オラパリブとセララセルチブ併用がDNA修復不全腫瘍の小児がん患者に有効である可能性

米国がん学会(AACR)

PARP阻害剤オラパリブ(販売名:リムパーザ)と被験薬であるATR阻害剤ceralasertib[セララセルチブ]の併用は、DNA複製ストレスやDNA修復欠損を示す小児の固形腫瘍患者に対し臨床効果を示したことが、4月14日から19日まで開催された米国がん学会(AACR)年次総会2023での第1/2相Acsé-ESMART試験第1相部分の結果発表で示された。

「われわれの知る限り、PARP阻害剤とATR阻害剤の併用は、成人の腫瘍型では広く評価されていません」と、本研究を発表した、英国バーミンガム大学がん・ゲノム科学研究所の小児腫瘍学臨床准教授であるSusanne Gatz医学博士は述べた。「この結果は、この併用療法が小児がんにおいて忍容性が高く、臨床的に重要な効果をもたらすことができることを初めて証明するものです」。

AcSé-ESMART試験は、小児・青年・若年成人の再発または治療抵抗性がん患者に、それぞれのがんの変異プロファイルに応じた治療方法をマッチさせることを目的とした、欧州における概念実証国際プラットフォーム試験である。Gatz氏やAcSé-ESMART試験の責任者であるBirgit Geoerger医学博士らは、これまでに220人以上の小児患者を対象に、腫瘍の高速かつ網羅的な遺伝子発現プロファイリングを行い、併用療法を中心とした15種類の治療法を評価してきた。

AcSé-ESMART試験のN群は、DNAの複製と損傷の修復に障害を示す悪性腫瘍の患者を対象とした。DNA修復の一種である相同組換え(HR)の障害は、PARP阻害剤と呼ばれる薬剤に対し細胞の感度を高める可能性がある。PARP阻害剤は、HRの欠損のある特定の、特にBRCA1またはBRCA2の変異のある、成人がんに対して有効であることが証明されている。BRCA1/2変異がほとんど認められない小児患者における最適なPARP阻害剤の使用方法は、まだ明らかとなっていない。

「小児がん細胞は、急速に増殖し、DNA複製ストレスやATRへの依存が関連しています」とGatz氏は述べている。「小児がんには、PARP阻害剤に対する一次抵抗を示すものがありますが、ATR阻害剤との併用で、それを克服できる可能性があると考えています」。

AcSé-ESMART試験N群の第1相部分では、HR欠損または複製ストレスに関与すると考えられる変異を保有する、小児および若年成人の再発または治療抵抗性固形がん患者18人が登録された。1日2回投与のオラパリブ(連日投与)とセララセルチブ(28日サイクルの1日目から14日目に投与)を3つの用量レベルで評価した。第2相の推奨用量は、12歳から18歳の患者ではオラパリブ150 mgとセララセルチブ80 mgと決定された。12歳未満の小児に対する推奨用量は、まだ決定されていない。

患者が治療を受けたサイクルの中央値は3.5サイクルであった。患者5人が用量制限の有害事象(血小板減少症および好中球減少症)を発現し、そのうち2人は第2相推奨用量で発現した。

松果体芽腫の患者1人は、部分奏効が確認され、11サイクルの治療を受けた。また、神経芽腫の患者1人は、治療9サイクル目まで病勢が安定していたが、そこから病勢が部分奏効に転じた。11サイクル目以降に奏効が確認され、12サイクル目の現在も治療を受けている。また、8サイクル目の患者2人と15サイクル目の患者1人も治療を継続している。臨床効果のあった患者にBRCA変異のある人はいなかった。

小児がんは複雑な機序によって引き起こされることが多いため、効果的な治療方法を特定することが困難となっている、とGatz氏は説明する。小児がんでは、変異した1種類のタンパク質を標的とした単剤療法では不十分なことが多いため、併用療法や奏効の機序に関するさらなる研究を必要としている。

Gatz氏は次のように述べている。「これまでのところ、本試験の登録患者の分子の変化のみが奏効の原因であるかどうかは、明らかではありません。また、本試験は臓器横断的という特徴があるため、特定の腫瘍型における奏効パターンを特定することは難しいかもしれません。とはいえ、この試験デザインの特徴から、特定の変化や腫瘍型におけるシグナルについて予備的に示すことができ、将来の臨床試験の基礎をもたらすことができます」。

Gatz氏らは、登録患者の生のシーケンスデータ、ATMなどの主要な標的タンパク質の発現、およびRNAシーケンスデータから、反応のバイオマーカーを評価する予定である。これらの分析により、オラパリブとセララセルチブの併用療法に対する反応を示す「分子の一群」を特定できるかもしれないとGatz氏は指摘した。

「現在開発中の非常に価値のある薬剤が存在します。臨床的または非臨床的な妥当性があるなら、これらの薬剤を、現在適応とされていない疾患に対して独創的に応用させる必要があります」とGatz氏は述べている。

本試験の限界は、主に概念実証と試験拡大のための最適用量を決定することを目的としてサンプルが小規模でランダム化されていない点である。

AcSé-ESMART試験はGustave Roussy Cancer Campusから支援を、フランス国立がん研究所(INCa)、Imagine for Margo、Fondation ARC、AstraZeneca France、AstraZeneca Global R&D, AstraZeneca UK、Cancer Research UK、Fondation Gustave Roussy (parraignage medecin-chercheur) および Little Princess Trust/Children's Cancer and Leukaemia Group(CCLG)から資金提供を受けている。Gatz氏は利益相反がないことを宣言している。

  • 監訳 高濱隆幸(腫瘍内科・呼吸器内科/近畿大学病院 ゲノム医療センター)
  • 翻訳担当者 瀧井希純
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  • 原文掲載日 22023/04/18

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