小児ウィルムス腫瘍患者の一部で治療を減らせる可能性

NCIが資金提供した臨床試験において、進行ウィルムス腫瘍(腎臓がんの一種)小児患者の一部で放射線療法を省ける可能性が示唆される。

小児腫瘍学グループ(COG)が主導した臨床試験において、がんが肺に転移した小児患者のほぼ半数は肺への放射線療法を行わなくても長期生存が損なわれないという知見が示された。臨床試験責任者らの考えでは、この治療法を用いることで、多くの場合放射線療法に伴う命にかかわり得る晩期障害(乳がん、心不全、肺瘢痕等)のリスクを大幅に減らすことができる。

本研究結果は、4月16日付Journal of Clinical Oncology誌に掲載された。

ウィルムス腫瘍は小児腎臓がんのもっとも一般的な種類で、小児がん全体の約5%を占める。米国では毎年約650人がウィルムス腫瘍と診断されている。ウィルムス腫瘍患者の約10%は、がんが腎臓の外に転移しているステージIVと診断されている。転移先としては肺がもっとも多い。

手術と放射線療法と化学療法の併用療法により、1950年代には40%だったウィルムス腫瘍全体の5年生存率が、今日では90%近くまで改善した。

「ウィルムス腫瘍の治療成績がここまで良好で、一部の症例では治療を減らせるというのは、ある意味贅沢なことです」と、NCI入所前にCOG臨床試験の設計と立ち上げに関わったNCIのがん治療評価プログラムの小児固形腫瘍治療学責任者、Nita Seibel医師は述べた。

「生存期間を延長するだけでなく、生活の質も最適化させたい段階にきています」「究極の目標は、対象患者の生活の質を、ウィルムス腫瘍になったことがない人の生活の質と非常に近いものにすることです」とSeibel医師は述べた。

肺転移した患者のために治療をカスタマイズ

本臨床試験を主導したブリティッシュ・コロンビア小児病院の小児腫瘍学David Dix 医師(MB)の説明によると、COG臨床試験が開始された2007年の時点では、ステージIVウィルムス腫瘍の標準治療は化学療法と手術を行った後に肺に放射線療法を行うことだった。

しかし、2011年、化学療法が奏効して肺転移が急速に縮小したウィルムス腫瘍患者はより良い転帰を示す傾向があるというドイツの臨床試験の結果が発表された。最初の化学療法中に肺転移が持続または増悪した患者は、5年以内に死亡するリスクが高かった。

「(COG臨床試験における)我々のアプローチは、優れた転帰を維持しつつ、患者の一部で治療を軽減することでした」とDix医師は述べた。

300人近くが参加した本臨床試験では、標準の化学療法を6週間行った後にCT検査を行い、肺病変が視認できなくなった小児患者についてはその後も標準の化学療法のみの治療を継続した。6週間後も肺病変が視認できた患者については、標準の化学療法を継続しながら、放射線療法と研究者らがレジメンMと呼ぶ2剤を追加する化学療法を受けた。

いずれの患者群も4年生存率は高く、化学療法単独群では96.1%、放射線治療とより集中的な化学療法を併用した群では95.4%であった。4年間の無イベント生存(がん再発、増悪、または死亡の欠如と定義)率は、化学療法単独群で79.5%、併用群で88.5%であった。

化学療法単独群の方が無イベント生存率が低かったことは、治療の晩期障害回避と優れた長期生存率達成の2つのバランスを取ることが困難であることを示している、とSeibel医師は説明する。多くの患者が肺への放射線治療とそれによる晩期障害を避けられたものの、イベントが起きた少数の患者を治療するには、追加の化学療法と放射線療法を実施しなければならなかった。

「残る課題は、放射線治療などの追加治療を必要とする患者とそうでない患者を、診断の時点で判別することです」とSeibel医師は語った。

COGの研究者らは、肺転移を伴うステージIVウィルムス腫瘍患者全員に標準治療(つまり、手術、化学療法、肺への放射線療法)を行ったNWTS-5と呼ばれる先発の臨床試験の結果とCOG臨床試験の結果を比較した。

全体的に、4年生存率はNWTS-5臨床試験は84.0%、COG臨床試験は95.6%であった。 無イベント4年生存率は、NWTS-5は72.5%であり、COG臨床試験は85.4%であった。

この知見は、COG臨床試験で使用された治療戦略が、全生存率と無イベント生存率を大幅に改善することを示唆している。しかし、St. Jude Children’s Research Hospital外科の教授Andrew Davidoff医師(M.D)は、NWTS-5とCOG臨床試験の患者は同じではないと警告した。いずれの臨床試験でも、がんが肺に転移している患者が対象となっていたはずだが、COG臨床試験では、肺の病変が、胸部X線と生検ではなく、CTスキャンのみによって診断されたとDavidoff医師は指摘した。

CTスキャンは胸部X線より多くの病変を検出する。そのなかには、実際にはがんでないものも含まれる。「CTスキャンで見られる肺結節の多くはウィルムス腫瘍ではないことが複数の研究によって示されている」とDavidoff 医師は述べた。

病変部にがん細胞が存在することが確認されていないにもかかわらず、肺病変が消失しなかったという理由でより集中的な治療を受けた患者がいたというのは憂慮すべきことである、とDavidoff医師は述べた。実際、COG臨床試験参加者のごく一部が化学療法を6週間受けた後に肺病変部の生検を受けたが、生検された病変の多くでがん細胞が見つからなかった。

「我々としては肺病変の生検を強くお勧めします」が「生検実施の是非は担当医が決定することで、実施した医師はほとんどいませんでした」とDix医師は述べた。

とはいえ、生検を受けた患者が必ずしも臨床試験参加者全体の代表例というわけではないこともDix医師は指摘する。医師は届きやすい病変部から生検の試料を取得することが多く、小児患者に対しては侵襲的処置を数多く実施することに抵抗を示すのが一般的だったとDix医師は説明する。

Davidoff医師も警告していたが、6週間の化学療法後に肺病変が消失した小児患者の無イベント生存率は、NWTS-5よりもCOG臨床試験の方が低かった(79.5% vs 85%)ことも指摘に値する。この差は統計的に有意といえるほどであった。

それでも、全生存率が高かったため、再発率の上昇は許容できる代償かもしれないとDavidoff医師はいう。「それに、複数の患者が、放射線療法に関連する合併症にかからずに済んでいる」とDavidoff医師は語った。

生存率と生活の質の両方を最適化する

レジメンMを使ったより集中的な治療には潜在的なリスクが伴う、とSeibel医師はいう。これまでの研究において、追加される薬剤の1つであるシクロホスファミドが、とりわけ放射線療法と組み合わせて使用される場合、不妊症、肺瘢痕および他のがんのリスクを増加させることが示唆されている。追加される薬剤のもう一方であるエトポシドは、治療が困難な種類の白血病の発症リスクを増加させるようである。

一部の患者が過剰治療されたのではないかという懸念にはSeibel医師も同意

「治療を減らすことができる患者群がいることは良いことだが、より集中的な治療を必要とする患者群がどういう患者なのか、もっと明確に定義する必要がある」とSeibel医師は語った。

臨床試験中に行われた数少ない肺生検の多くが良性であることが判明し、一部の患者に過剰治療がされた可能性が示唆されたため、COG研究者らは、治療開始時に患者の肺生検を実施することを強く推奨している。医師が小児患者に必要以上の処置を行いたくないというのは当然だが、いまや最低限の浸襲で肺生検が行える場合が多いとSeibel医師はいう。

総括として、Dix医師は次のように述べている。「これらの結果は本当に励みになります。この治療法は当然精度を上げていかなくてはいけませんが、多くのことを教えてくれました」。今回の臨床試験では、治療戦略をカスタマイズするのに6週間の化学療法への奏効を基準としたが「間違いなく、将来は、遺伝子マーカーを活用して患者を分けることになっていくだろう」。

翻訳担当者 関口百合

監修 田中謙太郎(呼吸器内科、腫瘍内科、免疫/九州大学病院 呼吸器科)

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