小児網膜芽細胞腫患者の多くが補助化学療法を受けなくても問題ないことが前向き研究により判明

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Nicole Racadag
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nicole.racadag@asco.org
@nracadag

ニュースダイジェストの内容:
• 2013年3月4日のThe Journal of Clinical Oncology誌オンライン版に掲載された、小児網膜芽細胞腫患者において、増悪や再発なしに補助化学療法を回避できる場合があることを報告する研究の要約
• 本研究結果は、片眼のみを罹患した網膜芽細胞腫において、低、中、高リスク患者の補助化学療法および治療法選択の意思決定の助けとなるであろう
• 米国臨床腫瘍学会癌情報委員会メンバーであり、小児癌専門医のZoAnn Eckert Dreyer医師の見解であることを明示して引用
• 詳細情報は、米国臨床腫瘍学会の癌情報ウェブサイトCancer.Netを参照

フランスで実施された前向き臨床試験の結果により、低リスクの網膜芽細胞腫の小児は、再発や転移を防ぐために術後(補助)化学療法を必要としないことが新たに示された。この結果から、中リスク患者は、より低い強度の補助治療を受けるか、もしくは受けなくても問題ない場合があることも示唆された。化学療法を避けることで、患者は副作用や心血管疾患や二次癌発症などの長期的な健康リスクを負わずにすむ。

網膜芽細胞腫は稀なタイプの癌であり、15歳未満の小児において診断される癌の3%を占める。米国では、本年は300例ほどの網膜芽細胞腫が診断され、そのほとんどが5歳未満となると予測されている。この癌は、眼球の後ろ側を覆う薄い膜状の神経組織である網膜に発症する。
網膜芽細胞腫を発症した小児患者の約2/3は片眼性の疾患、つまり片眼のみに腫瘍が発症する。先進国においては、この癌は2歳前後に発見されることが多い。患者の95%以上は罹患した眼球の外科摘出により治癒し、もう片方の視力は維持される。しかし、癌が広がり、再発するリスクが残る患者もある。

再発および転移のリスクを推定するために、医師は外科手術により摘出した眼球を顕微鏡下で検査し、腫瘍を低、中、高リスクのいずれかに分類する。腫瘍が高リスクと見なされた患者にはすべて、集中的な術後化学療法および放射線治療を行う。しかし、他の2群については補助化学療法の必要性および最適治療法に関して一般的な合意は得られていない。そのため、低、中リスク患者の補助化学療法のプロトコールには大きなばらつきが存在する。

「我々の研究により、片眼性の網膜芽細胞腫の小児患者の多くでは補助化学療法を行う必要はないことが確認されました。」本研究の筆頭著者であるフランス、パリのキュリー研究所小児癌専門医であるIsabelle Aerts医師は述べる。「この結果により、網膜芽細胞腫患者の標準治療確立の助けとなり、術後化学療法プロトコールのばらつきを解消できるでしょう。」

本研究では、片眼性、非遺伝型の網膜芽細胞腫患者123人を従前の基準に従って3種のリスク群に割り当てた。眼球摘出術時点での月齢中央値は23カ月であった。低リスク患者70人には術後化学療法を行わず、中リスク患者52人には補助化学療法(エトポシド、カルボプラチン、ビンクリスチン、シクロホスファミド)を4コース、1人のみであった高リスク患者には高用量の補助化学療法(エトポシド、カルボプラチン、チオテパ、ビンクリスチン、シクロホスファミド)を6コース行った。

追跡期間の中央値が71カ月となった時点で患者は全員生存していた。いずれの患者にも、増悪、再発、遠隔転移、二次癌発症は認められなかった。補助化学療法の安全性は全般的に良好であった。本検討では、既に世界中で使用されているレジメンを用いたが、データによりこのレジメンは非常に効果的で安全性が高いことが確認された。

本検討において非常に良好な転帰が認められたことより、低リスク患者においては補助化学療法を行わなくても安全であることが確認され、中リスク患者においても、特にリスクが孤立性脈絡膜浸潤-眼球の後ろ側の血管や結合組織の層に腫瘍細胞が広がる-として知られる特徴がみられる場合には、補助化学療法の強さを低減又は場合によっては中止しても問題ない場合があることが示唆された。しかし、そのような患者を特定する臨床基準を確立するにはさらに検討が必要である。本試験の追跡期間終了時にすべての患者が生存していたことから、補助化学療法が重要な役割を担っているのか、外科手術のみで十分であるのかどうかは不明である。

Aerts医師らの研究チームは最近、本検討の結果を確認し、中リスクに分類された患者で化学療法を低減することができるかを決定するために、新たな研究を開始した。この進行中の臨床試験においては、中リスク患者で孤立性脈絡膜浸潤が認められた患者を補助化学療法2コースのみで治療している。

ASCOの見解
ASCOの癌情報委員会会員で小児癌専門医であるZoAnn Eckert Dreyer医師
「本検討には新規治療は含まれていませんが、リスクの層別化を改良し、精密化することにより、特に中リスク患者において化学療法を低減できる患者群が存在することが実証されました。多くの小児患者はそれほど積極的な化学療法を受けなくてもよく、その長期、短期的副作用から救われることが判り、医師も患者も安心しています。本検討により、これらの患者の標準治療が変わることになるかもしれません。」

ASCOの癌情報ウェブサイトCancer.Netで提供している有用情報
網膜芽細胞腫の手引き(http://www.cancer.net/cancer-types/retinoblastoma-childhood
小児癌(http://www.cancer.net/cancer-types/retinoblastoma-childhood
化学療法を知る(http://www.cancer.net/all-about-cancer/cancernet-feature-articles/treatments-tests-and-procedures/understanding-chemotherapy
癌療法の意思決定(http://www.cancer.net/all-about-cancer/cancernet-feature-articles/cancer-basics/making-decisions-about-cancer-treatment
小児癌を含む領域の癌研究の進歩の歴史は、ASCOのCancer Progress Net.(www.cancerprogress.net.)で双方向的に提供している。

The Journal of Clinical Oncology誌は、癌患者を治療する医師を代表する世界有数の専門家協会である米国腫瘍学会(ASCO)が月3回発行している、論文審査のある学術誌である。

翻訳担当者 石岡 優子

監修 寺島 慶太 (小児血液・神経腫瘍/国立成育医療研究センター腫瘍科)

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原文掲載日 

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