小児癌サバイバーの化学療法、放射線への曝露は、その子どもにおける先天性異常症のリスクを上昇させず

小児癌サバイバーの化学療法、放射線への曝露は、その子どもにおける先天性異常症のリスクを上昇させず

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Nicole Fernandes
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nicole.fernandes@asco.org

このニュースダイジェスト版では以下の内容を含む:

• 小児癌サバイバーの子どもは、その親が、癌細胞も正常細胞も同様にそのDNAを損傷する放射線治療または特定の化学療法、あるいはその両方による治療を受けていたのにもかかわらず、先天性異常症のリスク上昇が認められなかったことを示した2011年12月12日付Journal of Clinical Oncology誌の電子版に掲載された研究の要約。これらの結果は、癌サバイバーにとって、その子どもに及ぼすサバイバー自身の治療の潜在的影響について安心感を与えるものであり、また家族計画を立てる上で役立つものとなる。
• 米国臨床腫瘍学会Cancer Communications委員会メンバーで小児癌専門医のZoAnn Dreyer医師に帰属する引用文。
• 癌治療後の日常生活への適応を支援することを目的とした新たな文献を含むASCOの患者ウェブサイトCancer.Net上の追加情報へのリンク。

大規模な後ろ向き試験の結果、精巣あるいは卵巣への放射線照射、またはアルキル化剤による化学療法、あるいはその両方による治療を過去に受けた小児癌サバイバーの子どもは、そのような癌治療を受けなかったサバイバーの子どもと比べ、先天性異常症のリスク上昇が認められなかったことが示された。これらの所見は、子どもに及ぼす治療の潜在的影響について懸念している癌サバイバーにとって、先天性異常症のリスクが上昇する可能性は低いという安心感を与えるものであり、また家族計画の選択を手助けするものとなる。

「本試験が、生殖に関する問題が生じた場合に、小児癌サバイバーの医師が利用できる情報という武器の一つとなることを願う」と、テネシー州ナッシュビル市に位置するヴァンダービルト大学の医学部の准教授で、メリーランド州ロックビルにあるInternational Epidemiology Instituteの上席疫学者でもある主著者のLisa Signorello理学博士は述べた。「小児癌サバイバーは、治療の影響に関連する未知の要素などの、現実的な生殖に関する問題に直面する。しかし、本試験によって、サバイバーの子どもにおいて、サバイバーが若いころに受けた治療によって生じる遺伝子異常のリスクが高まる可能性は低いという安心感が与えられることを願っている」。

Signorello氏によると、小児癌患者は、命を助けることができる治療ではあるが、子どもを授かる能力へ影響を及ぼす可能性もある放射線治療および化学療法を受けることが多い。女児の場合、骨盤への放射線照射は、その結果として子宮に損傷を与えるが、流産および早産などの妊娠転帰のリスクに関連しており、また卵巣へ与える影響は不妊症の原因となっている。放射線治療およびアルキル化剤(ブスルファン、シクロホスファミド、ダカルバジンなど)による化学療法は、DNAに損傷を与える治療であり、癌細胞と正常細胞の両方に影響を与える。これまでの研究では、親の治療により生じた遺伝子損傷がその子どもへ引継がれるかどうかの問題に的確に取り組んだものはない。遺伝子に基づく先天性異常症は一般集団においては稀であり(約3%)、また先行研究の結果によると、癌サバイバーの子どもにおいて先天性異常症のリスク上昇はほとんど、または全く認められなかったものの、それらの研究は比較的小規模であり、精巣や卵巣に特定した放射線量などといった放射線治療および化学療法についての詳細情報には欠けていた。

治験担当医師は、現行の試験において、1970年から1986年の間に癌と診断された20,000人以上の小児癌サバイバーを対象とした、治療および転帰についての大規模な後ろ向き試験である、Childhood Cancer Survivor Study(小児癌サバイバー試験)からの情報を使用した。Signorello氏らは、5年以上経過した小児癌サバイバーである男性1,128人および女性1,627人の子ども4,699人のデータを検証した。サバイバーが自分の子どもの健康問題について質問票を介して報告を行い、さらに治験責任医師らはサバイバーとその子どもの診療記録の検証を行い、特にサバイバーの精巣あるいは卵巣への放射線照射およびアルキル化剤による化学療法の治療歴に着目した。

サバイバー中、63%(1,736人)が小児癌の治療のために放射線照射を行っており、男性の44%(496人)および女性の50%(810人)がアルキル化剤による化学療法を行っていた。全体で、サバイバーの子どもの2.7%(129人)が、ダウン症候群、軟骨無形成症、あるいは口唇裂などの少なくとも一つの先天性異常症を発症していた。放射線への曝露あるいはアルキル化剤による化学療法を受けた母親の子どもの3%が遺伝性の先天性異常症を発症していたのに対し、癌サバイバーでそのような曝露を受けていない母親の子どもの場合は3.5%であったことが明らかになった。DNAに損傷を与える治療を行った男性の癌サバイバーの子どもの1.9%のみが、前述のような先天性異常症を発症していたのに対し、この種類の化学療法または放射線治療を行っていない男性サバイバーの子どもの場合は1.7%であった。研究者らは、癌サバイバーの子どもにおいて、その親の化学療法または放射線照射、あるいはその両方への曝露に起因する先天性異常症のリスク上昇は認められなかったと結論づけた。

研究者らはまた、彼らの研究の長所は、一般集団から無作為に抽出した人の子どもとの比較ではなく、他の癌サバイバーの子どもとの比較であることを示した。Signorello氏によると、癌サバイバーと一般集団における個人とを比較することは困難であるが、それは一般集団における個人の場合は、子どもの健康問題についての報告が徹底して行われていない可能性があり、癌サバイバーの子どもの場合は、恐らく綿密な臨床的調査の下に置かれ、その結果として先天性異常症の発症率が高いようにみえるという理由による。一方、治験担当医師により、癌サバイバーの子どもにおける先天性異常症の全有病率は、一般集団において報告されてきたものとほとんど同様であることが明らかになった。

本試験は、小児癌サバイバーの子どもにおける先天性異常症について検証した中でも最も大規模な試験のひとつであり、また、先天性異常症を評価する際に、診療記録を使用して子どもの健康問題と親の放射線照射および化学療法への曝露を確認した最初の試験でもある。

「次世代における先天性異常症の可能性は、癌サバイバーにおいてなかなか解消しない懸念であったが、なぜならその検証が困難であったことによる。われわれは、先天性異常症は稀な転帰であり、この問題に取り組むためには大規模な研究グループが必要とされてきたことを心得ている。両親の自発報告による転帰を立証し、また患者の放射線治療および化学療法による被曝量を数値化するために、それらについての診療記録を収集し利用することに長い年月を要した。これらの結果はこれまでで最も力強い結果であり、小児癌サバイバーにおけるこの共通の懸念を検証する他の試験に、さらに大きな確信を与えることになる」とSignorello氏は述べた。

研究者らは、たとえ子どもに先天性異常症が認められなかった場合においても、放射線照射あるいは化学療法による遺伝子損傷のエビデンスが存在するかどうか、さらに小児癌サバイバーの家族(サバイバーおよびその子ども)のDNA配列を解析し続ける予定である。さらに、より大規模でかつ確実な結果を提供するために、このテーマに関する全米および国際研究からのデータを統合することも考慮している。

本研究の全文を表示するには、ここをクリックしてください。

ASCOの視点:
ASCO Cancer Communications委員会メンバーおよび小児癌専門医のZoAnn Dreyer医師
「全人口に占める小児癌サバイバーの割合が増加していることから、とても多くの元患者が本試験の結果によって影響を受けることは明白である。癌サバイバーおよび新たに癌と診断された患者は、彼らの将来の子どもに及ぼす可能性のある化学療法および放射線治療の影響について不安を感じている。われわれは腫瘍専門医として先天性異常症のリスクは低いものとして考えてはいたが、今、サバイバーおよび新たに癌と診断された患者との対話においてわれわれの考えを裏付ける、多数の子どもから得た具体的なデータが入手できた。これらの結果は、サバイバーが以前受けた癌治療により、彼らの将来の子どもにおいて先天性異常症のリスク上昇がもたらされることがなさそうだという安心感を与えるものとなろう」。

Cancer.Netからの有用なリンク先

JCO Cancer Advances
Cancer Survivorship: Next Steps for Patients and Their Families
Guide to Childhood Cancer
Childhood Cancer Survivorship
The Genetics of Cancer

翻訳担当者 栃木 和美

監修 寺島 慶太(小児科/テキサス小児病院)

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原文掲載日 

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