小児にて化学療法の既往が、効力あるCAR-T細胞の作製を阻害

小児固形がん患者にはCAR-T細胞製造プロセスの変更が有益である可能性

米国がん学会(AACR)

小児固形がん患者のT 細胞の質は、白血病患者のものに比べ悪い可能性があり、特定の化学療法はT細胞自体およびT細胞がCAR-T細胞となる能力に有害な影響を及ぼすことがイリノイ州、シカゴで4月14~18日に開催された2018年度米国がん学会(AACR)の年次総会のメディア・プレビュー中に発表されたデータにより判明した。

「CD19標的キメラ抗原受容体T細胞治療(CART)であるtisagenlecleucel[チサゲンレクロイセル](商品名:Kymriah[キムリア])のFDA承認は小児がん治療にとって画期的なことでした。この治療法では、T細胞と呼ばれる患者自身の免疫細胞を取り出し、研究室でこれを改変して目覚めさせ、患者の白血病を認識させます」と、フィラデルフィア小児病院小児科助教で医学博士であるDavid M. Barrett医師は述べた。

「数名の白血病患者の治療を試みたところ、最初にT細胞を採取した際にT細胞が疲弊しているように見えました。これらのT細胞は、その結果としてCAR-T細胞に変換する実験過程を生き抜くことができないか、あるいは患者の体内で作用するためのエネルギーが十分残っていないことにも気づきました」と、Barret医師は付け加えた。

T細胞をCAR-T細胞に改変するには、患者由来のT細胞が実験室で生き抜くことができるほど健康でなければならず、そして患者の体内に戻った時にがんを死滅させるための十分なエネルギーを持っていなければならない、とBarret医師は説明した。「このことは非常に重要です。なぜならば、こういった小児患者にはがんを治癒できる可能性がある治療法がCAR-T細胞改変以外にないからです。そして、かれらのT細胞の質が非常に悪いためにCAR-T細胞改変を試すことすらできなかった患者もいたのです」。

Barret医師らのチームは、一部の小児患者でT細胞の品質が悪い理由について理解したいと考えた。「すでに製造されたCAR-T細胞について、優れたCAR-T細胞はどういったものなのかというこれまでも行われてきた研究を繰り返すよりは、CAR-T細胞を作製するにはどういったものが良い材料になるのかを研究することに興味がありました」。

Barret医師らのチームは、燃料源としてグルタミンおよび脂肪酸代謝経路を用いるT細胞が理想的なCAR-T細胞となる可能性があり、一方、もうひとつの燃料源である糖分解に依存するT細胞はCAR-T細胞製造プロセスには向いてないことを見出した。

Barret医師らのチームは、小児患者157人から末梢血サンプルを採取した。対象となった小児患者らは、診断時および各化学療法終了時点で急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、神経芽細胞腫、骨肉腫横紋筋肉腫、ウィルムス腫瘍、あるいはユーイング肉腫を有していた。

研究チームは、化学療法を受ける前のサンプルではALLおよびウィルムス腫瘍以外の全腫瘍型においてT細胞がCAR-T細胞となる能力が極めて低いことを見出した。また、全てのがん種において、化学治療の回数が重なると、累積的にCAR-T細胞の能力が低下することを認めた。CAR-T細胞となる能力の低いT細胞は、燃料源として脂肪酸よりも糖分解の利用に偏向していた。

また、特定の化学療法は、特に、T細胞の「予備呼吸能(SRC)」に有害な影響を及ぼすことを認めた。「SRCは細胞のエネルギー備蓄量の指標であり、ミトコンドリア数および健康度に基づいています」、とBarret医師は述べた。ミトコンドリアは細胞のエネルギー発生装置である。エネルギー備蓄量が少ないということは、患者のがんを死滅させる前にT細胞が死滅すること、あるいはT細胞が全く作用しないことを意味します、とBarret医師は述べた。

「CAR-T細胞を白血病に作用させることはできましたが、まだ固形腫瘍においては十分な成功を収めていません。これには多くの理由が考えられます。ですが、本データから、材料としてのT細胞の質が悪いことが第一の重要な問題である可能性を示唆しています」、とBarret医師は述べた。

「固形腫瘍患者由来のT細胞からCAR-T細胞を製造するには白血病の製造プロセスと異なるプロセスを用いる必要があるかもしれません」、と同医師は述べた。

研究チームは予備実験を行い、T細胞に脂肪酸を強制的に使用させることが可能であることを実証した。脂肪酸は、化学療法を受けたT細胞においてSRCを回復させる目的で、より望ましい燃料源である。「これらの早期結果から、CAR-T細胞製造中にこれを利用して高活性のCAR-T細胞を製造できるのではという希望が得られました。こういった高活性の細胞は標準的な製造法では作れません」、と同医師は述べた。

本研究の弱点は、小児固形腫瘍患者由来のCAR-T細胞を作製したわけではなく、CAR-T細胞の能力と相関を示す小規模な代替手順を用いたことである。「まだ、完全な代謝解析によりこの代謝経路の妥当性を実証していませんが、現在、実証作業が行われています」と、同医師は述べた。

本研究はAACR-Stand Up To Cancer (SU2C) Innovative Research Grant、the Doris Duke Charitable Foundation CSDA、 the Jeffrey Pride Foundation Research Award、and the St. Baldrick’s Foundation Scholar Awardの助成を受けた。Barret医師は利益相反がないことを宣言している。

翻訳担当者 三浦恵子

監修 吉原哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)

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