ナチュラルキラー細胞を髄芽腫の治療へー2016年10月号

MDアンダーソン OncoLog 2016年10月号(Volume 61 / Issue 10)

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ナチュラルキラー細胞を髄芽腫の治療へ

ナチュラルキラー(NK)細胞の脳内への注入が髄芽腫および他の後頭蓋窩腫瘍に有望

小児で最も多い悪性脳腫瘍である髄芽腫は、再発すると一般的に治すことができない。しかし、NK細胞を脳内に直接注入するという新しい治療法の臨床試験では、現在、再発した髄芽腫および他の後頭蓋窩悪性腫瘍の若年患者を対象として登録が行われている。

髄芽腫の再発は、標準治療を受けた小児患者の20%〜30%で認められる。この標準治療は、手術と術後の化学療法と放射線療法の併用、さらに補助化学療法からなり、3歳未満の子供の場合は、手術とそれに続き大量化学療法および造血幹細胞移植となる。上衣腫や非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍を含め、まれな後頭蓋窩悪性腫瘍においても、再発率は高く、予後は不良である。

再発髄芽腫に対する現在の治療法は、救済化学療法と、3歳以上の患者であれば、放射線の再照射になる。治療を行ったとしても、再発髄芽腫の患者における2年後の全生存率は20%未満である。

「生存期間に有意義な効果をもたらすことができる新しい後頭蓋窩腫瘍の治療法を見出す必要があるのです」と、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの小児科小児神経腫瘍学部門長兼准教授であるSoumen Khatua医師は述べた。

NK細胞をがん治療へ

Khatua医師は、自己NK細胞を患者の脳内に直接注入するという臨床試験(No. 2013-0765)の責任医師である。この臨床試験では、後頭蓋窩悪性腫瘍が再発した22歳未満の患者を現在登録中である。Khatua医師によると、これまでに試験に登録された患者の多くが、少なくとも一度は救済療法を試みて失敗に終わっているということである。

この試験では、それぞれの患者の血液からNK細胞を採取し、増やしてから、注入する時まで凍結保存しておく。カテーテルを患者の第四脳室に留置し、このカテーテルを通して自己NK細胞を注入する。患者へのNK細胞による治療は3サイクル行われる。各サイクルでは、1週間に3回の注入を3週間行い、その後休止期間が1週間とられる。治療が終了して3カ月後に、患者の磁気共鳴画像を撮影して、腫瘍の治療反応の評価を行う。

「50回以上の注入を行ってきましたが、用量制限毒性は認められていません」と、Khatua医師は述べた。「この試験は用量漸増試験であり、3段階ある用量のうち第2段階まで実施しています」。

この試験の中間結果はまだ出されていないが、髄芽腫および非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍の細胞株に対する抗腫瘍活性をNK細胞が持つことは、前臨床試験で示されている。髄芽腫のマウス異種移植(Xenograft)モデルで、この抗腫瘍活性は確認されている。

これらの研究、およびその結果を受けて実施されている臨床試験を進めてきたチームへの参加者は(Khatua医師に加えて)以下の通りである。小児科の客員研究員であるLaurence Cooper医学博士、准教授の Vidya Gopalakrishnan博士、助教授のWafik Zaky医師および前准教授であるDean Lee医学博士、さらにいずれも神経外科部門の教授であるDavid Sandberg医師とJeffrey Weinberg医師。

将来の方向性

NK細胞の脳内への直接注入は現在進行中の臨床試験が初めてであることから、安全のためにいくつかの予防措置が取られた。そのうちの一つが、1週間で注入する用量を一度に大量注入する代わりに、3回に分けて注入するということであった。初期の注入において安全性が証明されたため、3分割に代わって1回で、各週に注入する用量の全てを注入することができるように試験プロトコールの変更が研究者から提案されている。

別の安全対策として、同種ではなく自己NK細胞を用いた。しかしながら、この試験を実施するに至った前臨床試験では同種NK細胞が用いられていたことから、同種NK細胞あるいは既製品のNK細胞製剤の方が、自己NK細胞よりも臨床では有効である可能性があるとKhatua医師らは考えている。「自己細胞の安全性は確立されると思われ、うまくいけばより一層の確立がなされるでしょう。そうなると次のステップとしては、おそらく同種あるいは既製品のNK細胞の利用になっていくだろう」とKhatua医師は述べた。

最終的にKhatua医師らは、悪性の後頭蓋下腫瘍に対してNK細胞注入を化学療法剤と用いることで相乗効果があるかどうかを今後の試験で調べたいと考えている。Khatua医師は次のように述べている。「脳内に直接注入することで腫瘍とすぐそばで闘うことができ、そしてさらに全身化学療法による毒性を防ぐことができる生物学的製剤を含めた新しい治療法を見出すことが急務なのです」。

For more information, Dr. Soumen Khatua at 713-792-3280.

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翻訳担当者 田村克代

監修 寺島慶太(小児血液・神経腫瘍/国立成育医療研究センター 小児がんセンター)

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