遺伝的変異により特定の小児がんリスクが高まる

まれな生殖細胞系列遺伝子変異が、神経芽腫、ユーイング肉腫、骨肉腫などの小児がんのリスクを高める可能性があることが、ダナファーバーがん研究所の新しい研究によって明らかになった。これらを含む小児固形腫瘍は、すべての新規小児がん症例の約3分の1を占め、米国における小児の疾患による死亡の主な原因となっている。この発見は、これらの小児がんの治療やスクリーニングの改善に役立つ可能性がある。 

「これらの疾患を引き起こす最も初期のイベントの理解が深まれば、これらの患者の治療を改善する方法を考えることができます」と、ダナファーバー/ボストン小児がん・血液疾患センターの小児腫瘍医で共同筆頭著者のRiaz Gillani医師は述べている。
 
この研究はScience誌に掲載された。
 
現在、これら3つの小児がんの一次治療は、化学療法、放射線療法、手術に大きく依存している。すべての患者が治癒するわけではなく、治癒した患者も生涯にわたる健康問題に悩まされることが多い。成人の一部のがんでは、遺伝性のがんリスク遺伝子の解明により、より洗練されたスクリーニングと診断、およびより効果的な標的療法の開発につながっている。小児がんについても同じことが言えるかもしれない。しかしこれまでのところ、成人のがんに関係するリスク要因(主に遺伝子のスペルミスである一塩基変異体)がリスクとなるのは、小児がん症例のごく一部である。 
 
この研究では、Gillani医師と共同筆頭著者でダナファーバーの計算生物学者であるRyan Collins博士(2人とも人口科学部門長のEliezer Van Allen医師のダナファーバー研究室に所属)が、がんリスクを高める可能性のある変異体を探すため、これらの小児がん患者のゲノムを幅広く調べることにした。
 
がんを患う1,766人の小児、がんを患っていない943人の親族、および血縁関係がなくがんを患っていない6,665人の成人の全ゲノム配列を分析した。Google Cloud Platformを利用して、ペタバイト単位のデータに対して何百万時間もの計算を実行した。
 
「データセットは1,000台のノートパソコンには収まりきらないでしょう」とCollins博士は言う。

同博士らは、これらの小児がんのリスクを高める生殖細胞系列遺伝子変異の重要な3つのタイプを発見した。生殖細胞系列遺伝子変異とは、出生時から体のすべての細胞に受け継がれ、現れる遺伝子変化のことである。チームが特定した変異はすべて遺伝子の構造変異で、スペルミスとは異なる。構造変異とは、元のゲノムと比較して削除、反転、または大幅に再配置されたゲノムの一部である。

最初の発見は、XY染色体を持つ患者(一般的には男性とされる子供)において、大きな染色体異常がこれら3つのがんのリスクを4倍に高めることであった。すべての細胞には23対の染色体が含まれており、細胞が機能するために使用する遺伝的指示が含まれている。各染色体には約1億ヌクレオチド、つまりDNA指示を形成する「文字」がある。大きな染色体異常では、これらのヌクレオチドの約100万個が欠けている。 

「これはDNAにとって非常に大きな変化です」とCollins博士は言う。 

観察された変異の約80%は子供の両親から受け継いだものであるが、両親はがんを発症していなかった。これは、1つ以上の染色体異常、他の遺伝子変異、環境曝露を含む要因の組み合わせが各小児がん症例に関与する可能性を示唆している。

「これらの変異から、小児がんの発症に関与すると考えられる要因の全体像が得られます」とGillani医師は言う。「われわれは、子どものリスクを極端に高め、特定の小児がんの発症につながり得るこれらの新しい要因にスポットライトを当てています」。

このチームが臨床現場でゲノムに対して行った種類の分析を今日行うことはできないが、近い将来、これらの大きな染色体変異体の一部の検出を生殖細胞遺伝子検査に組み込んで、がんのリスクがあり観察が必要なより多くの子どもを特定することが可能になるであろう。 

同チームはまた、タンパク質コード遺伝子の遺伝性構造変異体を特定した。これらの構造変異体は、正常な発達に不可欠な遺伝子、損傷したDNAの修復に関与する遺伝子、およびがんに関係することがすでに知られている遺伝子の3つのカテゴリに影響を与えた。さらに、研究対象となったがんの起源組織の遺伝子には、これらの構造変異体が存在するだけでなく、異なる影響を与えていることも判明した。

「生物学的メカニズムを理解するには、さらなる研究が必要です」とGillani医師は言う。「しかし、今回の発見から、これらの疾患の治療において、DNA修復経路を標的とする薬剤をどのように使用するかなど、新しい治療法について考える必要性が示唆されます」。

研究チームは、タンパク質をコードしていないゲノムの残りの98%も調べた。そこで、これらのがんに関連する細胞で活性化することが知られている遺伝子の発現に影響を与える可能性のある、より多くの遺伝的構造変異を発見した。がんリスクにおけるそれらの役割を解明するには、さらなる研究が必要である。

「これらは、ダナファーバーの小児腫瘍学、遺伝学、計算生物学の専門家を集め、遺伝性リスク遺伝子が小児がんにおいてこれまで考えられていたよりも大きな役割を果たしている可能性について深く探究した、本当に刺激的な発見です」とVan Allen医師は言う。「この研究は、このような学際的な連携と患者とその家族の協力がなければ不可能だったでしょうが、これらの壊滅的ながんの早期発見と介入への新しいアプローチを刺激する可能性があります」。

この研究は、アレックス・レモネード・スタンド財団、米国臨床腫瘍学会、米国コンカー・キャンサー・サルコーマ財団、ボストン小児病院、ラリー財団、国防総省、国立衛生研究所、ダナファーバーがん研究所から資金提供を受けた。

  • 監修 高濱隆幸(腫瘍内科・呼吸器内科/近畿大学病院 ゲノム医療センター)
  • 記事担当者 仲里芳子
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  • 原文掲載日 2025/01/02

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