食道・咽頭食道再建術
MDアンダーソン OncoLog 2018年8月号(Volume 63 / Issue 8)
Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL
外科技術の進歩が食物通路を回復
食道切除術または喉頭咽頭切除術を受けたがん患者では、食物通路の回復が生活の質(QOL)に非常に重要である。長年行われてきた再建技術によってほとんどの患者の食物通路は再建できるが、食道全摘術もしくは亜全摘術を受ける患者、または喉頭咽頭切除術を受ける患者で、先行して受けた手術もしくは放射線治療によって頸部組織に損傷を受けた患者には、特別な治療が必要となる。そのような治療には、食道再建のためのスーパーチャージ空腸弁移植術と、咽頭食道再建および頸部表面再建のためのキメラ型遊離皮弁移植術の2種類あるが、世界でもこのような手術ができる施設は少ない。
キメラ型皮弁術もスーパーチャージ空腸弁移植術も新しい手技ではないが、そのような手術が必要になることが滅多にないため、手術経験がある外科医の数も非常に少ない。テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの外科医はこうした手術をいち早く実施しており、どちらの手術についても比較的大規模な患者コホートにおける結果を報告している。この経験をもとに、できる限りたくさんの患者の食物通路を回復できるよう、どちらの手術についてもその技術と患者選択基準を改良し続けている。
食道再建
胸部食道または胃食道吻合部上部にがんがある患者の場合、食道の一部分またはほぼ全体を切除し、胃を直接残った食道に接合して食物通路を再建する。しかし、腫瘍が浸潤して胃の全体または一部分を切除する必要がある患者に対して、この手術を行うことはできない。さらに、以前受けた手術のために胃が使えない場合もある。
「胃が使えない場合や十分に長さが届かない場合、私たちはスーパーチャージ空腸弁を使います」と、形成外科教授Peirong Yu医師は述べた。この皮弁は、有茎皮弁のようにもとの血管の一部を保持し、遊離皮弁のように新しい血管と連結させるため、「スーパーチャージ」であると考えられている。
スーパーチャージ空腸弁をつくるには、約30 cmの長い空腸片を切離し、腸間膜を分離してその部分を延ばして整える。通常、上腸間膜動脈および静脈の第2枝からなる一連の腸間膜血管を切離し、その後、頸部の血管(左内胸動脈および静脈であることが多い)に吻合して、皮弁上部に血液を供給する。また第3枝を切離して腸間膜を伸ばすことが多い。上腸間膜動脈の第4枝からの血液供給は、皮弁下部への血管茎として維持される。
皮弁を配置するために、移植する部位と内胸血管が見えるように、まず第一肋骨、鎖骨、胸骨柄の一部を小さく取り除く。それから、皮弁の上部を上部消化管に接続し、血管を吻合する。胃の一部分が残っている場合、空腸弁の下部を胃に接合することができるが、そうすると胃逆流が生じることがある。したがって、ほとんどの場合、残存している胃を迂回し、ルーワイ再建術を用いて皮弁を小腸に接続する。
このスーパーチャージ空腸弁移植術の手技は非常に複雑で、形成外科医と胸部外科医の緊密な連携が必要である。「スーパーチャージ空腸弁移植術の成功に必要な外科のチームワークは、高度に組織化されたものです」と形成外科准教授のJesse Selber医師は語った。「全員が自分の役割を知っているだけでなく、他のチームメンバーの役割も理解していなければなりません」。
Selber氏は、この手術には著しい時間的制約が伴うと付け加えた。「腸をいったん腹部から切り離したら、1時間以内に胸部を通して頸部へ持っていき、顕微鏡下で血液供給を再びつながなければなりません」と語った。「そうしなければ、空腸弁は死んでしまい失敗に終わる可能性があります」。
「これは大きな手術で、合併症が生じる可能性があります」と、胸部心臓血管外科の教授で食道手術プログラム長のWayne Hofstetter医師は語った。「しかし、この手術を受けた患者の大半は、経管栄養が不要となります」。
咽頭食道再建と頸部表皮再建
喉頭咽頭摘出術を受けた患者は、咽頭食道再建についていくつかの方法から選ぶことができる。前外側大腿、橈骨前腕、または空腸から取った遊離組織皮弁を用いる手術、および鎖骨領域または大胸筋からの有茎皮弁を用いる手術などである。しかし、先行して頸部に手術や放射線療法を受けた患者の多くには瘢痕や血管過少があり、咽頭食道再建後に頸部切開創を閉じるのが困難あるいは不可能になることがある。
「こうした患者には皮弁が2つ必要です」とYu氏は述べた。「1つは患者が再び食べられるようになるための食道再建用、もう1つはその外側の被覆用です」。しっかりした被覆がなければ頸動脈などの重要な組織が危険にさらされるため、これは重要である。
こうした再建術のために、MDアンダーソンの形成・再建外科医はキメラ皮弁を使う。通常、前外側大腿から取るが、必要であれば他の部位から取ることもできる。キメラ皮弁は、2種類(またはそれ以上)の半独立の構成部分からなり、どちらも頸部で吻合された共通の動脈および静脈から血液供給される。
「皮弁の一部を食道再建に使い、残りの部分で頸部を被覆します」とSelber氏は述べた。「そして、すべての部位への血液供給を維持するように切断します」。
「頸動脈と鎖骨下動脈を守るために、皮膚再建に用いる皮弁には筋肉を少し含ませます」とYu氏は述べた。「これにより、重篤な合併症を防ぐことができます」。
前外側大腿皮弁のもうひとつの利点は、発声機能の回復が容易になることである。食道上部の再建に用いる大腿皮弁は堅く、食道または気管食道発声法に必要な振動を生じさせることができる。「大腿皮弁はピンと張ることができ、太鼓に用いられる素材のように振動します。空腸弁は柔らかく粘液を生じるので、発声の回復が一層困難になります」とYuは語った。大腿などの皮弁が食道上部の再建に向き、空腸や胃が食道下部の再建に向いているのはこのためである。
キメラ型皮弁術の合併症発生率を評価するために、Selber氏らは、キメラ皮弁による咽頭食道再建および頸部表皮再建術を受けた患者179名と、咽頭食道再建術を受けたが頸部表皮再建を必要としなかった患者115名の転帰を比較した。頸部表皮再建を受けた患者は、咽頭食道再建術のみを受けた患者よりも、咽頭食道瘻形成の発生率が有意に低く、他の合併症も同様の発生率だった。瘻形成の発生率が最高だったのは、先行して手術や放射線療法を受けていたが、切開部を閉じるための組織が十分にあったために頸部表皮形成術を受けなかった患者だった。この研究の成果を受けて、Selber氏は米国形成外科学会議から、2017年James Barret Brown Award(形成外科best clinical paper)を受賞した。
「この研究以前は、キメラ皮弁を用いるかどうかは、実際に皮膚を閉じられるかどうかによって決定していました」とSelber氏は述べた。「しかし、今では、患者が先に放射線療法や手術を受けている場合には、閉じられるかどうかにかかわらず表皮再建術を行えば合併症リスクが低いという知見に基づいて判断できます。再建外科医が患者の転帰に直接影響する重要な判断をする上で、この知見は助けになるでしょう」。
生活の質
食道または咽頭食道再建は、患者の生活の質を回復するという総合的なゴールに向かう重要な一歩である。特に、食物通路の再建はこのゴールに到達するために必要不可欠である。
「栄養と水分を完全に口から摂取し、食べ物の味を感じ、人と一緒に食事をできるかどうかはすべて生活の質にかかわる問題で、食道の食物通路を回復できれば解決できます」とHofstetter氏は語った。
頸部に手術や放射線療法を受けた患者にとって、発話と嚥下も生活の質の重要な要因なので、MDアンダーソンでは言語療法士が患者のこうした機能の回復を支援している(「嚥下機能を維持する治療」(MDアンダーソンOncoLog 8月号)参照)。
がんを克服した患者は、再建の成功によって得られた生活の質に感謝する。「10年前に治療した私の患者は、毎年あいさつにきてくれます」とYu氏は語った。
【写真キャプション】
<上>上皮弁再建術の写真
左:咽頭食道再建と頸部表皮再建に用いられる前のキメラ皮弁(共通の動脈および静脈によって血流供給された2つの組織部分からなる)。右:術後の患者。写真はJesse Selber医師の厚意による。
<下>食道再建用のスーパーチャージ空腸弁として用いられる空腸および腸間膜の血管の分離の準備をしている。写真はJesse Selber医師の厚意による。
For more information, contact Dr. Wayne Hofstetter at 713-563-9130 or whofstetter@mdanderson.org, Dr. Jesse Selber at 713-794-1247 or jcselber@mdanderson.org, or Dr. Peirong Yu at 713-794-1247 or peirongyu@mdanderson.org.
FURTHER READING
Sharaf B, Xue A, Solari MG, et al. Optimizing outcomes in pharyngoesophageal reconstruction and neck resurfacing: 10-year experience of 294 cases. Plast Reconstr Surg. 2017; 139:105e–119e.
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原文掲載日
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