HPVワクチン接種率は小児がんサバイバーにおいて特に低い

医療専門家の推奨がワクチン接種への理解を深める重要な要因との調査結果

ASCOの見解

Merry-Jennifer Markham医師(米国内科学会フェロー/ASCOがんサバイバーシップ専門委員)

「近年、若年がんサバイバーは治療後に長期間生存できるようになった一方、その健康への影響は大きい。今、HPVワクチンは簡単に接種でき、がんを予防できるが、大半のサバイバーがこれを十分に活用できていないことが問題視されている。若年サバイバーにとって、腫瘍内科医やプライマリケア医は頼れる存在であるが、HPVワクチンに対する壁は確実に存在している。この研究では、ワクチンについて話し合うことが少なからず壁を取り払うことにつながると提案している。」

米国のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種率は上昇しているものの、まだ目標とする割合には達していない。最新の研究では、HPVワクチンの接種率は、がんに罹患したことのない人が40%であるのに比べて、小児がんサバイバーでは24%と著しく低いということを明らかにした。4分の3近くの対象者は、医療専門家がワクチン接種を積極的には勧めなかったと回答した。

これは、小児がんサバイバーのHPVワクチン接種率に関しての最初でかつ最も包括的な研究として、Journal of Clinical Oncology誌電子版に本日付で掲載された。

本研究著者を務めたSt. Jude Children’s Research Hospital(テネシー州メンフィス)の準会員で、ABPP(米国専門心理士認定機関)認定心理士のJames Klosky博士は、「今回の研究から、がん予防に有効で手軽な方法があるにもかかわらず、小児がんサバイバーがこれを十分に活用していないことがわかります。小児がんサバイバーは、同世代の非小児がん経験者よりも、このワクチンを接種することで大きな効果が得られます。だからこそ、私たち臨床医は、HPVワクチンについてもっと患者に知ってもらわなければならないのです」。

HPVは、ほとんどの子宮頸がんおよび多くの口腔、肛門、膣、外陰および陰茎のがんを引き起こす。米国では、推定で毎年690万人の青少年がHPVに感染している。がん治療は多くの場合で免疫防御を抑制するため、小児がんサバイバーは特にHPV感染の影響を受けやすい。米国臨床腫瘍学会(ASCO)をはじめとする主要学会は、がん予防のためには、9歳から26歳の男女双方にHPVワクチンを接種することを推奨している。

研究について

研究者らは、9〜26歳の小児がんサバイバーで1〜5年前に治療を完了した982人を対象に調査を行った。参加者の大半(59%)は白血病またはリンパ腫のサバイバーであった。

この調査では、対象サバイバーがHPVワクチンを受けたかどうか、医療関係者がワクチンを推奨したかどうか、ワクチン接種に対する意見について質問した。研究チームは、彼らのワクチン接種率を、一般集団データとしての「十代を対象とした全米予防接種調査」と「国民健康面接調査」のワクチン接種率と比較した。

主な結果について

小児がんサバイバーのHPVワクチン接種率は、一般集団と比べて著しく低かった(24%対40%)。 この結果は男女共に当てはまるものであったが、男性では女性よりもさらに接種率が低くなった。

サバイバーと一般集団のワクチン接種率の差は、13~17歳で最も大きかったが(22%対42%)、18~26歳では接種率は両群いずれも低かった(25%対24%)。

医師の推奨が欠けていたことが予防接種の最も大きな障害となっていた。医師がHPVワクチンを推奨しなかったと回答したのは参加者の72%に昇り、このうちワクチン接種を受けたと報告したのはわずか5%であった。一方、接種を推奨された28%のうち、半数以上がワクチン接種を受けた。

その他では、小児がんサバイバーがワクチンは保険適用されないと考えていたことも、ワクチン接種に対する障壁として挙げられた。

「ワクチンについては諸説あるが、こうした説の多くには根拠がなく、多くの文献によって否定されている」とKlosky博士は言う。「小児がんサバイバー本人、またはその両親がHPVワクチン接種に対して懸念がある場合は、信頼できる医療従事者に相談するべきです」と語った。

今後の取り組みについて

Klosky博士は、「サバイバーにとって医師からの奨めがあるかないかは、一般の人以上に大きな影響を及ぼします。我々は今回の結果を基に、医療従事者を対象とした介入法の開発を計画しています。治療の継続とワクチン接種計画を立てるうえで、がんサバイバーとプライマリケアチームとのコミュニケーションはなくてはならないものです」と述べた。

本研究は米国国立がん研究所(NCI)、MSD社の研究者主導研究プログラムおよびAmerican Lebanese Syrian Associated Charities(ALSAC)による資金提供を受けた。

翻訳担当者 JAMTステップアップ!チーム

監修 辻村信一(獣医学・農学博士、メディカルライター/メディア総合研究所)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

小児がんに関連する記事

貧困層をターゲットにした小児がん治療改善プログラムの画像

貧困層をターゲットにした小児がん治療改善プログラム

ダナファーバーがん研究所の研究者らが開発した小児RISE(公平性を支援するための資源介入)と呼ばれるプログラムのパイロット試験では、がん治療を受けている子供を持つ貧困家庭を対象にその実...
がん患児が必要な支持療法を受けられるよう支援の画像

がん患児が必要な支持療法を受けられるよう支援

がん治療中の若年患者に症状について定期的に尋ねるという単純な行為によって、患者らがより良い支持療法を受けられ、つらい副作用が軽減されるようになることが、2件の新たな臨床試験結果からわか...
FDAが再発/難治性のBRAF変異陽性小児低悪性度神経膠腫にトボラフェニブを迅速承認の画像

FDAが再発/難治性のBRAF変異陽性小児低悪性度神経膠腫にトボラフェニブを迅速承認

米国食品医薬品局(FDA)2024年4月23日、米国食品医薬品局(FDA)は、BRAF融合遺伝子または遺伝子再構成、あるいはBRAF V600変異を有する生後6カ月以上の再発または難治...
小児がんサバイバーでは、遺伝的要因が二次がんリスクに影響の画像

小児がんサバイバーでは、遺伝的要因が二次がんリスクに影響

米国国立がん研究所(NCI)ニュースリリース高頻度でみられる遺伝的要因は、一般集団においてがんリスクを予測できるが、小児がんサバイバーにおける二次がんのリスク上昇も予測できる可能性があ...