遺伝子組換え幹細胞が髄芽腫の治療薬候補の特定を促進
ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの研究者主導の研究チームは、悪性度の高い髄芽腫のより優れた研究用実験モデルを求めて、このまれな小児脳腫瘍の研究用システムを開発した。
研究者らは神経幹細胞(あらゆる種類の脳神経細胞に分化することができる)に遺伝子組換えを行い、この特定の種類の髄芽腫を引き起こすとされる遺伝子変異を導入した。この遺伝子組換え細胞はマウスに移植されると、髄芽腫がその患者に発生し、進展する過程を首尾よく再現した。
研究者らは次にコンピューターによる計算方法を使用して、遺伝子組換え細胞の遺伝子プロファイルと数百種ものがん細胞株に関する薬剤感受性データベースを対応させ、同種の腫瘍において抗腫瘍活性を有する可能性がある薬剤群を特定した。こうした薬剤群の1つである、Palbociclib(パルボシクリブ)[Ibrance(イブランス)]は、髄芽腫細胞移植マウスの生存期間を延長すること示した。
この研究結果は、Clinical Cancer Research誌8月1日号に発表された。
がん細胞を作製する
小児髄芽腫患者の60%以上は治癒可能である。しかし、髄芽腫は単一疾患ではない。髄芽腫の4種の亜型が特定されているが、これらの亜型は,それぞれの有する遺伝子変異によって定義され,治療に対する反応が違う。こうした亜型の1つであるグループ3髄芽腫の予後は非常に悪い。強力な治療療法を使用しても、同グループ小児患者のうち、診断後数年以上生存する者はわずかである。
グループ3髄芽腫を引き起こす遺伝子変異を標的とする治療法がこうした患者に対して早急に必要になると、Eric Raabe医学博士(小児腫瘍医兼本研究の筆頭著者)は述べた。ただし、Raabe氏らによると、有効な薬剤候補を特定するために、グループ3髄芽腫の遺伝学上正確な実験モデルがこうした薬剤の検証に必要になる。
既存のモデルには全て限界がある。実例として、多くの患者の腫瘍由来細胞は実験室内で培養することはできない。培養可能な細胞に関しても、実験室条件は,長期間の間に遺伝子変異を選択してしまい,培養細胞を,モデルとして有用な元の腫瘍とあまりに異なるものにする可能性がある。また、動物の体内で増殖するヒト腫瘍は非常に遺伝学的に複雑なので、実際に腫瘍増殖に関与する遺伝子変異を識別するのは困難になる可能性がある。
こうした欠点を回避するために、Raabe氏らはヒト神経幹細胞の遺伝子組換えを行い、髄芽腫の新規モデルを作製した。Raabe氏らは遺伝子組換えウイルスを使用して正常な遺伝子コピーを変異コピーに置き換えることで、以前の研究からグループ3髄芽腫の発生を促すことが示唆された一連の遺伝子である、MYC、TP53、hTERT、およびAKTを組み換えた。
マウスの脳内に移植された遺伝子組換え幹細胞は侵襲性腫瘍に変化し、変異遺伝子を発現し続けた。こうした細胞の約20%は脊椎に転移した。これは一部のグループ3髄芽腫で認められる転移傾向と類似している。
DiSCoVERの対象となる薬剤
Raabe氏らは、疾患モデル署名対化合物多様性強化反応(Disease-model Signature vs. Compound-Variety Enriched Response:DiSCoVER)というコンピューターを使用して、髄芽腫に対して効果を示す可能性がある薬剤を特定する方法も開発した。DiSCoVERツールは遺伝子組換え髄芽腫細胞の遺伝子発現プロファイル(すなわち「分子署名」)を大規模データベース内の全がん細胞株のそれらと比較した。
こうしたデータベース内のがん細胞株は様々な薬剤による治療を受けているため、「私たちはどの細胞株が私たちの髄芽腫の神経幹細胞モデルと最も密接な関係があるかを解明することができ、その結果、どの薬剤がこうした細胞モデルで活性も示すのかを予測するためのこうした情報を利用することができました」とRaabe氏は説明した。
サイクリン依存性キナーゼ(cyclin-dependent kinase:CDK)阻害剤という薬剤群が遺伝子組換え髄芽腫細胞に対して効果を示す可能性があることをDiSCoVERツールは予測した。Raabe氏らはこうしたCDK阻害剤の1つであるpalbociclib(転移性乳がんの治療薬として承認されている)を遺伝子組換え幹細胞由来腫瘍移植マウスで検証した。
Palbociclib投与によりマウスの生存期間中央値が50%近く(25~37日)延長した。マウスから摘出した腫瘍標本の解析から、palbociclibは血液脳関門を越え、腫瘍に浸透し、腫瘍細胞の増殖を阻害することが示された。
ただ髄芽腫だけではなく
本研究および未発表の他の研究に基づいて、米国小児腫瘍学グループはCDK阻害剤が再発髄芽腫患者に対して現在計画されている臨床試験で使用される可能性を検討していると、Raabe氏は述べた。
Raabe氏らは現在こうした方法を使用して、他の髄芽腫亜型モデルを作製している。「私たちは小児腫瘍医なので、モデルとして小児がんを取り扱っています。しかし、この方法は他のがん種にも使用することができると私たちは考えます」とRaabe氏は述べた。
「希少腫瘍患者用治療薬の検討する時に、患者数が少ないために、どの治療薬が臨床試験の対象になるか優先順位をつけることがますます重要になっています」とKarlyne Reilly博士(米国国立がん研究所(NCI)がん研究センター腫瘍形成修飾遺伝子課長)は述べた。なお、Reilly氏は本研究に携わっていなかった。
「特に腫瘍のゲノム特性の使用の増加により薬剤検証モデルの設計を促すために使用される遺伝的原因が特定されるため、Raabe氏らによる方法は多くの希少腫瘍およびより高頻度で認められる腫瘍の亜型に対する治療薬候補の特定を促す可能性があります」とReilly氏は結論付けた。
【図の解説】
発がん遺伝子によりがん化した神経幹細胞は高リスク型髄芽腫で認められるが、細胞培養により半透明な球状に増殖する(左)。がん化した神経幹細胞(青色)は マウスの正常脳組織(桃色)を浸潤し、破壊する(右)。
解説:Allison HanafordおよびEric Raabe(ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンター)
原文掲載日
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