HPVワクチン接種により口腔HPV感染が減少

米国臨床腫瘍学会(ASCO)の見解

「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは、これまでに開発されたがん予防法の中で最も重要な予防法の一つとなる可能性があり、すでに世界中の子宮頸がんの負担を軽減しています」と、ASCO次期会長のBruce E. Johnson医師(FASCO)は語った。「HPV関連の口腔がんおよび性器のがんの治療は困難であり、ワクチン接種によってこれらのがんの発生率上昇が抑制されることも期待されています。本研究では、HPVワクチンが口腔HPV感染を予防することが示されていますが、ワクチンを使用しなければ意味がないのです」。

HPVワクチン接種の口腔HPV感染に対する影響を調査した初めての大規模研究の一つにおいて、研究者らはワクチン接種による高い防御効果を明らかにした。これは米国の若年成人を対象とした研究で、ワクチン未接種群に比べて1回以上のワクチン接種群では、高リスク型HPV感染の有病率が88%低下したことが示された。

HPVワクチン接種率は依然として低く、特に男性では顕著であり、これによって米国全体でのワクチンによる利益が制限されていると研究者らは報告している。本研究は、近日中にシカゴで行われる2017ASCO年次総会で発表される予定である。

HPVに起因する口腔がんの罹患率は、米国の特に男性の間で年々増加し続けています。しかし、がんを引き起こす可能性がある口腔HPV感染の予防として有効なHPVワクチン接種の評価をした臨床試験はこれまでのところありません」と、かつてオハイオ州立大学で研究を行い、現在はテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの医学部教授であるMaura L. Gillison医学博士は語った。「ゴールドスタンダード(最も信頼できる基準)となる臨床試験データがないことを受けて、私たちはHPVワクチンが米国若年成人の口腔HPV感染に及ぼす影響を検討しました」と述べた。

研究に関して

著者らは、2009~2016年まで米国で実施された米国国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey: NHANES)の一部評価データに基づいて口腔HPV感染の研究を行った。NHANESは米国国民の健康を評価するために行われた調査である。

本解析では、20112014年の18~33歳の若年成人2,627人を対象として、1回以上のHPVワクチン接種者と未接種者を比較した。本研究の目的として、研究者らは2016年(さらに5種類のHPV株を防御するワクチンが新たに導入された年)以前のHPVワクチンに含まれていた4種類のHPV型(1618611)の有病率を評価した。HPV感染が検出されたのは、NHANESによる支援を受けている移動式の保健所により採取された洗口吐出液サンプルからであった。Gllison博士の研究所で、HPV感染に対する臨床検査が開発され実施された。

重要知見

ワクチン接種率

2011 ~2014年に、26歳になるまでに1回以上HPVワクチンを接種していると報告した米国の若年成人は5人に1人に満たない(18.3%)ことを研究者らは明らかにした。ワクチン接種率は、今回の調査で男性の方が女性よりはるかに低かった(6.9% 29.2%)。

HPV有病率:

ワクチンにより予防ができる口腔内HPV感染の有病率は、ワクチン未接種の若年成人が1.61%であったのに対して、ワクチンを接種した若年成人では0.11%と低かった。これは、ワクチンを接種した若年成人の有病率が88%低下したことに相当する。

一方、ワクチン接種で予防できないHPV33型による口腔感染の有病率は、ワクチン接種群と非接種群とで同程度であった(ワクチン接種群4% ワクチン非接種群4.7%、統計学的有意差はなかった)。

HPVワクチン接種の米国全体への影響

2011~2014年までの期間の有病率の低下は全体で17%、女性では25%、男性では約7%であった。研究者らは、NHANESによってこれまで報告されているように、米国ではワクチン接種率が低いために、ワクチンで予防できる口腔HPV感染の有病率に対するHPVワクチン接種の影響が、一般集団においてはわずかであったと推定している。

「口腔HPV感染に及ぼすワクチンの著しい影響がワクチン接種者に認められたことに、私たちは勇気づけられています。しかしながら、その利益は全体としてはわずかなもので、特に男性においてはワクチン接種率が低いために、私たちの期待を下回るものでした」とGillison博士は述べた。

次の段階

HPVワクチン接種は、現在、女性では子宮頸がん、外陰がん、膣がん、および肛門がん、男性では肛門がんの予防に適応となっていることをGillison博士は強調した。ワクチンが最終的に、口腔HPV感染に関連する口腔がんの発生率上昇を抑制できるかどうかは、これまでのところ不明である。

HPVワクチンは、この数十年間でがん予防における最も重要な進歩の一つです。自分たちの子供にHPVワクチンを接種させることを選択した親は、ワクチンによって口腔がんに関連する口腔HPV感染の予防など、さらなる利益を得る可能性に気づくはずです」とGillison博士は結論づけた。

本研究は、米国国立衛生研究所(NIH)のThe National Institute of Dental and Craniofacial Researchから資金提供を受けた。

翻訳担当者 青山真佐枝

監修 朝井鈴佳(獣医学・免疫学)

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原文掲載日 

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