2011/07/26号◆思春期小児および若年成人(AYA)癌特別号・特集「多くの若年癌サバイバーに、晩期合併症が長期的な問題を残す」
同号原文|
NCI Cancer Bulletin2011年7月26日号(Volume 8 / Number 15)
~日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~
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◇◆◇ 思春期小児および若年成人(AYA)癌特別号・特集 ◇◆◇
多くの若年癌サバイバーに、晩期合併症が長期的な問題を残す
「昨年の夏、数年に及ぶ化学療法中に投与を受けていたプレドニゾンが原因で、両側股関節の無血管性骨壊死と診断されました。秋には左股関節の除圧術(core decompression)を受けましたが、それでも慢性的な骨痛は治りませんでした。私の年齢(21歳)を考慮して整形外科の主治医は人工股関節置換術を行うことを望んでおらず、そのため何も解決法が無いまま痛みから逃れられない状態です」。
-『stupidcancer.comフォーラム』への投稿メッセージより」。
白内障、聴力損失、慢性疼痛、切断、下垂体機能低下症、骨壊死などの合併症は、癌サバイバーに認められる、癌自体およびその治療による数多くの晩期合併症のごく一部にすぎない。思春期小児および若年成人(AYA)の癌サバイバーにとって、これらの疾患は生涯にわたる身体障害になり得る。AYA癌サバイバーは小児癌サバイバーと同様に、心的外傷後ストレス障害および抑うつなどの精神医学的な問題だけではなく、二次発癌や心臓疾患のような生命を脅かす疾患を発症するリスクも高い。
残念ながらAYA癌サバイバーの多くは、自分自身が晩期合併症のリスクが高いことについて気付いていないか、あるいは過小評価する場合が多いことが研究によって示されている。それは、このようなサバイバーが癌治療中や経過観察期間といった制約から解き放たれた後に診察を受ける医師や医療関係者の多くにしても同じである。
いくつかの理由からAYA癌サバイバーに関する研究は停滞している。毎年約7万人のAYAが癌と診断されており、データ不足は深刻な影響をもたらす。「大幅な知識のギャップがこの高リスク集団の治療を妨げています」と、スローンケタリング記念がんセンターのDr.KevinOeffinger氏およびDr.EmilyTonorezos氏はCancer誌にて最近記している。
その一方、前向きな変化が進行中である。
例えば、以前より多くの小児病院やがんセンターが、治療による長期的な晩期合併症に対処できるよう支援するための部署を設置するようになった。また小児腫瘍グループ(COG:Children’sOncologyGroup)は、小児癌およびAYA癌サバイバーにおける頻度の高い晩期合併症のモニタリングおよび治療のための臨床ガイドラインなどの数々の資料を整備している。様々なアドボカシーや支援団体、とりわけPlanetCancer(プラネット・キャンサー)やI’mTooYoungforThis!CancerFoundation(‘がんには若すぎる!’癌財団)などは、AYAの患者やサバイバーを支援するプログラムを設けている。
また、AYA癌サバイバーに働きかけて、自分自身の健康状態をモニタリングするために必要なステップを踏むようサポートし、晩期合併症のリスクを悪化させていないか確認するさまざまな方法を検証するための研究も始められつつある。
「介入研究への移行こそ、われわれが実施すべき重要な部分なのです。これまでいくつかの課題を提示してきました。今こそ、それらの課題に介入する方法を検証する必要があるのです」と、聖ジュード小児研究病院のDr.GregArmstrong氏は述べた。
治療によって生命は救われ、また人生も変わる
小児癌サバイバー研究(CCSS:ChildhoodCancerSurvivorStudy)を含め、数多くの研究にはAYA参加者が含まれており、「小児癌のみではなく思春期小児および若年成人(AYA)癌の成人サバイバーであることが、実際にどのようであるかを示すことで、長期サバイバーシップというブラックボックスの蓋を開けることができました」とArmstrong氏は語った。
つい先月、Armstrong氏の主導するCCSSの研究により、小児期あるいは青年期に治療を受けたサバイバーは二次癌だけではなく三次癌さらに四次癌のリスクが高まることが示された。さらにこの集団におけるメラノーマ以外の皮膚癌の発症を新たな癌の重要なリスク因子として同定した。
このような結果や研究は正しい方向への一歩と言える。しかしさらに必要とされていることはAYA患者における晩期合併症のより高度な知識であると、UCLAジョンソン総合がんセンターの「患者およびサバイバー・プログラム(癌治療後の経過観察プログラム)」の副所長で小児腫瘍医のDr.JackieCasillas氏は強調した。
「生物学的レベルでこれらの晩期合併症を引き起こしているものが何であるのかを理解する必要があります」とCasillas氏は述べた。治療によって晩期合併症が引き起こされる生物学的機序をさらに理解することにより、それらのリスクを軽減しうる「薬理学的および行動学的な介入を含めて、可能な介入を識別するのに役立ちます」とCasillas氏は述べた。
AYA癌サバイバーにおける晩期合併症の予防、あるいはその影響の最小化を支援することを目標とする研究が開始されつつある。例えば聖ジュード病院では、小児癌およびAYA癌サバイバーの喫煙者に対し電話による禁煙相談(Quitline)の利用を奨励するための研究が進行中である。
またカリフォルニア州デュアルテにあるシティ・オブ・ホープ総合がんセンターでは、Dr.MelaniePalomares氏らにより、低用量のタモキシフェンによる治療が小児およびAYAホジキンリンパ腫の女性サバイバーにおける乳癌のリスクを低下させるかを検証するための臨床試験が開始された。
シティ・オブ・ホープの癌サバイバーシップ・センターの所長でCOG副委員長を務めるDr.SmitaBhatia氏によると、これらの女性は胴部に受けた放射線治療による乳癌のリスクが高いという。
自覚とモニタリングが重要な意味を持つ
18歳でバーキットリンパ腫と診断されたJoeSchneiderさんは、米国国立衛生研究所(NIH)臨床センターで臨床試験の一環として実施された治療を受けた。短期間ではあったが苦しい経験をした高用量の化学療法について思い出す。化学療法による嘔吐や倦怠感、その他の副作用は予想以上に深刻なものであった。「癌が再発したとしても、二度と治療を受けるつもりはありません」と現在35歳になったSchneiderさんは当時を振り返る。
小さい局在性の再発に対する手術および3年間のモニタリングを経て、彼の「癌システム」とでも呼ぶべき期間は終了した。
「『これからは自力で頑張ってください』と言われたようなものでした。それ自体が何を意味するのか実際には分かりませんでした」と彼は語った。
10年以上前のSchneiderさんの経験は今日においても珍しいものではないと、Casillas氏は認めている。「AYA癌サバイバーの多くは、治療後サバイバーシップとしてのケアへ移行する際、リスクに基づいた長期間のフォローアップを受けません」と同氏は述べた。
例えば使用する化学療法レジメンの種類によって、高血圧やうっ血性心不全のような心血管疾患に対し、多くのAYAは定期的にモニタリングを受けるべきであるとCasillas氏は説明した。
晩期合併症に対するモニタリングおよび調査への取り組みは、サバイバーが受けた治療の種類によって調整されるべきであるとBhatia氏は強調した。「大多数の晩期合併症は、特定の化学療法剤および放射線照射と実に明確な関連性があります」と同氏は続けた。例として、女性のホジキンリンパ腫サバイバーにおける乳癌リスクなどが挙げられる。
癌のアドボカシーとして活躍するSchneiderさんは、他のサバイバーとの交流によってさまざまに学んだ結果、自分自身の健康状態についてもっと慎重にモニタリングを行う必要があることを自覚した。彼はノースウエスタン大学のルーリー総合がんセンターのSTARと称する小児癌サバイバーおよび一部のAYA癌サバイバーのための長期治療プログラムに登録した。
SchneiderさんはSTARに登録して初めて、彼の癌治療の一部であった化学療法剤メトトレキサートの高用量使用には、長期間にわたる骨への有害な影響がありうることに気づいたと述べた。
今年10周年を迎えたSTARプログラムでは、特に小児癌の成人サバイバーに対して総合的な長期治療を提供している。STARは21歳までに癌と診断されたサバイバーのみの受け入れを行っているとプログラムの臨床専門看護師のKarenKinahan氏は説明した。
STAR参加者の約3分の2はシカゴのこども記念病院にて治療を受けており、当病院ではSTARプログラムの小児用バージョンを提供していると同氏は述べた。Kinahan氏は、ノースウエスタン大学プログラムの医長を務める一般内科医のDr.AaratiDidwania氏および成人プログラムの臨床心理学者であるDr.LynneWagner氏と密接に連携している。
STARに登録したサバイバーは、少なくても年に一度診察を受け、治療が行われるか、もしくはCOG臨床ガイドラインに従って適格な専門家へ紹介されるとKinahan氏は述べた。プログラムには、サバイバーとその家族向けの晩期合併症や長期治療の問題に関する教育的な内容だけではなく、生活の質(QOL)や治療効果などの転帰を評価するための研究内容も含まれている。
「これまで自分自身で健康問題に対処してきた比較的年齢層の高いサバイバーの多くがわれわれのプログラムの存在を知り、大変喜んでくださいます。多くの人が『このようなものをずっと探していました』と言ってくださるでしょう」とKinahan氏は主張した。
過去から学ぶ
小児や思春期小児のサバイバーの長期的な治療およびQOLを改善するもう一つの構想として、Passport for Care(PFC)プログラムがある。テキサス小児がんセンターおよびベイラー医科大学が指揮を執るPFCは、小児または思春期小児のサバイバーの癌治療歴に関する詳細な概要を提供する、インターネットを利用したツールである。この情報は、個々の健康状態をCOGガイドラインに基づいてモニタリングし管理するための個別化された指針作成のアルゴリズムへと接続される。
「そのツールはサバイバーが知っておくべきあらゆる情報や、これからの人生を通して治療により何を導くべきなのかを提供しています」と、テキサス小児がんセンター総長で、同センターに所属するDr.MarcHorowitz氏と共同でPFCプログラムを開発したDr.DavidPoplack氏は説明した。「最も重要なことは、そのツールにより情報を主治医と共有する機会があたえられたことです。事実上、医師はだれでも癌サバイバーシップ(治療後経過観察)のエキスパートとなり得るのです」。
全国的な展開は既に始まっておりPFCを現在導入している医療施設は20カ所を超える。このツールは全てのCOG施設でも利用可能であり、来年までにはほとんどのCOG施設で実際に使用されるだろうと予想しているとPoplack氏は述べた。適合したフォローアップのガイドラインや情報を含む「サバイバー・ポータル」および数々のソーシャル・メディア・ツールはほぼ完成している。
PFCは21歳までに小児癌および思春期小児癌と診断されたAYAサバイバーのニーズに対応している。AYA集団のうち、年齢層の高い若年成人に影響を与える癌のサバイバーを対象とした臨床ガイドラインが発展するにつれて、それらがPFCへ導入される可能性もあることをPoplack氏は述べた。
AYA癌患者に対する妊孕(にんよう)能についての懸念の呼び掛け ある種類の化学療法や放射線治療などの癌治療は、男女どちらのAYA癌患者にとっても妊孕能(生殖機能)に脅威を与える可能性がある。ほとんどの若年者は治療の結果不妊となることはないが、妊孕能への潜在的な影響は、心理的に強い衝撃を与える。特にその影響について認識しておらず、注意を向けていなかった場合には尚のことである。 実際にScience TaskForce of the LIVESTRONG Young Adult Alliance(リブストロング若年成人連盟科学部会)は、AYA癌患者における将来的な妊孕能についての問題点を、この集団に向けた最優先の研究問題として特定した。 特にこの部会では「癌治療による生殖機能へのリスクおよび妊孕能温存の機会に関して、医療従事者(特に腫瘍内科医)と患者との間で行われるコミュニケーションの有無」に焦点を当てていると、同部会の一員でありミシガン大学所属のDr.BradZebrack氏は述べた。AYA患者が十分な情報を得た上で決断できるように、このような内容の会話は早期に行われるべきであるが、医師がそれを率先して行うことは少ない。 臨床において研究者らは、癌治療を受けている患者の妊孕能温存のための戦略を評価している。7月20日付のJAMA誌に発表されたランダム化臨床試験の結果によると、閉経前早期乳癌女性のうち、化学療法中に合成性腺刺激ホルモン放出ホルモン製剤のトリプトレリンの投与を行った患者群は、投与を行わなかった患者群と比較して化学療法誘発性の早期閉経率が低いことが示された。 化学療法終了後12カ月の時点での早期閉経率は、化学療法単独群133人中では25.9%であったのに対し、化学療法とトリプトレリン併用群148人中では8.9%であった。 癌治療中の患者に対する受精能リスクおよび妊孕能温存についての詳しい情報は、『Preserving Fertility While Battling Cancer(癌と戦いながらの妊孕能温存)』を参照のこと。 |
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栃木 和美 訳
北村 裕太 (農学・医学) 監修
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