小児がんにクリゾチニブが有効な可能性

ALK遺伝子変異を有する小児がんに分子標的薬クリゾチニブ(ザーコリ)が有効である可能性が、臨床試験の最新結果で明らかとなった。

臨床試験に参加した小児がん患者のほとんどで腫瘍が縮小し、そのうちの数例では腫瘍への奏効が2年以上継続したことが8月8日付のJournal of Clinical Oncology誌で発表された。

本試験では、中悪性度非ホジキンリンパ腫の未分化大細胞リンパ腫(ALCL)と、まれな軟部組織肉腫である炎症性筋線維芽細胞腫(IMT)という再発および難治性がんの小児26人を登録した。

「クリゾチニブは、ALK変異を有する患者にはとても効果的な薬剤です。」と、臨床試験を主導したフィラデルフィア小児病院のYael P.Mosse医師は言う。「この薬剤は非常に活性が高く、奏効は持続的かつ有意義なものです。」

NCIが助成する小児腫瘍学グループ(COG)の第I相コンソーシアムでは、クリゾチニブの製造販売元であるファイザーと連携してADVL0912試験を実施し、初期結果を2013年に発表した。

NCIがん治療評価プログラムのMalcolm Smith医学博士は「これは小児を対象とした個別化医療の重要な臨床試験である」と述べた。また「この臨床試験では、クリゾチニブのような効果的な標的薬が遺伝子変異を持つ患者に適合した場合、高い奏効率が得られることを示した」とも述べた。

遺伝子融合が腫瘍増殖を助長

クリゾチニブは、ALKシグナル伝達経路を通して伝達する増殖促進メッセージを阻害する。この薬剤は、ALK遺伝子やROS1遺伝子にある種の変異のある腫瘍を有する非小細胞肺がん患者に対して承認されている。

ALK遺伝子の一部が切断して他の遺伝子の一部と融合するタイプの遺伝子変異がある。こういった遺伝子融合は異常なタンパク質を生成し、このタンパク質が、制御不可能な細胞増殖を促進することで腫瘍が発現する。

未分化大細胞型リンパ腫は小児リンパ腫の15%に及び、その大半がALK遺伝子融合を有している。ALK遺伝子の異常は、炎症性筋線維細胞性腫瘍の約半数に生じている。

この臨床試験では、再発または難治性小児がん患者を対象とした初期臨床試験での結果を、奏効率、奏効の種類、奏効期間のいずれでも上回った、と著者らは述べた。この結果をもたらした理由の一つは「ALKシグナルがこの2つの小児がんの細胞増殖の最も主要な因子であること」と考えられる、と研究者らは示唆した。

Mossé医師は「ALKはこれらの腫瘍の増殖を促し、腫瘍はALKシグナル伝達に完全に『依存』している」とする一方、肺がんおよびその他の腫瘍においては、ALKシグナル伝達は細胞増殖に寄与する複数の要因の1つに過ぎないとも述べた。

クリゾチニブに対する強力な腫瘍縮小効果

その試験では、リンパ腫患者を対象に、2種類の異なった用量でクリゾチニブを評価した。全奏効率は、低用量を投与した患者では83%、高用量を投与した患者では90%であった。

炎症性筋線維芽細胞性腫瘍の患者を対象にさまざまな用量が検討されたが、その奏効率は86%であった。

また完全奏効率は、低用量を投与したリンパ腫患者では83%、高用量を投与したリンパ腫患者では80%、炎症性筋線維芽細胞性腫瘍患者では36%であった。

部分奏効率は、リンパ腫患者の低用量群で0%、高用量群で10%、炎症性筋線維種患者では50%であった。

Mossé医師は、低用量群と高用量群のリンパ腫患者のいずれにも、客観的かつ持続的な奏効が見られたことを指摘し、「奏効の発現および持続性に用量依存性はみられなかった」と述べた。

治療に関連してもっとも多くみられた副作用は、好中球と呼ばれる免疫細胞の減少であった。治療に当たった医師の判断により、12人のリンパ腫患者が治療を中止して骨髄移植を受けた。

未分化大細胞リンパ腫の標的に的中

現在、ALCL専門医らの間では、小児患者の全般管理にクリゾチニブをどのような形で取り入れるかについての検討がなされているとSmith医師は言う。

全米小児腫瘍学グループが現在実施しているANHL12P1試験では、現在の標準化学治療レジメンに、クリゾチニブと、もうひとつの標的薬であるブレンツキシマブ(アドセトリス)とを組み合わせることで転帰の改善が見られるかどうかを検証している。

ADVAL試験では、第1相試験と第2相試験の要素を組み合わせて実施された。小児に安全に使用できる用量を確認した上で、効果が望めるALK遺伝子変異を有する患者を対象にクリゾチニブの腫瘍縮小能を評価した。

1相および2相試験の要素を組み込んだ試験を実施することで、「小児がん患者の新規薬剤をより効率的で迅速に検討することが可能」と、 Smith医師は述べた。

またMossé医師は「この試験は、対象とする標的薬で治療効果を得られる可能性が最も高い患者を選択するため、正確なバイオマーカーを確立することの重要性を示した」と述べた。

そして、「今、小児患者を対象とした試験では、標的や薬剤に関してこれまでよりもはるかに多くのことが明らかになってきており、まさにエキサイティングな時代です。腫瘍の中に重要な分子的脆弱性を特定し、これを標的とする適切な薬剤があれば、患者に大きな治療効果をもたらすことができます」と、話した。

翻訳担当者 医療翻訳講座ステップアップコース

監修 喜安純一(血液内科・血液病理/飯塚病院 血液内科)

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