進行食道がんの早期治療に免疫チェックポイント阻害薬が有望

先ごろ発表された2つの大規模臨床試験の結果によると、免疫療法は一部の進行食道がん患者で早期治療の一角を担うことになるかもしれない。

両試験で、標準治療に比べて免疫チェックポイント阻害薬による治療は、進行食道がん患者が増悪することなく生存できる期間を延長した。2試験のうちの1試験では、免疫チェックポイント阻害薬を投与した患者の全生存期間が延長した。

両試験の結果は先月、欧州医学腫瘍学会(ESMO)のバーチャル年次総会で発表された。

両試験の結果は、試験がまだ進行中であるため予備的結果と考えられているが、複数の食道がんの専門家によれば、両試験の結果により免疫チェックポイント阻害薬がこれまで有効な新規治療法がなかった食道がんの新たな標準治療になる可能性があるという。

ペムブロリズマブを治療の早い段階で使用する

食道がんは進行期になって診断されることが多く、その時にはがんは近くの臓器に広がってしまっている。もしがんが広範囲に広がってしまった場合には、外科医はすべてのがんを取り除くことはできず、手術をしても延命には役立たない。そのため、標準的な初回治療(一次治療)は化学療法による全身治療となる。

化学療法によって、進行した食道がんが縮小したり、しばらくのあいだ増殖が止まったりすることがある。しかし、数カ月もしないうちにがんは悪化したり、広がったりすることが多い。

「食道がんの予後は非常に悪く、欧米諸国での5年生存率は10%から12%の範囲である」と、スペインのバレンシア大学の腫瘍学者であるAndrés Cervantes医学博士はESMOの会議で述べている。博士は、どちらの研究にも関係していない。

2019年、米国食品医薬品局(FDA)は、免疫療法薬であるペムブロリズマブ(キイトルーダ)を食道がんに対する二次治療として承認した。対象は、食道がんのうち局所進行性または転移性で、食道扁平上皮がん(ESCC)と呼ばれるタイプのものである。このタイプの食道がんは、多くの場合、食道の上部または中部の粘膜に発生する。

「食道がんは、他の一般的ながんよりも進行が速い。他の種類のがん患者と比べると、初回診察時の患者の状態はより悪い傾向にある」とメイヨー・クリニックのHarry Yoon医師は述べた。同医師は、どちらの研究にも関わっていない。「そのため、がんが増殖すると通常、患者の約半数は二次療法に移行できなくなる」。

ESMO会議で発表された2つの臨床試験は、免疫療法を治療の早い段階で行うと、患者の生存期間が伸びるかどうかを確かめるために開始されたものである。

KEYNOTE-590試験では、周辺組織やリンパ節に転移し、手術では切除できない食道がん患者約750人を対象とした。この試験は、ペムブロリズマブの製造元であるメルクの資金提供を受けたもので、食道扁平上皮がんに加えて、胃に近い食道の下部に生じることの多い食道腺がん患者も対象となっている。

組み入れ患者は、ペムブロリズマブ、5-FU(5-フルオロウラシル)、シスプラチンを併用する群と、プラセボと化学療法を併用する群に無作為に割り付けられた。この試験では、5-FU+ペムブロリズマブまたは、5-FU+プラセボ療法を最長2年間、あるいはがんが進行するまで継続することが認められた。

この試験はまだ進行中であるが、ESMO発表時までに、患者の生存期間に差がみられた。化学療法とペムブロリズマブを併用した患者の生存期間は中央値で12.4カ月であったのに対し、化学療法とプラセボの併用では9.8カ月であった。また、ペムブロリズマブを追加するとがんの進行はある程度遅くなった。

がん細胞にPD-L1と呼ばれるタンパク質が多くみられる患者は、免疫療法後にさらに長く生存できた。中央値はそれぞれ13.5カ月、9.4カ月であった。PD-L1はがん細胞上に存在し、ペムブロリズマブの効き目に影響を与えるタンパク質である。

免疫療法+化学療法を受けた患者のおよそ20%が副作用で治療を中止したが、化学療法+プラセボを受けた患者ではおよそ12%だった。ESMOでKEYNOTE-590試験の結果を発表した国立がん研究センター中央病院の加藤健医学博士の報告によると、免疫療法併用群では死亡に関係する副作用が2.4%に認められたが、化学療法単独群では1.4%であった。

「ペムブロリズマブ+化学療法は、局所進行性や転移性食道がんの一次治療の標準治療になるはずである」と加藤医師は述べた。

Yoon医師は今回の結果を食道扁平上皮がん患者にとって「(診療のやり方を変えてしまう)プラクティスチェンジ」であると呼んだ。「免疫療法は食道腺がん患者の延命にも有効であるが、それがすべての腺がん患者に当てはまるかどうかについて、異議を唱える医師もいるだろう」と付け加えた。

Cervantes博士は、「KEYNOTE-590試験では、食道腺がんは食道扁平上皮がんと比較して登録患者数が少ない」と付け加えた。「そのため、腺がんに対する一次治療としてのペムブロリズマブの重要性については、議論があるだろう」。

手術可能な食道がんに対するニボルマブの試験 

広範囲に広がっていない進行食道がんの中には、手術によって延命できる場合もある。このような場合、手術の前に腫瘍を縮小するために化学療法と放射線療法の過酷な治療を受けることが多い(術前療法)。

しかし、手術不能な食道がんと同様に、「われわれは治療後の進行が非常に早い患者を相手にしている」とベイラー大学医療センターのRonan Kelly医師は述べた。同医師は、2番目の試験であるCheckMate 577試験の結果をESMOで発表した。

「手術後に化学療法(術後療法)を行っても、がんの再発を遅らせる効果は認められておらず、また、ほとんどの患者は手術後に体力が低下していて副作用に耐えられない」とKelly医師は付け加えた。

ニボルマブ (オプジーボ)という別の免疫療法薬は、手術で切除ができない進行食道扁平上皮がんの二次療法として FDA によって承認されている。ニボルマブは、ペムブロリズマブと同じく免疫チェックポイントタンパクであるPD-L1を標的としている。

CheckMate 577試験は、術後すぐに補助療法としてニボルマブを投与することで、局所進行食道がんが再発せずに生存期間が延長するかを検証するために開始された。この試験は、ニボルマブの製造元であるブリストル・マイヤーズ・スクイブ社の資金提供を受けて実施され、化学療法、放射線療法、手術を受けた約800人が対象であった。参加者の半数以上が食道腺がんであった。

組み入れ患者は、術前療法と手術を受けた後、ニボルマブまたはプラセボによる16週間の治療に無作為に割り付けられ、がんが進行しない限り最長1年間治療を継続することができた。

CheckMate 577試験も現在進行中であるが、ESMO発表時では、手術直後にニボルマブを投与した患者は増悪のない生存期間の中央値が約2年間であったのに対し、プラセボを投与した患者では11カ月であった。Kelly医師は、がんのPD-L1レベルの高い低いにかかわらず、同様の結果が得られたと報告した。

全生存期間への影響を評価するために、追跡調査が継続されている。

ニボルマブを投与した患者は、プラセボを投与した患者と比較して、副作用のために治療を中止した患者の割合が9%対3%で多かった。いずれの群においても治療による死亡は報告されていない。

これらの結果は予備的なものである。しかし、「手術可能な食道がんまたは胃食道接合部がん患者の長年におけるはじめての治療の進歩であり、これらの治療が困難な腫瘍に対する新たな標準治療としてニボルマブの補助療法が確立される可能性がある」とKelly医師は付け加えた。

「免疫療法に対する反応がなぜこれほどまでにはっきりと異なるのかを理解するためには、さらなる研究が必要である。免疫療法の効果が全く得られない患者もいれば、何年も生きられる患者もいる」とYoon医師は説明した。

「この疑問に答える研究は活発に行われている。しかし、免疫療法が食道がんや胃がんに重要な役割を果たすことは一貫して証明されてきた」。

翻訳担当者 後藤若菜

監修 泉谷昌志(消化器がん、がん生物学/東京大学医学部附属病院消化器内科)

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