小児がんサバイバーの重篤な健康問題の発生率が着実に低下

ASCOの見解

「この数十年で、小児がんほど治療が劇的に進展した腫瘍学分野はほかにないでしょう。
治療やケアの進歩に伴い、小児がん患者は生存期間が延長したのみならず、がん治療の長期的な副作用の減少による恩恵を受けています。今回の研究結果は、がんサバイバー研究への資金提供とその実施の重要性を示しています」と米国臨床腫瘍学会(ASCO)専門委員であるTimothy D. Gilligan医師(理学修士)は述べた。

小児がんの治療はしばしば非常に強力なため、サバイバーの生涯にわたる健康問題のリスクを伴う。米国国立衛生研究所(NIH)の資金提供を受けたChildhood Cancer Survivor Study(小児がんサバイバー研究:CCSS)での小児がんサバイバー23,600人の分析によると、診断後5年以上での重篤な健康問題の発生率は徐々に低下していることが分かった。

この研究は、本日 の記者会見で紹介され、2017年度ASCO年次総会で発表される。

診断後15年以内に重篤な健康問題が生じる確率は1990年代に診断を受けたサバイバーでは8.8%であるが、1980年代診断サバイバーでは10.1%、1970年代診断サバイバーでは12.7%であった。サバイバーのうち30年間で最も大幅な低下がみられたのは、ウィルムス腫瘍(43%)およびホジキンリンパ腫(25%)の患者であった。治療や支持療法の進歩により小児がん診断後の5年生存率は、1970年代の58%から現在では84%に改善している。CCSSによる以前の報告では、30年間での治療の変化で小児がんサバイバーが治療の遅発効果で死亡する可能性が6.4%低下したことを示している[1]。

「私たちの分析は、がんサバイバーの大規模集団における慢性合併症の罹患率の経時変化について初めて包括的評価を示すものです」と、筆頭著者でありテネシー州の聖ジュード小児研究病院で助手を務めるTodd M. Gibson医学博士は述べた。「研究の結果から、治療がより進んだ時代に診断および治療を受けたサバイバーがより良くなっているのは明らかです。治癒している小児の数が増えているだけではなく、以降の人生でがん治療による重篤な健康問題に進行するリスクも低下しています」。

研究について

研究者らが分析したCCSSのデータとして、1970~1999年の間に診断を受け、診断後5年以上生存した小児がんサバイバーの長期的な健康予後を調査する定期調査を用いている。

この分析は、小児がんの診断を受けてから15年以内の重篤な、日常生活に支障をきたす、生命を脅かす、または致命的な健康問題の発生率に焦点をあてている。患者年齢の中央値は28歳であり、診断後の経過年数中央値は21年であった。研究者らは、調査(自己申告データ)、および、サバイバーが治療の遅発効果により死亡した事例についてはNational Death Index(国民死亡記録)から、サバイバーの健康問題に関する情報を収集した。

主な知見

重篤な健康問題の15年累積罹患率は1970年代に診断を受けた小児サバイバーで12.7%であったが、1980年代診断サバイバーでは10.1%、1990年代診断サバイバーでは8.8%となった。

がんの種類別では、30年で診断後15年以内での重篤な健康問題の発生率は以下のとおり低下した。

・ウィルムス腫瘍(希少な腎がん)のサバイバーでは13%から5%に低下した。

・ホジキンリンパ腫のサバイバーでは18%から11%に低下した。

・星細胞腫(2番目に多い小児がん)のサバイバーでは15%から9%に低下した。

・非ホジキンリンパ腫のサバイバーでは10%から6%に低下した。

・急性リンパ 性白血病(最も多い小児がん)のサバイバーでは9%から7%に低下した。

しかしながら、神経芽腫、急性骨髄性白血病(AML)、軟部組織肉腫、骨肉腫など他の種類の小児がんサバイバーでは、重篤な健康問題の減少は認められなかった。

罹患率で最も低下したのは内分泌障害(1970年代の4%対1990年代の1.6%)、新たながん(1970年代の2.4%対1990年代の1.6%)であり、その後に消化管障害および神経学的障害が続く。心臓障害および肺障害の罹患率には、変化がなかった。

「ここ数十年でサバイバーの心血管系疾患による死亡が減少したことが分かっていたため、重症の心血管系疾患の罹患率が低下しなかったことには少し驚きました。このことにより、サバイバーは一般集団と比較して重篤な健康問題のリスクが依然として高く、入念な経過観察が求められることに気づかされます」と、Gibson医師は述べた。

次の段階

研究者らは、この分析で判明した幅広いカテゴリーを超えて、特定の健康問題をより深く掘り下げて調査することを計画している。研究者らはさらに、診断後15年以上のサバイバーを追跡調査し、治療の晩期効果が加齢とどのように関連するかを調査する方針である。

本研究は、米国国立衛生研究所(NIH)から資金提供を受けた。

全要約はこちら

[1] Armstrong GT, et al. Reduction in Late Mortality among 5-Year Survivors of Childhood Cancer. N Engl J Med 374:833-842, 2016

翻訳担当者 太田奈津美

監修 辻村信一(獣医学・農学博士、メディカルライター/メディア総合研究所) 

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