がん患児が必要な支持療法を受けられるよう支援
がん治療中の若年患者に症状について定期的に尋ねるという単純な行為によって、患者らがより良い支持療法を受けられ、つらい副作用が軽減されるようになることが、2件の新たな臨床試験結果からわかった。
両研究とも、がん治療中の8~18歳の患者が症状に関する簡単な質問に回答し、回答は担当ケアチームに直接送られた。質問に回答したグループでは、回答しなかったグループと比べて、疲労感、食欲の変化、悲しみや恐怖感など、患者が訴えたがん関連症状が少なかった。
NCIが一部資金提供した2試験の結果は、11月13日にJAMA誌とJAMA Pediatrics誌に掲載された。
成人において患者報告アウトカム(PRO)調査の使用を検証した研究では、家族や医療提供者などの観察者からの報告よりも、がん治療中の患者の気持ちをはるかに正確に把握できることが示されている。
しかし、がん治療のストレスを抱える患者が若年の場合、症状についてフィードバックできるかどうかは不明であったと、今回の新たな研究の共同リーダーであるトロントの小児病院(SickKids)のLillian Sung医師は説明した。
「私たちの大きな疑問の一つは、子どもでもフィードバックが可能かどうかでした」とSung医師は言う。「答えが『イエス』であるとわかって非常に喜んでいます」。
2試験のうち規模の大きい方では、子どもが特定の症状を訴えた場合の対処方法を医療従事者向けに事前に定めていた。これは重要だと、NCI小児腫瘍科のLori Wiener博士(本試験には関与していない)は述べた。なぜなら、PROが効果を発揮するには、若年患者が求めるニーズに忙しい看護師や医師が対応できるようにするための道筋がなくてはならないからだとのことである。
「この研究が非常に興味深いのは、症状のスクリーニングと、この情報への対処法に関する医療従事者へのガイダンスを組み合わせることにより、即時かつ非常に体系的な方法で真に効果を発揮できるようにしたからです」とWiener博士は述べた。
Sung医師は、この研究結果は腫瘍学においてあまりにも一般的な問題を浮き彫りにしているとも述べた。
「子どもや親が、治癒には苦痛が当然伴うものだと考えていることが心配です」と彼女は言う。「しかし、苦しみを予防し、軽減するための介入策はあり、その利用が期待されるようになる必要があると思います」。
生存と症状の両方が重要
過去半世紀で小児がん生存を大幅に向上させた治療法には、かなりの副作用が伴う。治療中の痛み、吐き気、脱毛などの症状が含まれる。また、成長や脳の発達の阻害など、生涯にわたる影響が出ることもある。
「小児がんでは生存に重点が置かれてきました。つまり、症状の負担のような問題にはあまり注意が払われていなかったということです」とSung医師は言う。
研究者たちは、あらゆる種類のがん患児の治療中に症状の管理に重点を置くなど、がん治療の弊害を減らしながら、近年の生存率の向上を維持できるかどうかを検証するようになった。
しかし、症状は報告されなければ管理できない。Wiener博士によると、従来、医師は親や保護者に子どもの具合を尋ねてきた。しかし、こうした大人は子どもの症状を過小評価したり過大評価したりすることがあり、子どもがどの症状を最も苦痛に感じているかを理解していない可能性があるとWiener博士は説明した。
「親が観察したり、知っていると思っているように、子どもが実際に感じているとは限りません」とSung医師も言う。不安やうつなどの症状については特にそうだと彼女は付け加えた。
そこでSung医師らは、若年患者が自分の症状を報告するために使用する専用のアウトカム報告ツールを開発した。SSPedi(「スピーディ」と発音)と呼ばれるこのツールは、わずか数分で終わるように設計されており、15の一般的な症状のそれぞれがどのくらい煩わしいかを尋ねる。
するとツールは、この情報を0から60までのSSPediスコアとして記録する。臨床試験では、このツールをSPARKと言うウェブアプリに組み込み、携帯電話、タブレット、またはコンピューターからアクセスできるようにした。
測定されたものは改善できる
このツールの使用が患者の症状の発見に役立ち、患者にとって早期緩和につながるかどうかを検証するために、Sung医師らはまず、カナダ国内8カ所の小児がん治療センターから8~18歳の小児と若者345人を登録した短期研究を計画した。対象者は全員、病院でがん治療を受けていた。
研究者らは、若い参加者を、5日間にわたり1日1回タブレットでSPARKを通じてSSPediに入力回答するグループと、参加病院が提供する通常の支持療法を受けるグループに無作為に割り当てた。
SSPedi群の参加者については、SPARK レポートが毎日印刷され、参加者担当ケア チームのメンバーに配布された。通常ケア群の参加者は、比較のために研究の開始時と終了時にSSPediを入力回答したが、結果を担当ケアチームに共有することはしなかった。
5日後、毎日症状を報告した患児のSSPediスコアは、通常のケアを受けたグループの患児よりも低かった。また、15項目の症状のうち 8項目について、SSPedi群の参加者は通常ケア群の参加者と比べて症状をより煩わしくないと感じていた。
SSPediで尋ねた症状
失望したり悲しんだりする | 疲れを感じる | 吐く、吐き気がする |
怖い、不安を感じる | 口内炎 | いつもよりお腹がすく、またはすかない |
不機嫌になったり怒ったりする | 頭痛 | 味覚の変化 |
物事を考えたり記憶したりすることが難しい | 傷み、痛み(頭痛ではない) | 便秘 |
容姿の変化 | 手足がチクチクしたり、しびれたりする | 下痢 |
研究者らは2回目の試験では、米国内の小児がんセンター20カ所を無作為に指定し、新たにがんと診断された8~18歳の患者全員に週3回 SSPedi を使用する群と、通常どおり症状と副作用のケア (支持療法と呼ばれる) を行う群に割り付けた。SSPediを使用するセンターでは、症状の管理にSSPediスコアをどのように使用するかについて、独自の治療計画、つまり治療の道筋も作成した。
「こうした道筋は、[PRO の使用を]成功させる唯一の方法です」とWiener博士は言う。「小児患者はクリニック来院時、たいてい非常に忙しいです。医師の診察を受け、検査や画像スキャンを受けます。包括的な心理社会的評価の時間はあまりありません」。
最初の試験と同様に、SSPediへの入力は小児や若者自身に任されていたが、SSPediへの入力を求める通知の連絡先を両親や保護者にすることもできた。
8週間後、定期的に症状を報告した子どもたちは、通常のケアを受けた子どもたちと比較してSSPediスコアが低く、症状が少ないことが示された。また、報告群では15項目の症状のうち12項目の症状による煩わしさも軽減された。
苦しみを防ぐための多くの疑問、多くの選択肢
「JAMAとJAMA小児部門におけるこれらの試験は、診療に変革をもたらす」ものであり、小児を対象とした大規模臨床試験から「電子的な患者報告アウトカムによる遠隔症状モニタリングの利点」に関する最初の証拠を提供するものであると、ノースカロライナ大学チャペルヒル校、フィラデルフィア小児病院、デューク大学の医師らはJAMA誌の付随論説で記述している。
Sung医師は、若年患者にとってどの程度の症状軽減が有意義であるかなど、依然として問題は多いと言う。それはひとりひとりの患児で異なる可能性があり、最も気になる症状も異なるだろう。そのため、症状の測定は若年患者と医師との会話の始まりであり、終わりではないと同医師は述べる。
「しかし、だからこそ、1つか2つの症状だけを改善したのではなく、ほとんどの症状を改善したことが重要なのです」と彼女は語った。
Sung医師は、治療の道筋に沿ったケアを受けた若年患者が予想よりも少なかったことから、医療提供者が症状管理においてエビデンスに基づくケアを適用できるように支援する方法の解明に向けて、さらなる研究も必要だと説明した。
SSPediは現在、米国とカナダで最大の電子医療記録システムの 1 つであるEpicに統合されている。これにより、病院は小児PRO(患者報告アウトカム)を作業手順に組み込むことができるようになるとSung医師は述べる。
彼女のチームはまた、4~18歳の子ども向けに設計されたco-SSPediと呼ばれるスクリーニングツールを開発し、検証した。「このツールは、子どもと親が一緒に入力します。最初に子どもが自分の経験を入力し、親が入力完了を手伝うという考え方です」と彼女は言う。
子ども向けの他の症状スクリーニングツールも現在利用可能または開発中である。例えば、Wiener博士と国立精神衛生研究所の同僚は、非営利団体のがんサポートコミュニティと提携して、メリーランド州ベセスダのNIH臨床センターでChecking INと呼ばれるツールを開発した。そのツールは現在市販されている。
これまでのところ、半数以上の医療提供者が「子どもの[Checking IN]レポートの内容に基づいて」治療を変更していることがわかったとWiener博士は説明する。「私たちは、標準化され、一貫した有用な方法で子どものウェルビーイングを把握し、迅速な紹介と可能な限り最善の支持療法につなげたいと考えています」。
- 監修 太田真弓(精神科・児童精神科/クリニックおおた 院長)
- 記事担当者 山田登志子
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- 原文掲載日 2024/12/13
【この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】
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