症、特にカンジダ症にかかりやすくなる。
また、放射線療法によって照射部位の血流が減少し、骨への血流の欠乏が重篤な慢性合併症である放射線骨壊死を引き起こすことがある。骨が失活して膿瘍が形成され、その治癒は困難となることが多い。下顎骨または上顎骨の放射線骨壊死患者では、他の歯科的な問題により抜歯が必要となった場合、顎に治癒力がないことから合併症が生じる可能性がある。顎骨折やその結果として生じる歯の損傷も、放射線骨壊死の患者では珍しくない。
放射線骨壊死の研究において、放射線腫瘍学部門のアシスタント・プロフェッサー、Beth Beadle医学博士らは、メディケア(高齢者医療保険制度)のデータベースであるSurveillance Epidemiology and End Resultsのレビューを実施し、1999年から2007年の間に頭頸部癌への放射線治療を受けたメディケア受給者において治療の対象となった副作用を確認した。これら1848人の患者のうち、227人(16%)が何らかの程度の顎合併症を発症したが、このうち重度の合併症はごく少数に過ぎなかった。
どのような種類の癌患者であっても、化学療法による免疫抑制が原因で創傷治癒力が減退することがある。白血球、赤血球および血小板数が低下することで、歯性感染または歯肉感染による粘膜炎が生じる可能性がある。
歯科合併症の予防と管理
Beadle医学博士によれば、放射線腫瘍医は唾液腺やその他の感受性の高い部位の損傷を最小限に抑えるため、治療照射野の計画に細心の注意を払うという。そうであっても、腫瘍が隣接している場合にはそうした感受性が高い部位への照射が避けられないこともあり、歯科合併症は頭頸部照射を受ける患者にとって依然として重大なリスクとなっている。
MDアンダーソンがんセンターでは、歯科合併症の発現頻度および重症度を軽減するため、歯科をすべての頭頸部癌患者に対する治療計画の中核的な要素としている。頭頸部外科部門の准教授で口腔外科医のTheresa Hofstede医師によると、頭頸部癌患者に対しては、癌治療の前、治療中、治療後に、口腔感染症、歯肉疾患、破折歯、救済が不可能な歯や腐敗した歯の有無を確認するという。
既存の歯疾患や歯肉疾患または感染症は、癌治療開始の1~2週間前に治療するのが理想的である。これらの既存疾患は、解消しておかなければより危険性の高い合併症を引き起こす可能性がある。例えば、感染症や疼痛が重篤となり、患者の癌治療の中断が必要となる。また、感染症から敗血症が引き起こされ、免疫不全患者にとって生命を脅かすものとなりうる。
放射線治療の実施中、Hofstede医師やその他の口腔腫瘍学・顎顔面補綴学課のメンバーは、患者の健康上のリスクを増大させる前に歯科的な問題に対処することができるよう、放射線腫瘍学チームと密接な連携を取っている。口内乾燥がみとめられる患者に対しては、う蝕や歯周合併症を避けるため、口内を常に清潔に保つことが奨励される。
手術損傷の修復
腫瘍の外科的な切除を必要とする患者は、顎骨の一部を失うことがある。Hofstede医師は、患者の術後のリハビリテーションを助けるため、上顎栓塞子や下顎骨切除補綴物のような咀嚼、嚥下および発声を回復させる補綴装置を作成することがある。これらの補綴装置はやや義歯に似ているが、顎の欠損部分の補充物を含んでいる。補綴装置は現存歯や骨の周囲に適合させたフックによって適切な位置に保たれる。患者がこの補綴装置をその後生涯にわたり使用する必要があることから、Hofstede医師のチームは、患者ができるだけ通常の生活を送れるよう、患者と継続して連携を取り、何らかの状況の変化があった場合に確実に対処できるようにしている。
骨や組織の移植による新しい修復術を受ける患者の一部には、修復された顎に永久的に取り付ける歯科インプラントが挿入される。Hofstede医師によれば、こうした骨結合インプラントは、「私たち医師がより良いQOLの獲得をめざして患者を順調に回復させる能力を高める」ものであるという。
ケアの継続
手術と同様、頭頸部に対する放射線療法では、患者の癌治療が成功した後も、長期にわたって課題が生じる。Chambers歯学博士が述べたとおり、「一旦放射線を使用すれば、放射線の課題が常につきまとう」。このため、彼は放射線療法を受けた患者に対し、歯科的な問題は直ちに健康や生命を脅かすものとなりうることから、速やかに、また徹底的に対処するよう助言しているという。例えば、一般の人が年1回歯科医を受診するのに対し、現在癌に罹患している患者、または過去に癌であった人のほとんどは、少なくとも年2回受診する必要がある。頭頸部への放射線照射による慢性歯科合併症患者では、更に頻回な受診が必要なこともある。口内を清潔、中性かつ健康に保つことにより、頭頸部癌サバイバーの健康全般およびQOLを改善することができる。
参考文献
Beadle BM, Liao KP, Chambers MS, et al. Evaluating the impact of patient, tumor, and treatment characteristics on the development of jaw complications in patients treated for oral cancers: A SEER Medicare analysis. Head Neck. 2012 Nov 14. [Epub ahead of print]
【画像キャプション訳】
頭頸部癌に対する放射線照射の標的部位を示した治療計画(赤:高線量、青:中線量、黄:低線量)。薄緑色の線は、歯科合併症発現の上で臨床的に意味のある線量、35 Gyを照射する部位を示す。重要な構造物の損傷リスクを軽減するため、脊髄は赤、耳下腺はピンクおよび青緑色でマークされている。
【引用部分訳】
「頭頸部癌に対する放射線治療を受けた患者のほとんどは、ある程度の口渇症を発症します。とくに大唾液腺が照射野に含まれる場合には、その可能性が高くなります」
-Mark Chambers歯学博士
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