小児・10代の化学療法後の聴力低下防止にチオ硫酸ナトリウムをNHS承認
がん治療を受けている乳児、小児、若者の聴力を守る初めての薬剤が、イングランドでのNHS(英国民保険サービス)適用が承認された。 根拠となったのは、われわれの臨床試験の結果である。
このSIOPEL-6研究では、チオ硫酸ナトリウム (販売名:Pedmarqsi) により、プラチナベース化学療法薬であるシスプラチンの副作用で聴力を失う小児および10代若者の割合がほぼ半減することが示された。
現在、英国国立医療技術評価機構(NICE)がNHSイングランドにこの薬を推奨しており、今後1年間で約60人の小児および10代若者(生後1カ月から17歳)が本薬剤投与の対象となると思われる。
ロンドンのグレート・オーモンド・ストリート病院でSIOPEL-6試験を主導したPenelope (Peppy) Brock医師は、この決定を「極めて重大」であると述べる。
「数種類のがんの治癒率が90%台後半まで上昇しており、これらの恒久的障害を解決する必要性はますます差し迫ったものとなっています」と同医師は言う。「患者の人生に影響を与えるこの副作用に対抗できる薬をようやく提供でき、子どもたちががんを克服した後、健康で幸せな充実した人生を送れるようになることを嬉しく思います」。
シスプラチンにチオ硫酸ナトリウムを加える
シスプラチンは多くの固形腫瘍に対する非常に効果的な治療薬であり、1970年代の初の承認(われわれの別の臨床試験に基づく)以降、劇的な生存改善に寄与してきた。
しかし、シスプラチンは治療後、体の大半の部分からは急速になくなるのだが、聴覚を司る内耳の部分である蝸牛ではなかなか消えない。蝸牛にシスプラチンが与えるダメージとして、高音(高周波)の聴力に特に大きな影響を及ぼす。
シスプラチンのみで治療した小児および若者では10人中約6人が、ある程度の不可逆的な難聴となる。
「ここまで効果的な治療法を得られたことは幸運といえます」と、Brock医師は言う。同医師は、がん治療の副作用としての難聴(聴器毒性)の専門家である。「しかし、シスプラチンのみで治療した子どもの多くは、恒久的な難聴が残り、完全に聴力が失われる可能性もあります」。
「軽度の難聴でも、子どもの将来の発達に深刻な影響を与える可能性があります。『s』、『f』、『t』、『k』などの主要な子音は高周波で聞こえるもので、これらの子音の喪失は、まだ発語が発達していない子どもにとって特に困難を伴う可能性があります」。
Lukeの物語 Lukeは2007年12月、生後わずか6カ月で肝芽腫と診断された。クリスマス翌日の12月26日、ロンドンのグレート・オーモンド・ストリート小児病院で治療を開始し、翌日SIOPEL-6試験に加わった。 「Lukeは2週間ごとの化学療法を4回受け、その後7時間の手術、さらに化学療法を受けました」と、Lukeの母親のClaireは言う。 「もし彼があの年齢で聴覚障害になっていたら、その後の長い人生にとてつもない影響があったことでしょう。私たちはLukeと将来の他の子どもたちのために、迷わずこの治験に参加しました」。 「私たちは治験中、十分なケアを受けていると感じましたし、Lukeは何度も追加で聴力検査を受けました。結果は期待通りでした。最近の聴力検査では、両耳とも正常な聴力でした」。 SIOPEL-6 でのLUKEの体験談は、2024年9月の小児がん啓発月間にキャンサーリサーチUKが特集した、臨床試験にまつわる5つの物語の1つである。5つの物語は、「お子さんが臨床試験に参加するのはどんな感じでしょう?」で。 |
がん種を問わず副作用を軽減
SIOPEL-6試験の対象患者は、肝芽腫の治療を受けている小児であったが、NICEガイドラインは複数のがん種を対象としている。チオ硫酸ナトリウムは、体の他の部位に転移していない固形腫瘍の治療にシスプラチンを投与されているすべての小児および若者(生後1カ月から17歳まで)に推奨される。
これは、米国とカナダで実施された別の試験からのエビデンスを反映している。この試験では、より広範なグループにおいてチオ硫酸ナトリウムが同様の難聴抑制に寄与することが判明している。
この薬はシスプラチン化学療法の6時間後に点滴静注で投与される。シスプラチンががん細胞を殺す過程を妨げないようにするためである。
NICEの決定を受けて、NHSイングランドは今後3カ月間、シスプラチンによる治療を受けている小児および十代若者にチオ硫酸ナトリウムの投与を開始する予定である。
NICEの決定は通常、ウェールズと北アイルランドでも採用されるため、この薬はまもなく両地域でも利用可能になるはずである。スコットランドでは薬の承認に別の手続きがあり、NHSにおけるこの用途でのチオ硫酸ナトリウムについて、評価はまだ行われていない。
- 監修 太田真弓(精神科・児童精神科/クリニックおおた 院長)
- 記事担当者 山田登志子
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- 原文掲載日 2025/01/28
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